あまりにも騒がしい孤独 の商品レビュー
山のように積まれたあらゆる本を圧縮機で潰す仕事をしているハニチャ。そんな仕事でも小さな喜びを見出しつつ潰し続ける。 汚物と美とが切り貼りされたような混沌とした文章だが、少しずつ物語が浮かび上がってくる。 知の結晶である本が人が街が圧縮され、垢まみれになりながらその中で生きて行...
山のように積まれたあらゆる本を圧縮機で潰す仕事をしているハニチャ。そんな仕事でも小さな喜びを見出しつつ潰し続ける。 汚物と美とが切り貼りされたような混沌とした文章だが、少しずつ物語が浮かび上がってくる。 知の結晶である本が人が街が圧縮され、垢まみれになりながらその中で生きて行く。抑圧。息苦しく、久しぶりに特異な読書を体験した。
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不思議な騒がしい世界。ひたすらに改行もなく独白を続ける主人公。記憶と現在、リアルと不思議が混ざり、彷徨うように移動していく彼に着いて行くだけで目眩がする。共感するような生温かい物語ではないがハッとする比喩の美しさに度々メモを取った。本の世界って広い。
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世界のありとあらゆる著作が『』付きで登場し、また数多の西洋美術も『』付きで散りばめられ、そしてだめ押しの『』聖書引用。これらはペダンティックに使われているわけではなく、シュールリアリズム上の「具」として撒かれているのだけれども、個人的には味わいを楽しむところまで至らなかった。 ...
世界のありとあらゆる著作が『』付きで登場し、また数多の西洋美術も『』付きで散りばめられ、そしてだめ押しの『』聖書引用。これらはペダンティックに使われているわけではなく、シュールリアリズム上の「具」として撒かれているのだけれども、個人的には味わいを楽しむところまで至らなかった。 地下の孤独な作業場に、延々と文字入りの紙類が雪崩のように捨てられてゆくイメージは面白い。番人である主人公が、捨てるべき文字と残すべき文字を選別し続けている、という世界観が秀逸。 チェコという国について「十五世代に渡って読み書きのできる民族」という説明がされており、心に留まった。チェコ文学を解するためのキーワードのような気がする。
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いわゆる世間の底辺にいながら、古紙処理係として紙屑をプレスする毎日の中で、魅力的な本を見つけては持ち帰り読むことを生きがいとしていたハニチャ。 時代の流れ、支配者と被支配者との関係によってそんなささやかな幸せさえも得られなくなる絶望と不条理に陰鬱な気持ちになりながら迎えたラストに...
いわゆる世間の底辺にいながら、古紙処理係として紙屑をプレスする毎日の中で、魅力的な本を見つけては持ち帰り読むことを生きがいとしていたハニチャ。 時代の流れ、支配者と被支配者との関係によってそんなささやかな幸せさえも得られなくなる絶望と不条理に陰鬱な気持ちになりながら迎えたラストに、私は希望を見た。人によって解釈は変わると思われる、面白い作品。
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淡々と孤独に地下にある古紙圧縮機械を作動し仕事をする主人公。心のなぐさみは材料として送られてきた本の中に良書があり、その世界に陶酔する。友達はネズミ。再生される物は、かつて意味を持っていた物なのに現在は不要とされてしまった物で、チェコのプラハの春後、同僚は次々国外脱出する中、古紙...
淡々と孤独に地下にある古紙圧縮機械を作動し仕事をする主人公。心のなぐさみは材料として送られてきた本の中に良書があり、その世界に陶酔する。友達はネズミ。再生される物は、かつて意味を持っていた物なのに現在は不要とされてしまった物で、チェコのプラハの春後、同僚は次々国外脱出する中、古紙=人間の再生を、生の体験によって書き綴った。 重く暗い生活を表現するというより、体制によってくずれてしまう、世の中のはかなさを表現している感じで体制批判はしていないので、背景を知るか知らないかで大きく印象が変わる。
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イジー・メンツェル監督の映画は大好きだけど、フラバルの原作を読むのはこれがはじめて。 共産主義体制への大きな変動の中で、地下の作業室送りになった男は、発禁処分とされた本(なかには印刷されたまま一度も人の目に触れないまま廃棄される本もある)を、来る日も来る日も、ネズミやハエと一緒に...
イジー・メンツェル監督の映画は大好きだけど、フラバルの原作を読むのはこれがはじめて。 共産主義体制への大きな変動の中で、地下の作業室送りになった男は、発禁処分とされた本(なかには印刷されたまま一度も人の目に触れないまま廃棄される本もある)を、来る日も来る日も、ネズミやハエと一緒に押し潰して塊にする作業を続けている。塊の中心部に美しい言葉を閉じ込め、その周囲を美しい複製画で飾りながら。 「心ならずも教養を身に着けた」主人公は、本への暴虐行為を行いつつも、本に対する限りない愛情をもってその破壊をオブジェとし、救い出した美しい言葉を蒐集しつづける。グロテスクさと美が混然とする中、つねにビールで酔っぱらっている主人公の脳裏を訪れるのは、過去の恋人たち、地下室を訪れるジプシー女たちのトルコ石色のスカート、老子とキリスト…まるで破壊され圧縮された本のように、混迷しながらも濃密な文章だ。 しかし、本を葬る行為さえもが圧倒的な近代的機械と近代的な人間たちの前によって不可能とされるのを目の当たりにし、本がただの物質に還元されていく世界が不可避であることを悟った主人公は、自らを本とともに押し潰し葬ることにする。その直前に主人公が幻視する、プラハの街そのものが押し潰されていくイメージは圧倒的だ。近代化、あるいは近代化とともにもたらされた何かは、砲弾さえもなしえなかった破壊をもたらすものであったのか。言いようのないイメージと哀しみが後に残る。
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痛々しいといえば空々しい。この物語は社会的地位がなくなってしまい生きていけなくなったと思い詰める男ハニチャと、新しい社会主義労働班の若者たちと、ナチスに殺された名前を思い出せないジプシーの少女と、糞まみれのマンチンカで出来ている。たくさんの本や古紙を廃棄する仕事をしているハニチャはそれらの中から美しい本をを救って自分のものにするのが楽しみだ。はっきり言って飲み過ぎのアル中の労働者だけれど、文学や哲学、美しい文章の載った本たちを自分の部屋に持って帰りなにかのために必要だと思っている。でも結局のところ、彼は中年の労働者でしかなくて、仕事を追われたらもう死ぬしかない。死ぬしかないと思ってしまう。どんなに思い出さないようにしてもどんなに他のことを考えたとしても最後に叫ぶのはナチスに殺された恋人、今は名前を思い出した少女イロンカのことだった。死のうとして彼女を思い出して叫ぶ。そこに少しだけ救いはあるのかもしれなかった。所々マンチンカの出てくるところは笑える。
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故紙処理係のハニチャは毎日どこからともなく運び込まれてくる大量の故紙を潰すのが生業である。 時折故紙の中に美しい本を見つけてはそれを救い出し、ビールを煽っては青年と老人(イエスと老子)の幻を見る。 彼が潰している「故紙」の正体は、共産党政権の下禁じられた書なのだ、ということに途...
故紙処理係のハニチャは毎日どこからともなく運び込まれてくる大量の故紙を潰すのが生業である。 時折故紙の中に美しい本を見つけてはそれを救い出し、ビールを煽っては青年と老人(イエスと老子)の幻を見る。 彼が潰している「故紙」の正体は、共産党政権の下禁じられた書なのだ、ということに途中まで読んで気がついた。 表現の自由も知る自由も制限された世界の底辺で、ひっそりと知を貪り「心ならず教養が身についてしまった」ハニチャ。 一方で昔愛した娘の名前も思い出せないハニチャ。 娘はナチズムの犠牲者だった。 生き延びたハニチャはスターリニズムの犠牲者である。 強大な国に囲まれ、蹂躙されてきた国の歴史がそこにはある。 “三十五年間、僕は故紙に埋もれて働いているーこれはそんな僕のラブストーリーだ” こんなラブストーリー反則や。 不条理や。 せや、これがチェコ文学や。
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初チェコ文学、初東欧文学 かなりグロテスクな描写もあるのにそれが気にならない イエスと老子の対比が力強い お取り寄せの図書館本(県の本、我が市にはなかった…) もっと読まれてほしいな、今後フラバルは買うことにします 多分再読したくなる
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螺旋状の環をぐるぐるとたどるように物事は進み、同一円上をたどっていつの間にかはじめに戻る。「未来への前進が本源への後退の一つになり、おまけに僕はそのすべてを、身をもって体験している。(P.68)」 いや。同じではない。同じようではあるけど少しずつ違っている道のり。でも行き着く先は...
螺旋状の環をぐるぐるとたどるように物事は進み、同一円上をたどっていつの間にかはじめに戻る。「未来への前進が本源への後退の一つになり、おまけに僕はそのすべてを、身をもって体験している。(P.68)」 いや。同じではない。同じようではあるけど少しずつ違っている道のり。でも行き着く先はいつも始めのところで通る道も結局はいつか来た道のように思える。けれど似ているだけでやっぱり同じではない。 廃棄された本をプレス機で押しつぶす仕事をしている主人公ハニチャの一人語り。 廃棄された本の中に見つけた美しい本を救い出しては、収集し「心ならずも教養を身につけ」る。収集しすぎた本の山に自分がプレスされる不安、旧型プレス機のエンジニアであるハニチャが新型の巨大プレス機に仕事を奪われ、町ごとプレスされる不安、そして行き場を失ったハニチャはプレス機の中で自分自身をプレスしようとする自殺願望。 ナチズムからスターリニズムという暗い時代を背景としてハニチャは不条理な螺旋構造の日常をぐるぐる巡る。 とはいえ、暗く世を儚んでいるわけでもなく、不条理な日常をビールがぶがぶ飲んで今日も「あーあ。」みたいにメランコリーとともにやりすごすハニチャ。いいな。 ネズミ戦争とか、線路上においた金属を電車が轢いてできる金属片を、そこから妄想できる形状ごとに分類するのが趣味の叔父さんとか、印象的で愛おしい挿話もいいな。 「静かな瞑想の中で、矛盾に満ちた道徳的状況の解決し難さについての思いを巡らせていた。」 「人間の体は砂時計なのだと思うー下にあるものは上にもあり、上にあるものは下にもある。」
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