エセルとアーネスト の商品レビュー
レイモンド・ブリッグズ(1934〜)、イギリスの絵本作家。「風が吹くとき」という、核戦争勃発時に政府の言う通りに家の中に避難して、ゆっくり死んでゆく夫婦を描いた人。チェルノブイリ事故より少し前の作品(1982)であり、私たちには衝撃的だった。現代の子供たちには「スノーマン」の作者...
レイモンド・ブリッグズ(1934〜)、イギリスの絵本作家。「風が吹くとき」という、核戦争勃発時に政府の言う通りに家の中に避難して、ゆっくり死んでゆく夫婦を描いた人。チェルノブイリ事故より少し前の作品(1982)であり、私たちには衝撃的だった。現代の子供たちには「スノーマン」の作者と言った方が通りが良いか。 その彼の、お父さんとお母さんが出会って、結婚して、亡くなるまでの「ほんとうの物語」を、ときにマンガのようにコマ割りで、ときに一頁を使って、リアルに描いた絵本。牛乳配達員のアーネストと元メイドのエセルは、戦中戦後を通じて下町の通りに面した煉瓦造りの家を離れることなく、一人息子を育て上げた。家の景観は41年間(空襲でボロボロになった時と大きくなった梨の木以外は)ほとんど変わらず、2人が亡くなると他の所有者に「FOR SALE」されてゆく。イギリスの住宅事情がよくわかる。 戦争はアーネストにおびただしい子供の遺体を見せ、息子のの学童疎開に悩み、「ヒロシマに原子爆弾、10万人が死亡」というニュース(実際の死亡者は20万人だけど)を聞けば、「これで戦争はなくなる」と呟く(「だって開戦した途端、みんな死んじゃうじゃないですか」)。戦後しばらくは英国は徴兵制だったので、息子も成人した後は徴兵されていた。 労働党支持のアーネストと保守党支持のエセル。2人は新聞を通して、いつも会話している。寝室には、息子の資格証書と父親の退職証書を額に入れて飾っている。記念写真は7つも立てかけている。息子の長髪を嘆き、就職を心配し、精神疾患の嫁さんをもらったことを心配している。「あの子たち、分裂症の件はあるけど、とても幸せそうじゃないか」。どちらにせよ、子どもたちの巣立ちは寂しそう。そうやって2人は、エセルのなくなったあとに追うように直ぐにアーネストも亡くなったのである。 なんと温かい目で(ときにはシニカルな視線で)、自分の両親を見ているのか。英国庶民の戦中戦後が、立体的に見えて来る良書でした。seiyan36さんのレビューを5月3週に見て紐解いた。
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著者、レイモンド・ブリッグズさん、どのような方かというと、ウィキペディアには次のように書かれています。 レイモンド・ブリッグズ(Raymond Briggs, CBE, 1934年1月18日 - )は、イギリスのイラストレーター、漫画家、作家。大人向け作品と子供向け作品の、双方...
著者、レイモンド・ブリッグズさん、どのような方かというと、ウィキペディアには次のように書かれています。 レイモンド・ブリッグズ(Raymond Briggs, CBE, 1934年1月18日 - )は、イギリスのイラストレーター、漫画家、作家。大人向け作品と子供向け作品の、双方で大きな成功を収めた。 ロンドンのウィンブルドンで、女中の母エセルと牛乳配達人の父アーネストの間に生まれた。ブリッグズは幼少時から漫画書きの道を追い続け、母親がこの利益にならない趣味をやめさせようとしたのにもかかわらず、彼はウィンブルドン・カレッジ・オブ・アートとスレイド美術学校に通った。短期間絵画を学んだ後、ブリッグズはプロのイラストレーターとなり、すぐに児童文学作品での活動を開始した。 本作は、著者の、父アーネストと母エセルが一緒になる頃から亡くなるまでを、一気に書き上げた作品です。 かなりの部分が実話であると思われます。 いやあ、良い内容ですね。 まっとうに生きた夫婦が描かれています。 絵本なので、とても読みやすいです。 本作の内容は、次のとおり。(コピペです) 絵本作家ブリッグズが描いた両親の伝記絵本 本書は絵本作家ブリッグズの両親の半生を描いた絵本です。牛乳配達の父と母の結婚に始まり、 息子の誕生、第2次世界大戦中の苦難…と、激動の20世紀を生きた庶民の歴史を、暖かなまなざしで描いた感動の物語です。 ●2022年8月11日、追記。 著者、亡くなられたようです。 ご冥福をお祈りします。 以下、日経新聞の記事です。 レイモンド・ブリッグズ氏(「スノーマン」で知られる英絵本作家)AP通信などによると、8月9日死去、88歳。死因など詳細は不明。 1934年、ロンドン生まれ。広告業界で働いた後、子ども向けのイラストレーターとして頭角を現した。代表作となった文字のない絵本「スノーマン」(78年)は世界中で550万部以上販売され、アニメーション化もされた。
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おかん(元メイドのクラス)とパパ(労働者階級)の、家庭内の格差と所属する階級に基づく配偶者へのいろいろが情けも容赦もなく描かれる。 その割に、彼氏が推す英国人俳優が、認知症で呆けた母親の口からすごいものとして出る(それを息子が聞いて悲嘆にくれる)とか、結構いい夫婦な感じも描かれ...
おかん(元メイドのクラス)とパパ(労働者階級)の、家庭内の格差と所属する階級に基づく配偶者へのいろいろが情けも容赦もなく描かれる。 その割に、彼氏が推す英国人俳優が、認知症で呆けた母親の口からすごいものとして出る(それを息子が聞いて悲嘆にくれる)とか、結構いい夫婦な感じも描かれる。 なんか、第二次世界大戦の後のイギリスは、戦勝国な感じがない、と言ふのは 未だに違和感が。 あ、こっちで両親のいろいろ持ってって貰ふの、「救世軍」だ。
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「さむがりやのサンタ」で有名なレイモンド・ブリッグズが自分の両親を描いた伝記的絵本。 イギリスの労働者夫婦が、つましく誠実に暮らしていた様子がコマ割り絵本で丁寧に描かれている。 二人の出会いから亡くなるまで、第二次大戦を生き抜き生活の大きな変化を経験し、この時代の誰もが体験したで...
「さむがりやのサンタ」で有名なレイモンド・ブリッグズが自分の両親を描いた伝記的絵本。 イギリスの労働者夫婦が、つましく誠実に暮らしていた様子がコマ割り絵本で丁寧に描かれている。 二人の出会いから亡くなるまで、第二次大戦を生き抜き生活の大きな変化を経験し、この時代の誰もが体験したであろうことを細かく描いている。
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『ジェントルマン・ジム』や『風が吹くとき』の夫婦のモデルは、ブリッグズの両親だったのか!と腑に落ちた。 典型的な労働者。信心深く、真面目にこつこつ働き、家族を大切にし、家や庭の手入れをする。この努力を続けていれば、きっと暮らしは少しずつ良くなるに違いないと信じている。高等教育は受...
『ジェントルマン・ジム』や『風が吹くとき』の夫婦のモデルは、ブリッグズの両親だったのか!と腑に落ちた。 典型的な労働者。信心深く、真面目にこつこつ働き、家族を大切にし、家や庭の手入れをする。この努力を続けていれば、きっと暮らしは少しずつ良くなるに違いないと信じている。高等教育は受けていないので難しいことは良くわからないが、基本的には政府を信じ、国を愛している。しかし、戦争が起き、ささやかな幸せは翻弄される。 これを読んで、ブリッグズの政治や戦争に対する怒り、憎しみが、血肉を持ったものであり、両親に対する深い愛と悔恨に基づくものだということがよくわかった。 母が38歳の時にできたたった一人の子どもで、両親の愛を一身に受けながら、期待を裏切り(オックスフォードやケンブリッジへ行きオフィスで働く人になってほしかったのに、髪を伸ばして美大に行きヒッピーになり絵描きになってしまった。普通の娘と結婚してほしかった、孫も見たかったのに、精神に障害のある妻をめとり子どもは作らなかった)、それでもなお愛され続けた後ろめたさ。 やさしくしてやりたいのに、頑迷さやものわかりの悪さにイライラしてついきつく当たってしまう。こういうことってよくあることで(私も心当たりがありすぎるくらい)、だからこそこの物語が普遍的な輝きを持つのだと思う。 母の遺体が病院で放置されているシーン、父が亡き妻を思いながら一人で暮らすシーンには泣ける。(父には猫だけが寄り添う) こういう形でしか両親への愛情を表せない、懺悔の気持ちもあっただろう。 ブリッグズの妻を描いた本はないのかな。それもぜひ読んでみたい。 ネットでレイモンド・ブリッグズの顔を見たら、お父さんそっくりだった。
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レイモンド・ブリッグスが、自分の両親が結婚し、子どもをもうけ、老いて最期を迎えるまでを淡々と綴る。ふたりは第二次世界大戦中のロンドンに暮らし空襲などを経験はするが、物語の運びは特に大きな事件を据えるでもなく、つましく暮らしたごく普通の夫婦の半生をただ辿るだけにとどめる。ふたりは常...
レイモンド・ブリッグスが、自分の両親が結婚し、子どもをもうけ、老いて最期を迎えるまでを淡々と綴る。ふたりは第二次世界大戦中のロンドンに暮らし空襲などを経験はするが、物語の運びは特に大きな事件を据えるでもなく、つましく暮らしたごく普通の夫婦の半生をただ辿るだけにとどめる。ふたりは常に会話している。あうんの呼吸を見せるときもあれば、どこかで妙にずれている(時の方が多い)。そして、それこそが日常。それなのに、深く深く胸に残る物語になっているのは、さすがレイモンド・ブリッグス。
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