ノーベル賞受賞者の精子バンク の商品レビュー
文庫発売時(2007年?)に見つけて、読みたいなあと思ったまま10年経ってしまった本。結論から言うと、読んで良かった。 1980年に、富豪ロバート・グラハムによって設立された、「ノーベル賞受賞者のみ」を掲げた精子バンク。1999年に閉鎖されるまでに、200人ほどの子供が生まれた...
文庫発売時(2007年?)に見つけて、読みたいなあと思ったまま10年経ってしまった本。結論から言うと、読んで良かった。 1980年に、富豪ロバート・グラハムによって設立された、「ノーベル賞受賞者のみ」を掲げた精子バンク。1999年に閉鎖されるまでに、200人ほどの子供が生まれたが、その実態は看板とは全く別だった。 導入部とサブタイトルで、そのバンクによって生まれた子供の行く末をメインとしているように錯覚するが、それは全体の1/3ほどである。仮にその部分だけを押し通して、それぞれのケースレポートだったとしたら、それはそれでつまらないであろう。 つまり、先述したとおりであるが、「ノーベル賞受賞者」の精子など保存していなかったし、場合によってはどこの誰だかわからないような人の精子が使われていたという実態。 看板にある通りの選民思想(優生学)、無意識にそれを利用しようとする親のエゴ、様々なものが絡み合いながら存在している、商用の精子バンクであるので、どこをどう取材しても、ねじれた現実しか出てこない。そこが本書の面白いところである。 それだけでも読む価値はあるのだが、そこで思考停止になる人には、少々危ない内容である。 というのも、本書は「ジャーナリズム」としては、落第点しか取れないものだ。この本には、報道であり、取材の倫理というものがこれっぽっちも存在していない。 1990年代後半までの取材なら、まだ許せたのかもしれないが、本書が描かれたのは、読んでいても解るのだが2001~2004年である。その辺りに弱い日本でも「個人情報保護法」なるものが動き始めている時期だ。 そもそも、本書の中でも「精子バンクに登録してみた」という稿で、ドナーとレシピエント(購入者)は、一切接触を持たないことを前提としているではないか。 なのに、この作家(?)は、見つけたドナーと生まれた子供を会わせてしまう。会いたくないという意思を示している人の連絡先をドナーに教えてしまう。 ダメだろ。 巻末に近い項で、ドナーの精子から生まれた子供を「トゥルーマン・ショーのように」と批判的に書いているにもかかわらず、自分が見つけたドナーを、レシピエント家族に紹介し、結果として家庭崩壊につながっている(繋がってないと本人は書いているが、離婚している)。 そういうドキュメンタリーのあり方に疑問を呈する部分まで読めたとしての☆4。無批判に読んでしまいそうな人には☆2という所。かなりの劇薬系文庫である。
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読書録「ノーベル賞受賞者の精子バンク」2 著者 デイヴィッド・プロッツ 訳 酒井泰介 出版 早川書房 p410より引用 “彼の一番のお気に入りで数学の神童だった ドロンはしかし、自然科学を拒み、人間の精 神性という何よりもソフトな学問を選ん だ。” 目次から抜粋引用 “天才...
読書録「ノーベル賞受賞者の精子バンク」2 著者 デイヴィッド・プロッツ 訳 酒井泰介 出版 早川書房 p410より引用 “彼の一番のお気に入りで数学の神童だった ドロンはしかし、自然科学を拒み、人間の精 神性という何よりもソフトな学問を選ん だ。” 目次から抜粋引用 “天才づくり 精子探偵 のら犬一家 それでもやっぱり父は父 天才精子バンクの最後” 天才の精子バンクと、それらに関わった人 達を追い求めたノンフィクション。 同社単行本『ジーニアス・ファクトリー 「ノーベル賞受賞者精子バンク」の奇妙な物 語』改題文庫版。 天才精子バンクと優生学の関わりから実際 に生きている提供精子から生まれた人物への インタビューまで、粘り強い取材を元に書か れています。 上記の引用は、精子提供で生まれた子供の その後について書かれた部分での一文。 今現在は、遺伝で多くの大きなことが決まる との説のほうが強いらしいですが、遺伝で決 まっている通りに人が生きようとするかは 疑問です。 自分に見切りをつけた分、子供に期待しす ぎると、あまり良いこともなさそうですね。 なるようにしかならないとしか、言えないの かも知れません。 ーーーーー
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思った以上に面白かった。同時に、いやな感じも残るんですけどね。 わたしが、人工授精とか、この手のことで知っている知識は、昔読んだ夏樹 静子の短編ぐらい。 今調べてみると、「ガラスの絆」っぽい。 あと、海外のフェミニスト系SFかなにかで、ホモセクシャルの友だちのために子宮を提供...
思った以上に面白かった。同時に、いやな感じも残るんですけどね。 わたしが、人工授精とか、この手のことで知っている知識は、昔読んだ夏樹 静子の短編ぐらい。 今調べてみると、「ガラスの絆」っぽい。 あと、海外のフェミニスト系SFかなにかで、ホモセクシャルの友だちのために子宮を提供する女友達の話を読んだような気がします。 多分、女性の作家で短編。 確か、ホモセクシャルの友だちのために子宮を提供する女性は、ウェンディとか呼ばれて、社会的に認められているような設定だったような記憶が……。 これは、全然、検索してもわからないなぁ。多分、ハヤカワSF。 というわけで、まあ、天才の遺伝子から天才が生まれるかどうかは興味ないんだけれど、それが生み出す人間関係は、どうなっていくんだろうという興味があります。 「馬とかは、完全に血筋ジャン」とか言い出す人もいるかもしれませんが、あそこまで特化してやったことで、サラブレットって、自然に生きて行くためのものを一杯捨ててしまっていて、多分、繁殖されている分には良いけど、人間の保護がないとかなり生きていけない動物になってしまっている気がします。 あぁ、デザインベビーの話だとすると「私の中のあなた」も、関係ありか。 あれは、姉を生かすために妹を産むというお話でした。 どうしても、子どもを持ちたいというその思いには応えたいとは思うけれど、あんまり人が触れてもいい領域ではない気もしています。 諦めろというのは、傲慢なのかもしれないけれど。それでも、不妊治療は、自分の精神や肉体をつぶしてまですることではないというのが、今の時点のわたしの判断です。 いや、それは、この本のお話からはちょっとずれているか。 人工授精という枠の中に、「デザインベビー」、「不妊治療」、「家族」などいろいろな問題が入っていて、それが問題を難しくしていますね。 デザインベビーが、デザイン通りじゃなかった時にそれをうけとめることができるのか。もちろん、普通に産まれてくる子たちですら、すべて受け入れられているわけではないのに。 じゃあ、妊娠を免許制かなにかにして、ちゃんと育てられる人だけに許可するのか?それも、違うよねぇ……。 それもなんか、優生学的なにおいがする気がする。 基本、子どもが生まれるのは良いことだと思っているんです。 どんどん生まれて、どんどんしあわせになって欲しいんです。 保証なんか何もないこの世の中だけども。 生まれてよかったのかどうか、決めるのは自分。 生まれてこなければ、それすら、決められない。
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※このレビューにはネタバレを含みます
ノーベル賞受賞者や優秀な業績を挙げた人達の精子による優秀な子孫を残すために設立されたレポジストリー・フォー・ジャーミナル・チョイスとロバート・グラハムの軌跡を追ったノンフィクション。 ノーベル賞受賞者の中には、自分の優秀な遺伝子を子孫に残したいと考えた人達が居た。例えば、トランジスタの発明でノーベル賞を受賞したウィリアム・ショックリーは、優生学的な思想の持ち主で、このような試みに賛同し、自身の精子を提供したことで知られている。ロバート・グラハムは割れない眼鏡レンズの発明で財を成した後、この会社を立ち上げ、多くの優秀な人達にアプローチして、「種付け」を行うビジネスを始めた。精子を提供する優秀な男性と優秀な子供が欲しい女性の思惑で多くの子供が生まれたが、その多くは理論通りには行かず、生活環境により普通の子供として育っている。精子バンクとそれを利用して子供を設けた母親について、その後を追跡し、このビジネスのあり方と家庭や子供に関する様々な問題を提起する。ロバート・グラハムの計画は彼の死去とともに終わったが、似たようなビジネスは未だに存在するらしい。 競馬では、優秀な血統の牡馬を、優秀な牝馬に種付けし優秀な競争馬を生産するのが普通に行われている。しかし、必ずしも人間の思惑通りに行かない事が多い。馬のような種付けの考えを人間に当てはめるのは、倫理上問題があるが、彼はそれを実践しようとした。優秀な子供を遺伝子に求めたくなる気持ちは判らないではないが、子供の頃は天才でも大人になると凡才になる例はいくらでもある。結局、育った環境や教育、本人のやる気等後天的な資質が影響するのは間違い無い。でもこういうビジネスは廃れないだろうなあと思う。子供が優秀でなくても、父がノーベル賞受賞者だったら、「箔」が付くと考える人達も多いと思う。
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人工授精で天才の精子を使って生まれた天才というのはフィクションの世界でよく使われる設定だし、実際私もいくつか見たことがあるか、では実際はどうなのか。頭脳は遺伝子に起因するのか、それとも環境か。 そんな興味深い問いに、しかし本書は明確には答えていない。実在したノーベル賞受賞者精...
人工授精で天才の精子を使って生まれた天才というのはフィクションの世界でよく使われる設定だし、実際私もいくつか見たことがあるか、では実際はどうなのか。頭脳は遺伝子に起因するのか、それとも環境か。 そんな興味深い問いに、しかし本書は明確には答えていない。実在したノーベル賞受賞者精子バンクは様々な事情(受精可能な精子の不足、顧客である女性がそもそも頭脳よりも容姿や健康や運動能力を重視したなど)により、優れた業績なもののノーベル賞受賞者ではない男性の精子を、行く行くは(言ってしまえば)凡庸な男性の精子を取り扱うようになり、実際ノーベル賞受賞者の精子で受精した子どもは皆無という有様だった。 生まれてきた子どものその後はほとんど守秘義務やプライバシーの尊重により明らかにはならず、明らかになっている子どもについても、確かに優秀な子どもは数多く存在するが、母親自身も優秀で尚かつ教育熱心なタイプだったため、それが優秀な遺伝子のためなのかそれとも氏より育ちなのか、区別は付かない。唯一天才と呼べる業績を残した子どもも(これが一番重要なことだが)、後に「遺伝子によって天才になれた人間」と目されることに重圧と嫌悪を感じている。 本書が記しているのは、寧ろ精子バンクの現実(精子ドナーの匿名性の是非、生まれてきた子どもと育ての父の関係の難しさ、精子ドナーを選り好みする行為に潜む無意識の優生学的意識など)と歴史(人工授精への反発、優生学的な選民思想から始まったノーベル賞受賞者精子バンクの功罪など)がメインだ。天才児のレシピは、未だ人類の手に届かぬところにある。 個人的には、遺伝的な繋がりを否定するのも極論だが、何でもかんでも遺伝子に理由を求めるのは子どもの努力を否定するようで不愉快だ。子どもに優れた資質を与えたいなら生来の素質よりも教育に力を注ぐべきだと思うし、それで期待通りの子どもが育たなかったからといって文句を言うのはお門違いだと思う。 それでも、自分の理想とする子どもを求める人間の欲望は止められないだろう。それは何も遺伝的に優れた子どもを求めることだけではない。病気や障害を持たず五体満足で生まれてほしい、女の子の方が嬉しい、背は高い方がよい、髪は黒い方が良い、目は青? それとも緑? そんな風に、人は我が子の青写真を描いてしまうし、科学の発達によりその選択可能範囲は広がっていく。それは止めることができない。 著者の主観が多分に混じってはいるが、概要から読み取れる「ノーベル賞受賞者精子バンク」の設立者たちは、「優れた人間は優れた遺伝子を多く世に残し、劣性遺伝子を駆逐すべきだ」と偏見に満ちた愚考を信仰した。だが、彼らは真剣だった。滑稽で侮蔑されるべき考えではあったが、彼らは真剣に人類の行く末を憂えて精子バンクを設立し、そして人々はそんな彼らの考えを正さず、それこそ偏見に満ちた態度で、ただ嘲った。 精子バンクは簡単に答えを出すことの出来ない問題や矛盾を多くはらんでいる。それでも、個人的な主観を言わせてもらえば、大切なのは優れた遺伝子を見つけ出すことでも、優れた人間を量産することでもない、子ども達に幸せな(そして人生を抑圧しない)環境を作ることだろう。
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2001年2月 ロバート・グラハムの遺伝子への情熱 天才づくり 精子探偵 ドナー・コーラル ドナー・ホワイト ノーベル賞受賞者精子バンク有名人の誕生 のら犬一家 ドナー・ホワイトの秘密 やってみた精子ドナー ドナー・コーラルの正体 喜びを見出したドナー・ホワイト それでもやっぱり...
2001年2月 ロバート・グラハムの遺伝子への情熱 天才づくり 精子探偵 ドナー・コーラル ドナー・ホワイト ノーベル賞受賞者精子バンク有名人の誕生 のら犬一家 ドナー・ホワイトの秘密 やってみた精子ドナー ドナー・コーラルの正体 喜びを見出したドナー・ホワイト それでもやっぱり父は父 天才精子バンクの最期 2004年9月
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このノンフィクションの切ないところ、それは、人工授精という正常でない出産を経て生まれることと子供を設けられない(不妊)というものを天秤にかけなければならないからです。不妊よりはいい、と受け入れるのか、そうでないのか… 実在したノーベル賞受賞者の精子バンクから生まれた子供たちと...
このノンフィクションの切ないところ、それは、人工授精という正常でない出産を経て生まれることと子供を設けられない(不妊)というものを天秤にかけなければならないからです。不妊よりはいい、と受け入れるのか、そうでないのか… 実在したノーベル賞受賞者の精子バンクから生まれた子供たちとその家族、ドナーを追跡したノンフィクションです。 バンクが閉鎖されたあと、追跡を可能したのはeメールとWEBでした。
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IQの高い男性の精子を扱う精子バンクの話は以前「世界まる見え!テレビ特捜部」で見たことがあった。なにぶん子供の頃に見た番組のことなので記憶が曖昧だが、内容はなんとも無邪気なもので、精子ドナーのプロフィールはカタログ化され、まるでカタログショッピングでもするかのように精子が注文でき...
IQの高い男性の精子を扱う精子バンクの話は以前「世界まる見え!テレビ特捜部」で見たことがあった。なにぶん子供の頃に見た番組のことなので記憶が曖昧だが、内容はなんとも無邪気なもので、精子ドナーのプロフィールはカタログ化され、まるでカタログショッピングでもするかのように精子が注文できるかのような触れ込みだった、ような気がする。少なくとも、ヒトラー的な優生学の暗い熱情を想起させるようなモノは無かった。単に、顧客の嗜好にマッチするような商品を集めた結果が、IQ130以上のドナーの精子だったという風情。実際、精子バンクの品質競争は商品の性質上そこに帰着せざるを得ないわけで、むべなるかな、といった感もある。しかしながら、本書がフォーカスする「レポジトリー・フォー・ジャーミナル・チョイス」はちょっと違う。レポジトリーはノーベル賞受賞者の「優秀な」遺伝子を世に広げることを目的としていた。そこには、人種改良の意図があった。レポジトリーが為したのは育種学的試みであった。そんな歪んだ精子バンクの末路を描いたのが本書である。精子バンクの子供達と母親のインタビューからなるドキュメンタリは興味深かったが、精子バンクについての総括は予定調和的なもので、一冊の本としてはややまとまりに書ける印象だった。面白そうな題材を扱っているだけに、ちょっぴり残念。
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