日本霊異記(上) の商品レビュー
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訳者による解説が良かった。それにつきる。 最初の『はしがき』で『日本霊異記』の位置づけやその著者についてを簡潔に解説してあり、それだけでも面白いのだが、『因果応報は、景戒にとって歴史観・社会観の原理であった』というように、本書の著者が持っていた概念や本書のテーマについても述べている点も良い。 この点を知らずに現代人の感覚で読み始めると、著者に都合が良いように話を強引にこじつけ、結びつけているように見えて読み進めるのが辛いのではないかと思った。本書の最初に注意書きのように解説がしてあるので「当時の文化人の目を通すとこのような論理で見えていたのか」と思いながら読み進められた。 また、この手の本の解説は、原著の世界観に入り込み、酔いしれているように感じるものも多いが、本書の解説は原著に肩入れしすぎず第三者の視点寄りに書かれているのが良い。 説話の区切りごとに短い解説が挟まれるが、読んでいて「ん?」と思った部分では「別々の説話のつなぎ合わせであろうことや、そのために初期の設定と途中以降の内容に矛盾が生じていること」を指摘していたり、「随分持ち上げているな」と思えば『ちょっと賞賛しすぎている感がないわけでもない』とそっけない態度である。 「僧侶が物や金を仏に望むのは教えと矛盾していないか?」と思っていれば、『(この説話は)仏教界の理想をあらわしたものではなく、どちらかといえば世人教化のための方便として』と本書の目的についても解説されている。 本書内容は多くが仏教の因果応報に絡めたものだが、最初の数話は仏教伝来以前の説話であるのでテーマと関係が無い内容であったり、「仏の教えに反してないか?」という内容もちょこちょこ見られる。 因果応報についても現代の感覚では「偶然だな」「ちょっとこじつけが過ぎる」と思うものも散見される。また、僧侶が修験者や陰陽師のような働きをしている話も多く、現代の感覚では違和感がある。 当時の様子ををよくよく考えてみると空海なんかはかなり呪術っぽいことをしているので、この頃の仏教というのは後の時代の純化、細分されたものではなく、オカルト的な要素をまとめて内包していた原始的なものだったのかなと思った。飛鳥時代以降の原始仏教から現代につながる変化を見ていると思うとそれはそれで面白い。 現代語訳の部分だけを読めば内容的にも薄い本だが、訓み下し文と文釈も読めばまた違う味わいがある。 本書は奈良時代に成立したものであるので、平安時代の文章との差異や変遷を感じるのも面白い。 山城が(本書成立時の都である奈良の背側にあるので)山背と書かれているように現代と同じ読みでも漢字の表記が異なっているものも多くあり、言葉のルーツや日本語の変遷(中国語から日本語への変遷?)を感じられる。文法もわずかに違いがあるように感じがした(;専門的な知識が無いのでコレは私の全くの勘違いかもしれない)。 古事記のような神話時代を扱ったものは、高貴な人の逸話や歌であっても内容はかなり野暮ったく読めたものではないと感じたが、奈良時代の説話ともなると現代につながる精神性を感じることができた。 ひとくくりに「古典」と言っても、奈良時代以前から江戸時代のものまで広い年代に渡っており、書き手の身分や背景、当時の世の中の雰囲気や風俗、文法や精神性にも違いを感じることができるなと思った。
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この巻では、日本霊異記の全三巻のうち上巻にあたる書籍です。また、五世紀から奈良時代の初期までの説話が本文、現代語訳、語釈、解説の順になって読みやすくなっています。
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[ 内容 ] <上> 日本霊異記は、日本最古の説話集。 奈良末~平安初期に成立した。 巻頭の第1話は、雄略天皇時代(5世紀)の奇談。 以後約4世紀にわたる説話120篇ほど。 記紀・万葉集だけを上代人の全容と信じていた者は、上代の半面を霊異記に見て驚愕する。 霊異記の作者は、奈良西...
[ 内容 ] <上> 日本霊異記は、日本最古の説話集。 奈良末~平安初期に成立した。 巻頭の第1話は、雄略天皇時代(5世紀)の奇談。 以後約4世紀にわたる説話120篇ほど。 記紀・万葉集だけを上代人の全容と信じていた者は、上代の半面を霊異記に見て驚愕する。 霊異記の作者は、奈良西京の薬師寺景戒(きょうかい)。 彼は悪行は必ず悪結果で報いられる、善行は好結果を生むと熱心に信じ、彼と同時代の説話、及び上代以来の説話に、その理法を見出そうとした。 <中> 日本霊異記(上・中・下)3巻は、日本最古の仏教説話集で、奈良末期に成った。 全篇約120話が年代順に配列されており、この中巻の説話は、聖武天皇ごろの42話。 第1話は長屋親王(ながやのおおきみ)(天武天皇の皇孫、太政大臣)の冤罪、服毒自殺事件だが、卑賤の僧を傷つけた罪の報いと説く。 第3話では、九州に遺された武蔵国多摩郡(むさしのくにたまのごおり)の防人が、若妻を愛する余り、母親を殺害しようとして地獄に落ちる。 この種の腥(なまぐさい)い強烈な因果応報談が多い。 <下> 日本霊異記(下)は、中巻の時代の後を受け、奈良時代末期稱徳天皇(764)から平安時代初頭嵯峨天皇(822)にわたる説話を載せる。 全39話。 凄惨激烈な血族間の政権争奪と権力闘争―その結果として、平城京から長岡京遷都、さらに平安京への再遷―の難世相が説話の隙ににじみ出ている。 編者景戒という一人格の、艱難に苦吟した人生の告白が、烈々の句となり、深沈たる文章となって読者を魅きつけるのも(第38話)巻下の特色といえる。 [ 目次 ] <上> <中> <下> [ 問題提起 ] [ 結論 ] [ コメント ] [ 読了した日 ]
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日本古代の仏教説話集。 雄略天皇から、平安時代初期の桓武天皇時代の説話が収められている。 上巻は、雄略天皇から奈良初期まで。 仏教の因果応報の厳存することをしらしめるため、 書かれたとのこと。 昔の人の生活が垣間見える。
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心の高潔な女性が仙人の霊薬を食べ、天上に飛んで行った話は、飛んでいったのは身体ではなく精神のほうではないかと思った。 海中から美妙な楽の音、死体から芳香など、古代の人の感覚的能力が羨ましい。
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現代語訳がスマートなのと、古文単語の解説が丁寧でよいです。古文や、歴史の教養を膨らませてくれます。 日本最古の怪奇憚です 説話の内容としては、 「因果応報の道理を信じなさい」 「仏教を大切に」 「お坊さんを迫害してはならない」 「恩知らずな人間になってはならない」 「不思議な...
現代語訳がスマートなのと、古文単語の解説が丁寧でよいです。古文や、歴史の教養を膨らませてくれます。 日本最古の怪奇憚です 説話の内容としては、 「因果応報の道理を信じなさい」 「仏教を大切に」 「お坊さんを迫害してはならない」 「恩知らずな人間になってはならない」 「不思議な出来事って日本にもあるよ」 とかとかとか。 著者の仏教者としての敬虔な信仰の様子が文章ににじみ出てます。 あと、、 狐の嫁入りの話を通じて、中国朝鮮だと、妖怪は呪術でもって封印するのだけど、日本人はそのまま夫婦生活を続けるというところに、異類にたいして寛容な民族性窺えますね、、との。
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中と下も読みました。 時系列に仏教説話が続きますが内容かぶってますな説話も多いです。ちょいちょい個人名が出てきて有名どころも登場。 藤原永手(と長男の家依)のエピが面白かったですね。聴いたことない話だったので。 あと下巻の種継暗殺の予兆?に関する記述も興味深い。
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日本最古の説話集の1つ.著者は奈良〜平安初期の薬師寺の僧,景戒. 787年に初稿を書き上げ,822年に完成したとされている.この文庫本は,各篇が読み下し文・現代語訳・用語解説・内容解説の4パートからなっており,たいへん読みやすい作り.これは上巻なので,著者景戒の抱負が述べられてい...
日本最古の説話集の1つ.著者は奈良〜平安初期の薬師寺の僧,景戒. 787年に初稿を書き上げ,822年に完成したとされている.この文庫本は,各篇が読み下し文・現代語訳・用語解説・内容解説の4パートからなっており,たいへん読みやすい作り.これは上巻なので,著者景戒の抱負が述べられているが,これがまた面白い:…世の中を見回すと,才能・学問があるのに卑しい行いの者がいる.仏法や僧をそしり,因果応報の理を信じない者もいる.また世間は,唐から伝わった「冥報記」や「般若験記」ばかりもてはやすが,どうして自国の身近な不思議に,信仰と畏怖の念を抱かないのだろうか.こうした思いにいてもたってもいられなくなり,浅学ながら,自分の見聞をもとに本を書くことにした.不完全な所もあるだろうが,後世の識者はどうぞ笑わないでほしい.この奇特な本を読んで下さる方は,間違った行いをせず,善行を実践してくれることを願う…といったことが書かれている.千年前も今も,同じようなことを憂いていた(いる)のだなと感じる
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