武家の女性 の商品レビュー
「明治150年に読みたい岩波文庫」シリーズで紐解いた。マイナーなセレクトが多い中で、これは83年発行以来35年間で43冊も重版がかかっている古典と言っていい作品である。残念ながら私は今まで見逃していた。私は社会主義者山川均の妻の堅苦しい女性問題本かと勘違いしていた。一読、重版出来...
「明治150年に読みたい岩波文庫」シリーズで紐解いた。マイナーなセレクトが多い中で、これは83年発行以来35年間で43冊も重版がかかっている古典と言っていい作品である。残念ながら私は今まで見逃していた。私は社会主義者山川均の妻の堅苦しい女性問題本かと勘違いしていた。一読、重版出来は伊達じゃないと思った。戦前の発行とはとても思えない、優しい文章、けれども練りに練った文体、しかも民俗学の勘所を押さえた貴重な幕末武家社会の民俗聴き取り書にもなっていて、その上で、女性問題の啓蒙書にもなっているし、幕末水戸藩の歴史書にもなっているのである。 柳田国男の薫陶を受けたらしいが、頷ける箇所が山のようにある。最初から12章までの見出しの立て方自体が見事に民俗学的な視点である(cf「明治大正史世相篇」)。その他民俗学的視点の素晴らしいところ、三界に家なしと言われた女でも着物だけが唯一の財産だった点、開国を境に作る着物から買う着物に変わっていった点、武家女性のお歯黒は、江戸中期からの習慣で一新後は苦労から解放されてほっとした点、三つ四つの女の子は頭の周りをけずって真ん中に残した毛を赤い切れで結んで「ケシ坊主」にしていた点、青年の遊びに墓参という名の遠足、2月と11月の25日に菅公様のお祭り、打球、等々があった点、典型的なきつねが化かした話が語られていた点、結婚についての迷信の点、などは史料的価値も高いと思われる。 水戸の武家社会の史書的価値も高い部分がある。武家の離婚率の高さは、女史の分析通りと思える。また、それに続けての「女大学」批判、そして封建制度批判は、当時(昭18)の地位の低い女性制度批判に繋がる内容だったと思うが、まあ度胸の良い書き方だと思う。 最後の三章分は、何処かで読んだと思ったら朝日まかて「恋歌」(直木賞受賞作)のエピソードがまるまる出てきた。おそらく、「恋歌」がこの本に刺激されて作られた長編だったのだと思う。水戸藩の「子年のお騒ぎ」に代表される内乱の内幕を女性の立場から活描した。また、その歴史観の正しさにも舌を巻く。改めて、これが戦中に書かれたことにびっくりする。 2018年7月読了
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戦後の教育でゆがめられている昔の女性の本当の姿を綴っています。 若いときに読んで非常に感銘を受けた本です。 日本の美しさが感じられます。
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大学の授業で読んだものを個人的に再読。教科書にのるような歴史ではなく、今のわたしの暮らしに繋がるような身近な歴史。女性はいつの時代もたくましくつよく美しいなと思った。
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江戸時代・水戸に住んでいた著者が書いたエッセイ。 桜田門外の変~明治維新あたりの水戸の歴史が 生き生きと描かれている。 この時代を女性から見た感想が書かれているのが 興味深い
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それにしても、まるで実際に見てきたような描き方である。母が語る過去の鮮やかな精彩が読者にまで伝わってくる。菊栄は婦人問題研究家、夫の山川均はマルクス主義者であった。初版は戦時中に刊行されており思想色は見られない。藤原正彦がお茶の水女子大の読書ゼミで採用し、広く知られるようになった...
それにしても、まるで実際に見てきたような描き方である。母が語る過去の鮮やかな精彩が読者にまで伝わってくる。菊栄は婦人問題研究家、夫の山川均はマルクス主義者であった。初版は戦時中に刊行されており思想色は見られない。藤原正彦がお茶の水女子大の読書ゼミで採用し、広く知られるようになった(『名著講義』2009年)。 http://sessendo.blogspot.jp/2015/11/blog-post_26.html
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当時の幸せを今の価値観では計ることができないとした考え方は当時の人のものとしては新しく、その考えを持っていた著者の聡明さが素晴らしいと思った。 昔のことといわず、年配の方から話を聞くことの大切さを感じた。
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幕末水戸藩の下級武士の家庭で育った母の話~塾の朝夕、お縫い子、身だしなみ、遊びごとなど~当時の日常生活を描いた非常に素朴な本。日本人が勤勉でまじめだった姿が浮かび上がってきます。 アイロンの代わりに、口に含んだ水を吹きかけて重石の板を乗せて皺を伸ばすなど(大変だなぁ・・・)、男性...
幕末水戸藩の下級武士の家庭で育った母の話~塾の朝夕、お縫い子、身だしなみ、遊びごとなど~当時の日常生活を描いた非常に素朴な本。日本人が勤勉でまじめだった姿が浮かび上がってきます。 アイロンの代わりに、口に含んだ水を吹きかけて重石の板を乗せて皺を伸ばすなど(大変だなぁ・・・)、男性視点での歴史本では決して出てない武家の暮らしぶりが描かれてます。 武家といってもよほどの上流でない限り、暮らしぶりは貧しいです。 しきたりが厳しくて自由の少ない生活を送りつつ、規律と守り節を乱さない姿勢はやっぱり凛々しい。清貧。 幕末の受難の時代には、当人のみならず、家族や幼い子供までが斬罪や永牢に処されたことも書かれています。自決した主人の首を刈ろうとする賊の前に「それをお渡しするわけには行きません。この姿になっておりますものを、それ以上なさることはございますまい。強いてと仰るならまず私から御成敗願いましょう。」と立ちはだかった新妻に、天誅組も思わず「おみごと!」と首を刈らずに去った話と、牢獄で殺される断首される直前まで5歳の息子に論語を教え続けた女性のエピソードが印象的。 完全な男尊女卑の社会で女性に入る情報もほとんど無かった中、男系が断絶された家が女系の手で再興されたり、明治初期に教育界で活躍したのは辛苦を重ねた下級士族の女性が多かったりという維新後の話は、怠け身の耳には痛いです(^^;引き締まる!
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武家の女性は女性としてのレベルが高そうなイメージがあり、手に取った 何となく、岩波文庫にはハズレが無いような気がしている 寺子屋などの様子も描き出されていて、おもしろい
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幕末の水戸藩の下級武士で生まれ育った著者の母千世の、武士の女性としての生きざまを書き下した名著。 お塾の朝夕、お縫い子、身だしなみ、遊びごとなど本当に当時の日常生活を描いた非常に素朴な本ですが、当時の日本人の本当に勤勉でまじめだった姿が浮かび上がってきます。特に、当時は儒学の影...
幕末の水戸藩の下級武士で生まれ育った著者の母千世の、武士の女性としての生きざまを書き下した名著。 お塾の朝夕、お縫い子、身だしなみ、遊びごとなど本当に当時の日常生活を描いた非常に素朴な本ですが、当時の日本人の本当に勤勉でまじめだった姿が浮かび上がってきます。特に、当時は儒学の影響が強かったため、男性は論語を素読するなど手習いに相当力が入っていたようです。 また、女性は女性で、「家庭は教室でもあり、職場でもあり、保育所でもあり、養老院でもあり、いっさいを意味していた」という背景から女性の立ち位置と、家庭のごたごたを起こさない、家庭を収める女性の凛とした女性像が浮かび上がります。 男女の役割はそれぞれこうあるべきだということでは当然ないですし、むしろ時代は私たちに新しく変化することを求められていますが、「変わるものと変わらないもの」を見極め、それこそ江戸時代から、そして50年後、100年後も変わらない日本人の良さこそ、今最も見直すべきなのかも知れないとこの一冊を読んで感じました。
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昭和18年に書かれた本。著者の母きくは存命中だったが、彼女は水戸藩士の娘だった。子供の頃の思い出話が綴られている。 冒頭の写真を見て驚く。庭で掃除をしている老婆きくは箒をなぎなたのように構えて持っている。 下級武士の家では、農家から買った綿で主婦が糸を紡ぎ、機織りで織、縫った。広...
昭和18年に書かれた本。著者の母きくは存命中だったが、彼女は水戸藩士の娘だった。子供の頃の思い出話が綴られている。 冒頭の写真を見て驚く。庭で掃除をしている老婆きくは箒をなぎなたのように構えて持っている。 下級武士の家では、農家から買った綿で主婦が糸を紡ぎ、機織りで織、縫った。広い敷地の藩邸で野菜を作り、衣食住すべてを藩領の中で賄う自給自足だった。 武士は家の中でも外でも人に会う時は刀を差すのが礼儀だった。子どもも元服までは脇差しを必ず差して塾に通った。興味深いのは、男の子は父親、女の子は母親が家庭教育をしたこと。礼儀作法など厳しくしつけられたそうだ。 お嫁に行くと、姑は30代、その上に50歳くらいの姑、更に70代の姑と3人いることもあったらしい。 それにしても江戸時代の武士は貧しくしきたりに縛られて不自由だ。町人の方が自由で豊かで楽しそう。
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