幻の光 の商品レビュー
再読。やっぱりすごい作品。読んだ時の自分の状況によって発見が何度もある作品。 ブログにレビューを書きました。 http://rucca-lusikka.com/blog/archives/3857
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表紙の裸婦絵は高山辰雄でとても印象深い。 表題作「幻の光」ほか短編3作を所収で、どれもしっとりとした雰囲気の中で人間の情念を丹念に描いた作品になっている。 「幻の光」は前夫の自殺した理由をわからず空虚にさまよう心を抱えながら再婚し、奥能登曾々木で暮らす主人公が、前夫に語りかけるこ...
表紙の裸婦絵は高山辰雄でとても印象深い。 表題作「幻の光」ほか短編3作を所収で、どれもしっとりとした雰囲気の中で人間の情念を丹念に描いた作品になっている。 「幻の光」は前夫の自殺した理由をわからず空虚にさまよう心を抱えながら再婚し、奥能登曾々木で暮らす主人公が、前夫に語りかけることで自らと対話するというスタイルをとる。兵庫尼崎での貧乏で暗い少女時代から、前夫との生活の中での会話、曾々木での安定した生活という人生の流れの中で、様々なエピソードが繊細な描写で深い余韻を残してくれる。すうっと消えていった祖母の話や大阪駅で見送ってくれた知り合いのおばちゃん、曾々木で蟹を獲りに行って遭難したと思われたおばちゃんの話が特に印象深い。ともすれば生死のはざまで生きてきた主人公が、冬の日本海の荒波の中で前夫の死を見つめ直し、現在の夫の前妻の影に嫉妬できるまでに再生できたところに安堵した。死へと向かう光が生と結びついている描写が妙に納得感があった。 「夜桜」は、若い頃にゆとりがなかったばかりに離婚したことを後悔し、息子を事故で喪ったばかりの主人公の自宅に、奇妙なお願いに登場した見ず知らずの青年との、ある1晩の物語。ややもすれば長く住んでいると見落としがちな光景に、ちょっとの幸福感を共有できた心温まる物語となっている。 「こうもり」は、少年時代の出来事と不倫プチ旅行を行っている現在とをパラレルに行き来しながら何ともいえない主人公のいたたまれなさを表した作品。少年時代の友人?との冒険的行動が印象深い。 「寝台車」は大阪から東京に出張することになった主人公が、現在の商談経緯と少年時代の心に突き刺さる思い出を振り返りながら、情感に浸る作品。寝台車というロートルな情景で思い返される記憶の湧き起こりが印象的な物語になっている。 どの作品も、喪失感を抱える主人公たちが「プチ旅行」「現在と過去」などを背景に、心の暗部を見つめながらも明日に向かって生きる、人間の生死のはざまに漂う思いを優しく包み込んでくれるような感じがする。
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宮本輝短編Weekだった。この文体、この視点、純文学なんだよな。。すごいな。たぶんこれ書いたとき、俺と同年代か年下、すごいな。。
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決して特別な才能を感じるわけではない。物語の構成、文章のリズム、そして登場人物の感情。そのどれをとっても、ごく平凡な才能だ。しかし、その性質による全体の安定性は、確かに人の心に打つものがあると思った。
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「寝台車」 著者の寝台車の中での過去と現在をぐるぐる回想する描写に、私自身も学生時代や青年期に鈍行列車を使って、1人全国旅をした思いを重ねて、楽しく読めた。 不思議と気持ちも若くなって来た。 ありがとう、本よ!! 【熊本学園大学:P.N.けんちゃん】
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人は精がのうなると、死にとうなるもんじゃけ とは、作中の言葉であり、不可思議な死に対するひとつの解釈である。 短編集。全編を通して、誰かの死が、深く或いは無意識のうちに主人公の思考に絡み付いていた。 貧しく、決して華やかではない日常の中で、漠然とした不安、答えの見えない感情...
人は精がのうなると、死にとうなるもんじゃけ とは、作中の言葉であり、不可思議な死に対するひとつの解釈である。 短編集。全編を通して、誰かの死が、深く或いは無意識のうちに主人公の思考に絡み付いていた。 貧しく、決して華やかではない日常の中で、漠然とした不安、答えの見えない感情が、何気無い瞬間、ふと胸中を過ぎる。 その源泉を探ると、それは、けじめをつけていない過去の出来事であり、それが誰かの死であったりする。 死というものに、答えを与えることは、誰にだって難しく、いつだって解らないものだということ。 平凡な日常を切り取り、平凡な人の不安定な心のうねりを通じて、読み手に教えてくれたような気がする。 宮本輝の純文学は、読みやすい。
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記憶の中の出来事は、どれほど臨場感があっても幻影の現実でしかない。 当時の感情と現在の感情が交じり合い、広い視野を得ながら結局なにも変わらずに過ぎていく時。 なんかわかったようなわからないような事いいたくなっちゃう短編集。
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宮本輝、解決がない問題を美しく儚く語る文章、始めて読んで自分の中では新鮮で文章ってのもイラストやグラフィックに似てるんだと思った。 読んだあと、考えさせるというより、曇り空の中を歩いているような気分。 でも嫌じゃない。
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少し怖いような、それでいてじんわりと優しいような気持ちになる。 神がかり的でなく、日常の中に潜む奇妙な出来事は何かを暗示して、読み手である私をもさらっていくようだ。 時代背景と関西が舞台であることも、私には懐かしさと哀愁を感じさせる。
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初めて読んだ宮本輝の本。学生の頃。 これをとてもよい本だと思えたことが、なんだか大人になったような気がしたもんだ。 確かに暗い。でもそれがよい。 この暗さに乗っかる関西弁がものすごく響く。
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