氷輪(上) の商品レビュー
時は753年、五度と挫折の後、六度目にしてようやく日本の土地を踏んだ鑑真。 「仏法のためなら命を惜しむことはできない」と自ら渡海を決意した。なぜそこまでして?とも思うが、仏教徒としての使命感ただそれだけだった。 鑑真と幾人かの唐僧、その中に如宝も含まれている。 当時、精神的にも追...
時は753年、五度と挫折の後、六度目にしてようやく日本の土地を踏んだ鑑真。 「仏法のためなら命を惜しむことはできない」と自ら渡海を決意した。なぜそこまでして?とも思うが、仏教徒としての使命感ただそれだけだった。 鑑真と幾人かの唐僧、その中に如宝も含まれている。 当時、精神的にも追い詰められていた聖武はおそらく誰よりも喜んで迎え入れたのだろう。 それとは対処的に、宗教を利用しようとする藤原一族。 鑑真達も奈良時代の複雑な政治に巻き込まれていく。 永井路子さんの小説は、小説の中に読み込んだ文献を紹介し、矛盾点を見つけ出し、考察する、その過程までもが書かれてあり、とてもわかりやすい。
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宗教というものが宿命的に持つ1つの側面〜権力と権威の道具〜を、鑑真と藤原仲麻呂が物語る。良弁が鑑真に「唐にかくのごとき大きな仏像はありましょうか」と尋ねるシーンが上巻のメインテーマと思われ、下巻が気になる
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日本に戒を伝えるために遥かなる道をやってきた高僧・鑑真を主人公格とし、奈良朝のドロドロとした闘争を描く。 一体何のために鑑真和上は命をかけてまでやってきたのか‥弟子達のうめきが聞こえるようである。 それほど、当時の日本仏教界は戒とは何なのか、僧侶とはどうあるべきかを理解していなか...
日本に戒を伝えるために遥かなる道をやってきた高僧・鑑真を主人公格とし、奈良朝のドロドロとした闘争を描く。 一体何のために鑑真和上は命をかけてまでやってきたのか‥弟子達のうめきが聞こえるようである。 それほど、当時の日本仏教界は戒とは何なのか、僧侶とはどうあるべきかを理解していなかった。 いや、戒を理解するにはあまりに政治とくっつきすぎていた。 ただ当の和上本人は、自分のやることは戒を広めること、ただ一点のみとばかりに政治には無頓着。 こういう人を高僧というのか‥と作者の描き方に感心しました。
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戒和上鑑真が66歳にして、波濤を超えて6度目の挑戦の末日本に辿り着き、日本仏教に受戒を伝える取り組みがテーマの小説である。 聖武天皇・光明皇后の下、蘇我から藤原に権力が移行し、藤原仲麻呂の絶頂期を迎える過程でこの政治権力に翻弄されながら、鑑真は一緒に渡海した唐僧とともに受戒を定着...
戒和上鑑真が66歳にして、波濤を超えて6度目の挑戦の末日本に辿り着き、日本仏教に受戒を伝える取り組みがテーマの小説である。 聖武天皇・光明皇后の下、蘇我から藤原に権力が移行し、藤原仲麻呂の絶頂期を迎える過程でこの政治権力に翻弄されながら、鑑真は一緒に渡海した唐僧とともに受戒を定着させるべく地道な活動をする。 仲麻呂の戦略的で狡猾な権力奪取・政権運営の描写はまさに作者の真骨頂である。学者や識者の研究・学説なども詳しく渉猟し、精緻な分析と想像力溢れる仮説は読む人を引き込む。学校で学んだ歴史の裏側・実態をこれ程冷静に淡々と覆してくれる作家は珍しい。静かに徐々に物語が進行する。後編に続く。
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出発 時間 言葉 儀式 葬送行 演出 杖死 優詔 空白 遺構 唐律招提 第21回女流文学賞 著者:永井路子(1925-、文京区、小説家)
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
5度の失敗にも屈せず、日本の仏教界の為に唐から渡来した鑑真。その日本側の処遇がメインテーマだし、もちろん紙幅もそれらに多くが割かれている。小説というには余りにも多くの参考資料が下敷きにされていることがヒシヒシと伝わる文章だが、個人的には聖武天皇から孝謙天皇への治世の背景に渦巻く、蘇我氏から藤原氏への交代劇の方が気になる。 あ、しまった、「美貌の女帝」を先に読むべきだったっぽいぞ…。しかし上巻だけ文庫があって、下巻は単行本のみってのは一体どういう管理なのかしら、多摩市立図書館ってば。
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永井路子の古代本 何でも詳しい 当時の仏教について少し理解が進む 行基は一般民衆を率いたのではなく 知識(仏教信者、善業を重ねるため 寺院・仏像に寄進する人)の支持を 受けて土木事業を普請した人なのか
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(上下巻を通しての感想です) 歴史小説、歴史考察のどちらか分類に迷いますが、渡日後の鑑真を書いたものです。日本の政権が高僧の渡日要請を指示した時と、その後の政治状況変化を踏まえ、鑑真がなぜ東大寺を出て唐招提寺を設立するようになったかを考察しています。その分析と師弟の姿の情景描写が...
(上下巻を通しての感想です) 歴史小説、歴史考察のどちらか分類に迷いますが、渡日後の鑑真を書いたものです。日本の政権が高僧の渡日要請を指示した時と、その後の政治状況変化を踏まえ、鑑真がなぜ東大寺を出て唐招提寺を設立するようになったかを考察しています。その分析と師弟の姿の情景描写が素晴らしいです。
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小説と思って読み始めたけれど、筆者の視点から、 史料に基づく検証とそれに根ざした想像とで滔々と語られる形の、 私にとっては新しい感じのする本でした。 鑑真が、艱難辛苦を乗り越え五回目の渡航でようやく、 授戒のために来日したのに、日本では仏教は政治に従属していて、 純粋な仏教精神...
小説と思って読み始めたけれど、筆者の視点から、 史料に基づく検証とそれに根ざした想像とで滔々と語られる形の、 私にとっては新しい感じのする本でした。 鑑真が、艱難辛苦を乗り越え五回目の渡航でようやく、 授戒のために来日したのに、日本では仏教は政治に従属していて、 純粋な仏教精神に基づいて活躍することは、 なかなかうまく行かなかった、という視点です。 授戒は、求道の世界の精神的セレモニーだが、 日本では、国家行事としての意味合いが強く、 本来「戒和上」は僧団の中で最も戒律に通じ、 人々が師と仰ぐべき人であるが、 国家行事としての「授戒」の中では、 「戒和上」も政治的の色を帯びるために、 鑑真はその座を退くことになってしまいます。 上巻の最後では、唐律招提へ鑑真一行が移るところまででした。 下巻ではどのようなことが描かれるのか楽しみです。
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苦難の果てに渡来した鑑真和上。 ただただ仏教の精神を伝えたいと願って、 たどり着いた奈良の地は、政争がうずまいていた。
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