富士 の商品レビュー
約700pに及ぶ長大なボリューム。面白すぎて凄まじい速度で読了。 あまりにもカオスで深淵、一言で表現が出来ない。 解説の堀江敏幸も本作を『樹海』と表現。 富士とは何を指すのか、ほんの僅かに分かった(気がした)だけでも、読んだ甲斐があった。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
精神科の先生ではないようで、確かに内容からも伝わってくる。疾患へのイメージなどもすこし大雑把 精神病院における医師と患者の立場の逆転とはまた怖い発想だ。時間が経てば退院する患者と違って医師は生涯を病院で過ごす。また社会のあらゆる制約に縛られない精神患者と違い、精神科医を縛るものは法律やら規範やら数多い。確かに患者の側が怯える医師を観察しているという表現もなるほど一理がある。拘束の権利を与えられているのはその立場の弱さゆえかもしれない。 この立場の逆転の考え方は辻仁成の海峡の光、吉村昭の破獄で学んだもの 神と選ばれたる民 神は恵みの神、救いの神でありつつ、また怒りの神、抹殺の神でもありうるという運命をもつ 脳が脳を裁く 優しさという拘束具 各行の最初の文字に必ず漢字をえらんでいるのはてんかん病患者特有の傾向 患者をつくりかえる「神の指」となり、患者をおびきよせる「神の餌」をばらまかねばならないのだ
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武田泰淳 「富士」戦時の精神病院を舞台とした医師と患者の物語。 モチーフは ヨブ記だと思う。登場する人物は 不条理な苦難を受け、物語は終始 混沌としている。「カラマーゾフの兄弟」や 埴谷雄高「死霊」の描く世界に似ている 章構成が「神の餌」で始まり、「神の指」で終わる。主題は...
武田泰淳 「富士」戦時の精神病院を舞台とした医師と患者の物語。 モチーフは ヨブ記だと思う。登場する人物は 不条理な苦難を受け、物語は終始 混沌としている。「カラマーゾフの兄弟」や 埴谷雄高「死霊」の描く世界に似ている 章構成が「神の餌」で始まり、「神の指」で終わる。主題は 「人間の狂気性に苦悩する医師と神の関わり」だと思う。 神が人間にどう関わるか〜沈黙する神、寄り添う神、慰める神。富士は 神の象徴? 物語の中で 精神病や患者の死は 何を意味するのか〜人間の限界を知ること。その限界の中で人間に何ができるかを問うこと。 宗教批判や戦争批判は感じないが、階級批判や平等主義は随所に感じた
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3月末現在、2014年暫定ベスト本(フィクション)。狂気とは何なのか、そのわからなさが饒舌な文体と個性に満ちた患者たちのキャラで彩られ、とても面白く読んだ。肩書きとしては医師、病院の職員、町の者であっても、彼ら彼女らと「患者」との境目はわからなくて、終盤の乱痴気騒ぎがそれを物語っ...
3月末現在、2014年暫定ベスト本(フィクション)。狂気とは何なのか、そのわからなさが饒舌な文体と個性に満ちた患者たちのキャラで彩られ、とても面白く読んだ。肩書きとしては医師、病院の職員、町の者であっても、彼ら彼女らと「患者」との境目はわからなくて、終盤の乱痴気騒ぎがそれを物語っている(ここは本当に読んでいて面白かった)。内に迫る人間の本質を描きつつ、娯楽性も高い。「面白い」本として、気の会う友人に勧めたい一冊。
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戦中の精神病院が舞台、とはいっても、「正常と異常」の象徴的に「精神病」が用いられているのであって、その部分のディティールに対して(ましてや現代的な知識でもって)ツッコむのは無粋である。 劇中には幾人もの患者が登場する。彼らに共通しているのは、精神病患者であることは自覚しつつも、...
戦中の精神病院が舞台、とはいっても、「正常と異常」の象徴的に「精神病」が用いられているのであって、その部分のディティールに対して(ましてや現代的な知識でもって)ツッコむのは無粋である。 劇中には幾人もの患者が登場する。彼らに共通しているのは、精神病患者であることは自覚しつつも、自らの思想や生き様に一切の揺るぎがないことだ。それはある意味での魂の高潔さではないのか。 「正常」と「異常」。これは当作品において切り離すことはできないテーマであろう。しかし決して対立ではなく同化でもない。境界の論議でもない。 医者が患者を治そうとする時、「神の指」にならなければならぬという。それはあたかも、動物と接するときにはるか天の神のような立場から何かを施すように。 動物は「富士」を認識できないだろう。しかし患者の「宮様」も「哲学少年」も富士を見ていた。 私は、この作品の終盤においてようやく、「富士」というタイトルに見合う壮大さだけは知覚できた。しかし、「富士」は見えなかった。評価は★★★としたが、歴史に残るすばらしい大作だろう。
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戦時下の精神病院が舞台。ある意味究極な舞台でフロイトを論じてるようにも見れなくもない。誰が神で誰が狂人で誰がまともなのかわからなくなるのを、生臭い精神と肉体を使って表現されていてよいです。
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武田泰淳の「富士」を読み続けた二週間、どっしりした読み応えと引き替えに心の平安を失う。戦争や神、精神病、天皇制と重厚なテーマ性ありげな作品なのだが、むしろBL的鑑賞にも堪えうるキャラ設定と独特なユーモアのある日本語で、単純にカオスな群像劇として楽しめる作品だった。
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「草をむしらせてください」 「くりかえしの恐怖」 ありたきりな喧しい狂気に非ず。並みの慈愛ではこれは書けない。 大怪作にして大傑作。
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文庫で厚さ2.5センチという堂々たる体型。そして中身も濃厚。終戦間際の精神病院が舞台___というだけでスゴそうなんだが、ずしんと読ませる。泰淳さんがこれまで考えてきたこと、感じてきたことをもの凄い力で押し込んであって、毛細血管の隅々まで書き込んである気がする。
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ずっと持っている本は中々読まない。背表紙を長く味わっているうちに読んだも読まないもなくなってしまっていたりする。第一、この読んだというアイマイな定義が解らない。その本をしばらく持ち歩き全部のページを平均2分位でめくったというような事実が【なんだ】というのだろう。私は元来遅読である...
ずっと持っている本は中々読まない。背表紙を長く味わっているうちに読んだも読まないもなくなってしまっていたりする。第一、この読んだというアイマイな定義が解らない。その本をしばらく持ち歩き全部のページを平均2分位でめくったというような事実が【なんだ】というのだろう。私は元来遅読である。物語に入り込むのに手間がかかる。ひね媚びていてマトモに水を向けられると嫌気がさす。よくある「これ面白いよ」的な脳天気に殺意を感じる。 『富士』・・・私の読んだのは初版ハードカヴァー、文庫じゃない。一月ほどもかばんに入れ痛禁の生き返りと休日の喫茶ごもりとで読んだ。中途で汚れが心配になりスーパーのチラシでカバーをかけ、付箋は200ヶ所に及んだ。 このレビューが何のために書かれるか理解できていないが、【自分の覚書としか思えないが】未読者の興味を殺ぐようなことは書いてはいけないのは解る。内容についての詳細な言及は控えるが戦時の逼迫の中で追い詰められていくとある精神病院の内と外。患者たち、家族たち、医師たち、家族近隣の織り成す【異常な心】のファース劇が私に垂らしたアブストラクトな模様は容易に風化しにくい硬質のものであった。 武田泰淳の物語は私の屁理屈のこね回しを共振させる。クソジジイに微笑を、だ。
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