おとうと の商品レビュー
他の作品にも言えることだが、女主人公はいつも大人である。家庭の不和の中でも自分の役割を全うしようとするが、年幾ばくも無いため至らぬ点にしばし気づかされるものの、そこで拗ねたり開き直るのではなく、ただただかくあろうとする姿勢で困難に立ち向かっていく。病気を理由に家事をしない義母の代...
他の作品にも言えることだが、女主人公はいつも大人である。家庭の不和の中でも自分の役割を全うしようとするが、年幾ばくも無いため至らぬ点にしばし気づかされるものの、そこで拗ねたり開き直るのではなく、ただただかくあろうとする姿勢で困難に立ち向かっていく。病気を理由に家事をしない義母の代わりをし、自分が弟より重要視されていないと理解しながらも、父や弟に誠実に接しようとする姿は、現代に生きる自分自身の子供っぽさとは対極だった。拗ねて、怠けがちで、他人のせいについしてしまう自分。 気が利きすぎる主人公は心休まる時は少なかったかもしれないが、人間の尊厳・美しさを見せてくれた。
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私自身弟を思うとその身勝手さに苛立ちを覚え、同時に切なさと愛くるしさとがない交ぜになって泣く一歩手前のような気持ちになる。 兄には抱かない特別な感情。 ここまで的確に表現されている作品に初めて出会った。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
姉と名のつくものは共感して止まない話ではないだろうか。しかも、ちょっと生きるのが下手な弟を持つ身には特に。冒頭の、雨の中傘をささずにぐんぐん歩いて行ってしまう弟の描写からもう引き込まれていった。 ゲンが碧郎を思うときの、可哀想と可愛いが絡み合って、胸がぐっとつまる感じ。いたたまれない。 可哀想に思ってしまうことをどうにかしたくて、母にも父にも友達にもなってやりたいと頑張ってしまう。姉にしかなれないことに結局は気づくのだけれど…。ゲンはよく頑張っていた。懸命な姿にもぐっと来てしまった。 碧郎のした丘の話が印象的だった。身に染みついてしまったうっすらとした哀しみを、拭わないまま死んでしまうことを思うとたまらない気持ちになる。
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品のある艶やかな文章で姉弟の間に行き交う情が丁寧に描かれていた。自分のねぇさんのことを想いながら読んだ。最後は弟が亡くなってしまうので切なくページをめくるのがつらかった。ネタバレ〜。
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文さんの文筆デビューは43歳と比較的遅い。 おそらく当時の読者は文さんに、父・露伴を描いた作品を過度に期待したはず。彼女も当初は随筆で、亡父の面影を公けにしていたが、この小説で“満を持して”自分の家族について世に出した観がある。しかし、世間の期待をわざと少しはぐらかすかのように、...
文さんの文筆デビューは43歳と比較的遅い。 おそらく当時の読者は文さんに、父・露伴を描いた作品を過度に期待したはず。彼女も当初は随筆で、亡父の面影を公けにしていたが、この小説で“満を持して”自分の家族について世に出した観がある。しかし、世間の期待をわざと少しはぐらかすかのように、主人公は父ではなく、弟である。 この作品で「姉」は、女学生としての弱い姿のみでなく、病気がちで精神的にも不安定な継母に代わり、炊事などの家事をこなし、家族の生活を守る強い姿も描かれている。実際にも、文さんは他人よりも多くの苦労を、持ち前の気丈さで乗り切ったのだろう。だからなのか(意識的か無意識的か)時間を経るうちに心のフィルターで自分の少女時代を“純化”し、過去から守っているように思える。 例えば、弟が中学校で、ちょっとしたアクシデントで同級生にけがを負わせてしまう。弟は故意ではないと主張したが、周りは弟がわざとやったと思い込み、弟は孤立する。姉は、元々明るく屈託のなかった弟を信じるが、弟自身には、姉の純化された記憶とはまったく違った心の動きがあったはず。 確かに純化した自分自身と、自分を軸とした家族との位置関係はよく描けている。だが弟の心理描写は「女性視点」から見た男子の姿、すなわち文さんの心に映った“鏡像”の描写にとどまり、弟の精神的成長の動機を含んだ描写に、今ひとつ踏み込めていないのでは、と感じた。 男子の思春期にみられる精神的成長は、女性が想像できない複雑な過程をたどるもの。それがこの作品では「姉から視点」が勝ちすぎていて、不十分に感じる。私は男だから、そういう偏った女性視点に対しては、厳しい言い方をしてしまう。 「三つ違いの姉になど母親の愛はもてないものだ、と言われたのを痛く想いかえす。」のような、弟に対する自分自身の心象表現は、すごく光ってるのに… だから、家族の絆が描かれた“仲良し”小説が好きならば本作品は気に入るだろう。でもドストエフスキーのような、一般的な家族像を超越した人間存在そのものを深く描く小説が好きならば、ちょっと食い足りないかもしれない。 (2010/6/9)
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「洗いざらい云いつくさせてあげて、そのかたからいやなことばを抜いて、お見送りするんです」姉さんへ語る看護婦の言葉。心しておきます。「持っているだけの悪たいをつかしておあげするのがこの職業」とも。心にささります。脳梗塞で倒れ入院しました。自暴自棄で家族に辛く当たったことがあります。...
「洗いざらい云いつくさせてあげて、そのかたからいやなことばを抜いて、お見送りするんです」姉さんへ語る看護婦の言葉。心しておきます。「持っているだけの悪たいをつかしておあげするのがこの職業」とも。心にささります。脳梗塞で倒れ入院しました。自暴自棄で家族に辛く当たったことがあります。心で詫びながら口からは暴言・・・みんなが辛いのです
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姉とおとうと、おとうとと義母、姉と娘、父と娘、ひとつひとつの関係性がとてももどかしい。 この物語には器用な人間は登場しない。全ての人間が不器用で、意地悪で、悩んでいる。が、そこに僕はこの小説の愛嬌を感じる。 読み進めながら途中、読むのを辞めたくなる。あまりにも日本文学的な、べった...
姉とおとうと、おとうとと義母、姉と娘、父と娘、ひとつひとつの関係性がとてももどかしい。 この物語には器用な人間は登場しない。全ての人間が不器用で、意地悪で、悩んでいる。が、そこに僕はこの小説の愛嬌を感じる。 読み進めながら途中、読むのを辞めたくなる。あまりにも日本文学的な、べったりとした描写、物語。半分くらい読んだところでそれらを全部ペリペリと剥がしたくなってしまうのだ。 だがこの本を読み終えたとき、その煩わしかったもどかしい登場人物やうざったい物語を、抱きしめたくなる。 あまりにも鮮やかで、読者にありありとした風景を想起させる描写は、この小説のあり方をも示しているのかもしれない。 幸田文は、日本文學を語るうえで若干軽視されてる感が否めない。 しかしこの小説を読み終えたとき、僕らは彼女を、芥川や太宰、川端などと並ぶ文豪てあると評価せざるを得ないだろう。
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心情の機微を捉えて、それを細々と文章にしている点に驚く。 では写実描写が曖昧かというと、気持ちの方から物へと結びつき、そちらの存在もしっかり主張している。 そのつながりから、さらに心情が浮き上がる。 上手いなあ、としか思えない。 どうしても真っ当に暮らせない弟に対する姉の憤...
心情の機微を捉えて、それを細々と文章にしている点に驚く。 では写実描写が曖昧かというと、気持ちの方から物へと結びつき、そちらの存在もしっかり主張している。 そのつながりから、さらに心情が浮き上がる。 上手いなあ、としか思えない。 どうしても真っ当に暮らせない弟に対する姉の憤りと、 そして愛おしさ。 決して遠くのお話ではない。 誰もが抱いたことがあるであろう、本当に細々とした心の揺れ。 露伴よりも、文の方が好きかもしれない。
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図書館の本 読了 内容紹介(BOOKデーターベースより) 高名な作家で、自分の仕事に没頭している父、悪意はないが冷たい継母、夫婦仲もよくはなく、経済状態もよくない。そんな家庭の中で十七歳のげんは、三つ違いの弟に母親のようないたわりをしめしているが、弟はまもなくくずれた毎日をおく...
図書館の本 読了 内容紹介(BOOKデーターベースより) 高名な作家で、自分の仕事に没頭している父、悪意はないが冷たい継母、夫婦仲もよくはなく、経済状態もよくない。そんな家庭の中で十七歳のげんは、三つ違いの弟に母親のようないたわりをしめしているが、弟はまもなくくずれた毎日をおくるようになり、結核にかかってしまう。事実をふまえて、不良少年とよばれ若くして亡くなった弟への深い愛惜の情をこめた、看病と終焉の記録。 こういうのを私小説と呼ぶのだろうと思いつつ物語として扱っていいのかドキュメントとして扱っていいのか悩むところです。 どうしてこうこの人はこういう微妙なものの書き方がうまいのだろう。 どうしてここまでわたしが体験してきた家庭内の機微をかけるのだろう。 不仲な両親。息を詰めて暮らす様子。そして自分は単なる労働力ではないかとの懸念。 姉、弟、封建家族。そんなものが肌になじみすぎて怖いくらいに思う。 結核を患った弟の介護の重さ。そして育ちゆえに見る大人の顔色。そして自分の年齢。 重いけれど忘れられない本に会いました。
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自分の家族と似てるところもいくつかあった。 前より家族をいたわるようになりました。 一つしか離れていない弟なので、げんのように世話を焼いた記憶はほとんどない。うちは全部母がやってたんだな。 それでもげんの切なさや愛情はめちゃ伝わってきた。げんに感情移入しました
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