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沈める滝 の商品レビュー

3.7

38件のお客様レビュー

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    6

  2. 4つ

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  3. 3つ

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2012/10/14

解説で村松剛は三島を「道徳を信じない道徳家。愛を拒否する愛の詩人」を評する。本作の主人公、城所昇はまさにその象徴ともいえる青年として描かれている。 昇は顕子と出会い、その欠陥的要素について強い魅力を感じる。しかし、皮肉なことにその魅力は昇自身の手によって解体されていく。 昇が...

解説で村松剛は三島を「道徳を信じない道徳家。愛を拒否する愛の詩人」を評する。本作の主人公、城所昇はまさにその象徴ともいえる青年として描かれている。 昇は顕子と出会い、その欠陥的要素について強い魅力を感じる。しかし、皮肉なことにその魅力は昇自身の手によって解体されていく。 昇が本質的な人間の冷酷さを手に入れたとき、顕子は救いようのない絶望へと堕ちていく。このシーンが持つ壮絶さこそ、この作品の真骨頂だといえる。 しかしながら、昇には親近さすら感じる。愛を信じないからこそ、愛に対して貪欲であるということは正しい。

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2012/05/30

2008年07月20日 11:43 なにこの人(笑) って感じでした。 主人公は、容姿端麗、知性に溢れ、金銭面でも苦労をすることのない、いわば完璧人間。しかし恋愛を含む本能的な欲求に乏しく、理性でばかりものを考えるため、時に生活に空虚さを感じている。 ここまではいい。むしろ最...

2008年07月20日 11:43 なにこの人(笑) って感じでした。 主人公は、容姿端麗、知性に溢れ、金銭面でも苦労をすることのない、いわば完璧人間。しかし恋愛を含む本能的な欲求に乏しく、理性でばかりものを考えるため、時に生活に空虚さを感じている。 ここまではいい。むしろ最高といえるかもしれない。才色兼備な上に、究極に理性的。そんな男性そうはいない。 ある日彼に運命の出会いが訪れる。まるで己にそっくりな女性と恋に落ちるのだ。 二人はこの奇跡を尊び、そして二人の情熱と関係を永続的なものにするがために、きめごとをつくる。 ・しばらく会わない(一年ぐらい) ・手紙でやりとり。ちなみにどんな嘘を書いてもいい→愛を確認。 いやいやいや、なんで?何がしたいんですか。特に後者。 しかも彼は「この手紙の内容はきっと嘘だ・・・いやしかしその裏を書いて事実かも・・・さすれば彼女は・・・いややはり・・」と自分の作った意味不な規則で意味不に葛藤。これで本の半分消費。 さらにそこまで言って最後は飽きてバイバイ。 なんだそれ! 主人公の勤め先がダム現場で、そのダムに魅入られること、彼女を滝に見立てることから、彼の恋愛観とか、作者自身の人生にたいする見方とかはわからなくもない。 けどそんな崇高なことより、やっぱり最初から最後まで気になるのは、その決まりごとに振り回された彼の心境。

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2012/12/07

初めて三島由紀夫の作品を読んだ。物語としては大変面白かった。 ただ主題に関してはなかなか理解し難いものがあった。単純にそれは俺の感性の乏しさや稚拙さに原因がありそうだが・・・。 もう少し三島作品に触れ、改めて読み直してみることにする。

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2011/12/16

不感症の男女の恋物語。と言っても顕子は肉体的に、昇は精神的に不感症。昇は人を愛さない冷たい男で、石や鉄で出来た無機質なものが好きだった。彼は偶然、顕子に出会い、無感動な彼女に興味を持つ。二人は人工的な愛を作ろうとするが、結局これは失敗し、昇は満たされることがなかった、というあらす...

不感症の男女の恋物語。と言っても顕子は肉体的に、昇は精神的に不感症。昇は人を愛さない冷たい男で、石や鉄で出来た無機質なものが好きだった。彼は偶然、顕子に出会い、無感動な彼女に興味を持つ。二人は人工的な愛を作ろうとするが、結局これは失敗し、昇は満たされることがなかった、というあらすじ。 三島は問題提起ばかりで解答はくれないみたいだね。リアリストということかな。ならば、読者は昇を観察して、精神的不感症の構造を暴いて、各自の参考にするべきだろう。精神的不感症の要因は、次の文章にあると思う。《昇が石や屍のような不動のものだけを愛するのは、それだけが疑いようのないものだったからではなかろうか。》つまり、人を愛さないのは、多種多様な可能性を排除して考えられない(=人を信じられない)ということが、暖かな人間関係を阻害すると。言ってしまえば、それだけのことなのだけど、実践的にそういう人間の生き方を虚構に照らして見ると、そのような簡単なことも普段の生活のなかで見出だせなくなっていることが分かる。小説って馬鹿にならないな。 また、三島の小説は、人物の機微が細かく活写されるので、僕のような人の気持ちを想像する力の欠けた人間には大いに勉強になります。

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2011/12/10

本来のテーマとは関係の薄い箇所だけど、半年に渡る越冬の場面が凄く良い! 彼の作品にしては珍しく風景描写に徹底的にこだわってる。 相変わらず圧倒的な語彙力。 瀬山の不器用な生き方、嫌いになれないな~・・・。 三島は一番好きな作家なのにまだ5冊程度しか読めてない・・・。

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2012/07/19
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

閉ざされた大自然の中で、人工的なダムを造るという使命を帯びて、寝食を共にする男たち。使命よりも動かしがたく冷たい自然を愛し、越冬を望んだ主人公。感動できない物しか愛せない彼は、三島作品の中でも特に冷たく残酷な男だと私には思えました。

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2011/10/24

奥只見湖を旅行するにあたり、物語の舞台となっているこの小説を読んでみました。 三島作品を読むのは久しぶりです。 相変わらずの硬質で尊大感の漂う、彼独特の文体。 美しく豪奢で気位の高い男女が登場します。 どちらかというと、実験的な愛で繋がった男女の心理描写を主体に描かれており、主...

奥只見湖を旅行するにあたり、物語の舞台となっているこの小説を読んでみました。 三島作品を読むのは久しぶりです。 相変わらずの硬質で尊大感の漂う、彼独特の文体。 美しく豪奢で気位の高い男女が登場します。 どちらかというと、実験的な愛で繋がった男女の心理描写を主体に描かれており、主人公、昇が仕事で越冬する、奥只見(本作では奥野川ダムという名前)についての描写は、二の次となっている様子。 前に同じ場所を舞台にした『ホワイトアウト』を読んだため、情景描写の迫力の差は歴然としています。 自然の猛威がメインとなっているわけではありませんが、もう少し冬の間は雪で閉ざされた遠隔の地だという孤立感を伝えてほしく思いました。 あまりに人工的な男女。鉄や石とばかり遊んできた少年は、成人した時には鉄のように固く不動の心を持つようになっていたようです。 そんな彼が、ダム設計技師という仕事上、人里から隔離された自然の中に身を置く形でひと冬を超えるうちに、遊戯めいていた人妻、顕子への思いが形を変えていきます。 どうにも技巧的な文体で綴られる、技巧的な主人公の心の行方。 物語は感動的なクライマックスを迎えるかに見えて、急遽ショッキングな悲劇性を帯びていきます。 顕子の深い絶望と、それを観察者の立場で黙って見守る青年の残酷さ。 以前卒論で彼の文体について採り上げたことがあるだけに、文章そのものについ気が向いてしまいます。 独特の翻訳調文体や話の運び方に、フランス心理文学の影響が色濃く出ているように思います。 若さ、豊かさ、美しさ、傲慢さ、残酷さ、自尊心と屈辱、絶対優位性など、何ともミシマらしい傾向に満ち満ちた作品です。 いかんせん、常に無感動で冷静なので、昇にはどうにも感情移入できません。 ただ一回、顕子の夫が彼を訪ねて来た時に激しく動揺した時のシーンは、興味深く読みましたが、さすがはミシマ主人公、無難に切り抜けました。 まだ若く、過ちを犯しやすい年齢でありながら、自分自身を頼みにし、残酷な采配を振るう、無傷の青年。 愛を信じないことが、彼の強さなのでしょう。 主人公の心理について行けなかったため、物語としては好きな話ではありませんが、ラストに向けて女性を滝、主人公をダムと見立てて描きこんでいく緻密さは、さすがの筆力だと思いました。

Posted byブクログ

2011/10/21

三島再読第9弾。 青年の青年らしさを潔く書き上げた一冊。昔読んだ時は単純にストーリー展開を面白く感じただけだったが、再び読んでみると、ストーリー展開は奥に引っ込んで(単純なストーリーであるせいもあるが)、主人公の青臭さというか若々しさが妙に浮き上がって感じられた。 さらっと読めて...

三島再読第9弾。 青年の青年らしさを潔く書き上げた一冊。昔読んだ時は単純にストーリー展開を面白く感じただけだったが、再び読んでみると、ストーリー展開は奥に引っ込んで(単純なストーリーであるせいもあるが)、主人公の青臭さというか若々しさが妙に浮き上がって感じられた。 さらっと読めて、文体も質実剛健な印象なので、実は傑作な気がする。

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2011/01/01
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

不感症の女と、感動しない主人公が、知り合う。自然の滝で、「あの人は感動しない人間が好きなんだ」という一言に、不感症の女が恋に落ちていくとき、致命的な一言を受け、死にいたる。恨みが、溜まっていた旦那は、事務的な処理で、村の言い伝えから、抜け出す。そして、主人公は、ダムの建設が終わると、皆を連れて、沈める滝(顕子が自殺した場所)に向かう。そして、昔、ここに小さな自然の滝があったんだという。人工に変わってしまった、滝(ダム)を見て、まだ結婚なさらないの?とマダムは聞く。主人公は、ああと答えて、煙草を吸う。

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2010/02/04

ネタバレありの個人的感想 初めて三島の作品を読んだ。 巻末の村松の解説にあったように、三島の作品は 「既成のものを信じないという立場に立って、 その荒廃の上に、あらためて夢なり美なりを、 人工的につくり出そうとするところに成り立つ」ものとして 特徴づけられるらしい。 本著も、「...

ネタバレありの個人的感想 初めて三島の作品を読んだ。 巻末の村松の解説にあったように、三島の作品は 「既成のものを信じないという立場に立って、 その荒廃の上に、あらためて夢なり美なりを、 人工的につくり出そうとするところに成り立つ」ものとして 特徴づけられるらしい。 本著も、「既成の愛を信じないという立場に立って、その荒廃の上にあらためて人工の愛の創造を試みた」作品やった。 こういう風に、 信じないことを肯定した上で物事を構築していこうとする考えがおもしろかった。 でもまあ顕子が変わってしまってただのめんどくさい女(言い方・笑)になったのが残念です(笑) 主人公晃の、特定化されず任意の一点になりたい、というのはよくわかる (わかっていいものかどうか微妙やけど) 長距離通学をやめないのもここらへんの理由がからんでいるかと。 役割期待から離れて他人の他人になる時間は必要やと。 瀬山のキャラはおもしろかったな、うん。

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