沈める滝 の商品レビュー
石と石、不感動と不感動が出会ってそこに生きた恋を作ることを試みる。基本的には主人公の心の機微を主題にした作品で、人間への潔癖な愛情や、人間的な高潔さの希求に溢れているように感じる。主人公の心の機微が繊細で、読んでる多くの人間には手放しで同意出来るものではない(と思う)ので、心情表...
石と石、不感動と不感動が出会ってそこに生きた恋を作ることを試みる。基本的には主人公の心の機微を主題にした作品で、人間への潔癖な愛情や、人間的な高潔さの希求に溢れているように感じる。主人公の心の機微が繊細で、読んでる多くの人間には手放しで同意出来るものではない(と思う)ので、心情表現が冗長で難解...でもその徹底ぶりは面白かった。主人公の一人称で進むのでたくさんある自然描写も主人公の心情の理解が進むので、文の密度が濃い小説だった。 まあ私はこの主人公嫌いですけど。
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天性の美貌と豊かな財力にめぐまれた貴公子城所昇は、愛を信じない青年である。彼は子供のころ、鉄や石ばかりを相手にしてすごし、漁色も即物的関心からで、愛情のためではない。最後の女顕子に惹かれたのも、この人妻が石のように不感症だったからなのだ。──既成の愛を信じないという立場に立って、...
天性の美貌と豊かな財力にめぐまれた貴公子城所昇は、愛を信じない青年である。彼は子供のころ、鉄や石ばかりを相手にしてすごし、漁色も即物的関心からで、愛情のためではない。最後の女顕子に惹かれたのも、この人妻が石のように不感症だったからなのだ。──既成の愛を信じないという立場に立って、その荒廃の上にあらためて人工の愛の創造を試みた、三島文学の重要な作品。
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あらゆるものに恵まれた青年、城所昇。彼は子どもの頃から、物にしか興味を持たない人間である。そのため女性に全く興味を持たない青年だったが、知り合った人妻、顕子が不感症で物のような存在と知り、惹かれるようになる…。 二人が愛し合っていることを確認するために、一度、物理的に離れようとし...
あらゆるものに恵まれた青年、城所昇。彼は子どもの頃から、物にしか興味を持たない人間である。そのため女性に全く興味を持たない青年だったが、知り合った人妻、顕子が不感症で物のような存在と知り、惹かれるようになる…。 二人が愛し合っていることを確認するために、一度、物理的に離れようとして、昇はダム建設の仕事へ行ってしまう。その後、顕子はより昇を慕うようになるが、以前と違って、物としての存在はなくなり、悲しいことに愛し合うがゆえに離れていくという悲劇が起こる。なんていうか、もうどうしたらよかったのかよくわからない…
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無機質である有機体を愛する城所昇。その無機質で無感動であった顕子への人工的な愛を醸成するべくダム建設の行われる雪山で一冬を過ごす。まるで人間的から程遠い環境の中でこそその愛は花開かんとしていた。春を迎え、人間世界に降り立つや、一切が新鮮に見える中、不感症が治癒した顕子は昇にとって...
無機質である有機体を愛する城所昇。その無機質で無感動であった顕子への人工的な愛を醸成するべくダム建設の行われる雪山で一冬を過ごす。まるで人間的から程遠い環境の中でこそその愛は花開かんとしていた。春を迎え、人間世界に降り立つや、一切が新鮮に見える中、不感症が治癒した顕子は昇にとってもっとも凡庸な女に変わっていた。雪山の中で人工的に作り上げた愛が「愛」であり、身投げした顕子の遺体がいまやダムに沈み想起される小滝こそが顕子との「愛」の縛りである。あらゆる存在は観念の中において創られるという三島文学の要素が詰まった作品。
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ヒロイン顕子は失恋するのだろうなあ、最後は自死を選ぶのだろうなあ、そうしないと物語を終えられないのだろうなあ、漠然とそんなふうに考えていた。顕子は主人公昇のどこに魅かれたのだろうか。他の男たちと何が違ったのだろう。というか、昇はどうしてそうモテるのか。まあ、うらやましいと言えばそ...
ヒロイン顕子は失恋するのだろうなあ、最後は自死を選ぶのだろうなあ、そうしないと物語を終えられないのだろうなあ、漠然とそんなふうに考えていた。顕子は主人公昇のどこに魅かれたのだろうか。他の男たちと何が違ったのだろう。というか、昇はどうしてそうモテるのか。まあ、うらやましいと言えばそう言えなくもないが、誰のことも好きになれないという点ではかわいそうにも思う。顕子を好きになったはずだったのに、男と女の間で、相手の思いが重たく感じる気持ちは、今もずっと昔も変わりはしないのだろう。・・・ああ、そんな思いになってみたい。いや、そんな思いにさせているのだろうか・・・。「あの人は感動しないから好きなんだ。」瀬山が顕子に、昇がどうして顕子を好きになったかの理由を言ったとき、彼女の時間はすべて止まってしまったのだろう。自分に似た滝に身を投じずにはいられなかったのだろう。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
愛を信じない美貌の男が、不感症の女を初めて愛する。女が、男が幼い頃に親しんだ、不感の物質「石と鉄」と同じように見えたのだ。女のほうも、初めて自分の肉体を愛してくれた青年を愛する。誰をも愛せない二人が出会ったのだ、数式の負と負を掛け合わせて正を生むようにと人工的な愛をはぐくむ試みを行う二人。それは成功していくかのように思えたが数年後、不感症が治った女のことを、男は愛せなくなっていた。女がなににも感動しないが故に愛していたという男の本音を知り、絶望した女は身を投げる。・・・結局また「死」で終わってしまった。三島の思想の行きつくところは死なのだろうか。女が死んだことをなんとも思わない男に憤りを覚えた。
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石や鉄のように心が冷たい男女の物語。 男がダムだとしたら女は滝だと、暗に示している。女の感情を溢れんばかりにせき止めるダム。女は死に、滝はダムに沈んでいく。
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3.5 女の無理解について。その有機的な無神経さに蹂躙される美。一方で、有機はやがて無機に分解されゆくという機構も含む。有機と無機、女と男は互いに破壊し風化させゆくものである。ということ。
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比較的早い時期の長編小説だが、すでにして大作家の風格は十分だ。主人公の昇は、門閥、資産、学力、学歴、勤務先、容貌と、あらゆる点で恵まれている。彼は常に、女とは一夜限りの関係を続けてきた。ドン・ジョヴァンニがそうであるように、猟色は愛の不毛に他ならない。顕子がかつては肉体的に冷感症...
比較的早い時期の長編小説だが、すでにして大作家の風格は十分だ。主人公の昇は、門閥、資産、学力、学歴、勤務先、容貌と、あらゆる点で恵まれている。彼は常に、女とは一夜限りの関係を続けてきた。ドン・ジョヴァンニがそうであるように、猟色は愛の不毛に他ならない。顕子がかつては肉体的に冷感症だったごとく、昇は精神的な冷感症に捉えられており、彼はとうとうそこから抜け出すことはできなかった。先行作では『禁色』の悠一に、そして後の作品では『春の雪』の清顕に繋がる三島文学の、ある意味では主流をなす愛のニヒリストの系譜である。 なお、越冬後の田舎町の描写をはじめ、随所に三島の「うまさ」も堪能できる作品だ。
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【第34回芥川賞選評】(川端康成)「私は「太陽の季節」を推す選者に追随したし、このほかに推したい作品もなかった。「第一に私は石原氏のような思い切り若い才能を推賞することが大好きである。極論すれば若気のでたらめとも言えるかもしれない。このほかにもいろいろなんでも出来るというような若...
【第34回芥川賞選評】(川端康成)「私は「太陽の季節」を推す選者に追随したし、このほかに推したい作品もなかった。「第一に私は石原氏のような思い切り若い才能を推賞することが大好きである。極論すれば若気のでたらめとも言えるかもしれない。このほかにもいろいろなんでも出来るというような若さだ。なんでも勝手にすればいいが、なにかは出来る人にはちがいないだろう。」
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