新版 悪魔の飽食 の商品レビュー
本書の現在における価値
日中戦争勃発後の1933(昭和8)年旧満州に創設され、ロシア人、中国人、モンゴル人など3千人余の捕虜を対象に非人道的で残酷な数々の人体実験等を行ったいわゆる日本陸軍第七三一部隊の実像を、著者自らの取材・調査による関係者の証言や新資料に基づき、改訂新版として書き起こし、戦争の狂気を...
日中戦争勃発後の1933(昭和8)年旧満州に創設され、ロシア人、中国人、モンゴル人など3千人余の捕虜を対象に非人道的で残酷な数々の人体実験等を行ったいわゆる日本陸軍第七三一部隊の実像を、著者自らの取材・調査による関係者の証言や新資料に基づき、改訂新版として書き起こし、戦争の狂気を告発したノンフィクションの労作である。著者が文中で「真に恐ろしいことは、この残酷を犯した人たちと、われわれが別種の人間ではないという事実である。われわれも、第七三一部隊の延長線上にある人間であるということを忘れてはならない。」と宣明しているとおり、本書は隊員の個人責任を問うものではない(もしそうであれば石井部隊長に関する論調などはさらに激しさを増したであろう。)が、本書に記録された日本人が行った重大な加害の事実は決して消えるものではない。現在のロシアによるウクライナ侵攻をみるまでもなく、「侵略者が侵略の痕跡を隠したがるのは、侵略の罪悪性を承知しているからであり、戦争における自国の被害の歴史のみ強調し、加害の事実はできるだけ隠蔽しようとする。」という著者の指摘は、正鵠を得たものであり、著者が「国民全体が戦争の狂気に取り憑かれたとき、冷静なブレーキとなるのは、過去の正確な記録である。」と警鐘を鳴らす意味において、本書の価値は現在においても揺らぐところはなく、むしろ一層高まっているというべきであろう。
fugyogyo
731部隊の犯した戦…
731部隊の犯した戦慄を覚えるような所業には、人間の根源的な問題にあると思いました。遠藤周作の「海と毒薬」も人体実験を描いた小説だけど。(実話を基にしてるだけに重くて、恐ろしい)
文庫OFF
わたしが中学生の頃 赤旗に連載された読み物ですが、どこまでが事実で、どこからが間違い(Fiction)なのか色々議論のある作品である。森村誠一の取材協力者は「赤旗」の記者だったそうだ。731部隊に関係しない写真が含まれていたことが後に判明したらしい。 九州帝国大学の米軍捕虜生体実...
わたしが中学生の頃 赤旗に連載された読み物ですが、どこまでが事実で、どこからが間違い(Fiction)なのか色々議論のある作品である。森村誠一の取材協力者は「赤旗」の記者だったそうだ。731部隊に関係しない写真が含まれていたことが後に判明したらしい。 九州帝国大学の米軍捕虜生体実験(「海と毒薬」のモデル」となった) と並び日本軍による加害事件として記憶にとどめるべきと私は思っている。しかし米軍が731部隊の生物兵器データ提供の見返りに731部隊員を免責したのが事実なのか否かは私の思い込みか否か再検証してみようと思った。
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細菌兵器の研究開発のため人体実験を繰り返したと言われる731部隊の全容がまとめられている。戦争の足音が近づきつつある今日こそ読んでおいた方がいいかもしれない本。小説的な表現があるためやたらと映像的で生々しく、戦時中の異常さが疑似体験できた。 マップや写真などが豊富で、内容も興味...
細菌兵器の研究開発のため人体実験を繰り返したと言われる731部隊の全容がまとめられている。戦争の足音が近づきつつある今日こそ読んでおいた方がいいかもしれない本。小説的な表現があるためやたらと映像的で生々しく、戦時中の異常さが疑似体験できた。 マップや写真などが豊富で、内容も興味深いため、想像の中でホルマリン液や消毒液にまじる寒天の腐臭にまみれながら、ロ棟を連れ回されたような気分だ。 予想以上に闇が深い。人間こんなにも共感性を失えるものかと思う。でも、残念ながら、731部隊はよだれをたらした頭のおかしいサディスト集団ではなかった。実験体が人間でさえなければ、有能な研究者や技術者たちが立ち働く活気のある職場だ。そう、まるでプロジェクトX。あのノリと使命感で、正気のまま、平気で人間を解体するところに本当の闇がある。 合理的に運営されている清潔な最先端研究施設で、人間が人間に「丸太」と名付けて番号管理、毎日2〜3人をシステマティックに生体解剖し、細菌入り饅頭を与えて観察し、死体の山を築きつつ確実に研究成果をあげる。それと同時にテニスや盆踊りで福利厚生を享受し、同僚の戦死に心から手を合わせる。 こんなもの全員イカれた悪魔のサイコパスだろうと思いたくなるが、そうではない。訓練され慣れてしまった普通の人たちだ。アイヒマンも731部隊員も、我々と同じ勤勉な働き者だったところに戦争の禍々しさがある。しかも、研究成果は戦後もアメリカや日本で活用されているという。 今でも「死刑囚は生体実験に回せ」だのいう言葉がネットに書き込まれており、死刑囚自身の残虐性により特に問題視されてはいないが、731部隊の理屈がまさにこれだったのを考えると、非常に憂鬱になる。誰かを非人間化することに麻痺するのはとても危険だ。その先には731部隊の犯罪が待っているのではないか。 戦時下においては、我々全員が非人間化される。つまり焼いても殺してもいい「マルタ」として互いに殺し合うよう上から命ぜられる。そうでなければ人は人を殺せず、人が死ななければ戦争も成り立たない。その意味で、戦争自体もともと人道に反する犯罪だ。 また、本物の戦時下になくとも、誰かを非人間化して攻撃している時点で、一種のバーチャルな戦争に参加し、自分をも非人間化していると言える。つまり「ひとでなし」に。もちろん、ひとでなしは人間じゃないのでマルタという消耗品だ。 命ぜられたターゲットに群がって憎悪を焚きつけるという意味で、SNSの炎上は戦争のイメトレとしてもってこいだろう。国民の番号管理という非人間化もすでに始まっている。あとは敵の設定と味方の犠牲という付け火があれば、あっという間に恐怖と怒りの火は燃え広がる。731部隊は忘れたらそれで終わる例外ではない。日常から続く道の先にある。
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※このレビューにはネタバレを含みます
「われわれが『悪魔の飽食』を二度と繰り返さないためにも、民主主義を脅かす恐れのあるものは、どんなささやかな気配といえども見逃してはならない」(P301) 中立的な歴史、客観的な歴史、公正で公平な歴史などというものは、この世に存在しない。なぜなら歴史(hi“story”)は「物語られるもの」であり、語りという行為に主観を入れずに済ますことなど不可能だから。これは私一個人の意見ではなく、もはや手垢のついた言説であると言ってよい。 この著書を完成させた著者陣の根気と執念は尊敬に値する。このように“上から目線”で評価すること自体が烏滸がましいと感じるほどだ。ただ惜しむらくは、書き手自身がこの本を「事実の記録」だと認識していて、「主観のモンタージュ」であることに自覚的でないということだ。 本書は、元隊員らの証言を著者陣が再構成して出力したものである。証言も主観なら再構成も主観であり、主観に主観を重ねた「主観のモンタージュ」が、本書の本質であると言ってよい。ここには、元隊員らが事実を「語ったもの」を、更に著者が「語る」という、二重の語りの構造があるのだ。というか、ルポルタージュ(記録“文学”という邦訳の与えられる一ジャンルである)は基本的に、この二重の語りの構造を逃れられない(私が知る限りでこの二重構造を最も薄めたものは『SHOAH』であるが、従来の戦争映画を脱構築するという作り手の「意図」を載せた映画であることもまた間違いない。「薄めた」であって「逃れた」ではないのだ)。 そういう意味で本書は、著者の反戦思想を載せた「記録“文学”」である。読み終わる頃には性善説を信じる気にはなれなくなり、人間の正義や道徳などかくも儚いものであるかと思い知ることになる。それが悪いことだと言うつもりはない。それがこの本の役割なのだからそれで良いのだ。 私のような戦争を知らぬ人間に、それがいかに愚かでいかに恐ろしいものなのかを叩き込む。そのために書かれた本であることは、著者自らが述べている通りだ。中途で著者が登場して自分の意図を述べ、あるいは証言が小説調で語られる。読み手の「感情」に訴えかける表現が随所に登場するのだ。単なる事実の羅列では、こんな効果は得られない。もし本書が、単純に731部隊で起きたことをまとめた年表でしかなかったら、本書から得られる感情はひどく薄っぺらいものになっただろう。 この本が「主観のモンタージュ」だからこそ、読み手は心を動かされるのだ。 ただ、著者が最後の最後でこれを「事実の記録」と述べてしまっているところに、若干の危うさを感じもする。 731部隊のことを語るインターネット上の言説は、大抵感情的だ。存在したかしなかったか、という根本的なところで言い争う姿も見られる。その姿を否定するつもりはない。前述の通り、歴史は「物語」であり、主観なき物語・感情なき物語など存在しないのだから。歴史をめぐる論争は、極論主観と主観の戦いだ。……というのは、いささか極論すぎるかもしれないが。 ただ、自分が感情的であることを自覚せずに「自分は客観的である」と主張する人間は、間違いなく胡散臭く見えてしまう。それだけで、その人物の言葉の説得力は失われてしまうだろう。要するに、そういうことだ。
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新型コロナウイルスを中国による生物兵器と考える人たちがいるとのニュースを見て、戦時中日本の関東軍による大陸での細菌兵器研究で現地人や捕虜を「丸太」と呼んで非人道的な生体実験を繰り返したとされる731部隊を思い出したので読んだドキュメンタリー。 この本に書かれたとおりだとしたら、...
新型コロナウイルスを中国による生物兵器と考える人たちがいるとのニュースを見て、戦時中日本の関東軍による大陸での細菌兵器研究で現地人や捕虜を「丸太」と呼んで非人道的な生体実験を繰り返したとされる731部隊を思い出したので読んだドキュメンタリー。 この本に書かれたとおりだとしたら、千葉の豪農出身でお金と女にダラしない石井四郎という人間に権力を与えてしまったことが悲劇の中核の1つのように思った。ただでさえ暴走していた関東軍だし、絶大な権力を持つ組織のトップにモラルがなければ反対した人間はそれこそ実験台にされて酷い殺され方をしそう。 古い本だし、ここに書かれた情報が絶対であるかはわからないことを前提としても、モラルのない人間が権力を握ることの恐ろしさと人間の尊厳とは何かということを考えさせられた。 イエスマン以外は堂々と排除すると明言するような今の日本の政治家も恐ろしいなぁ…。
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某少年マンガの登場人物の名前が丸太と付けられて問題になった、というのがきっかけで731部隊に興味が湧いた。 個人的にはキャラクターの名称変更に賛成。偶然同じ名前だったとしたは丁重に避けるべき具体例だったと思う。 衝撃的な内容だった。国家権力が信じられない。 戦時体制となるかなら...
某少年マンガの登場人物の名前が丸太と付けられて問題になった、というのがきっかけで731部隊に興味が湧いた。 個人的にはキャラクターの名称変更に賛成。偶然同じ名前だったとしたは丁重に避けるべき具体例だったと思う。 衝撃的な内容だった。国家権力が信じられない。 戦時体制となるかならないかは置いておいて、国のためという思想統制が暴力を伴って行われたら、私はどう動くんだろう…
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世界で最大規模の細菌戦部隊(通称石井部隊)は日本全国の優秀な医師や科学者を集め、ロシア人・中国人など三千人余の捕虜を対象に、非人道的な数々の実験を行った。
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現代に覗いた恐るべき素顔◆特集軍事区域◆残酷オンパレード◆暗黒の小宇宙・七三一◆七三一はなぜ「悪魔」なのか◆人間への跳躍◆細菌戦のノウ・ハウ◆悪魔の姉妹・一〇〇◆飽食の日々◆日本陸軍の私生児◆仮面の"軍神"◆七三一崩壊す◆軍神は甦らせてはならない◆七三一の意味...
現代に覗いた恐るべき素顔◆特集軍事区域◆残酷オンパレード◆暗黒の小宇宙・七三一◆七三一はなぜ「悪魔」なのか◆人間への跳躍◆細菌戦のノウ・ハウ◆悪魔の姉妹・一〇〇◆飽食の日々◆日本陸軍の私生児◆仮面の"軍神"◆七三一崩壊す◆軍神は甦らせてはならない◆七三一の意味するもの
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"第二次世界大戦の歴史に埋もれた関東軍第731部隊の実態を探った本。 青木冨貴子さんの「731」を読んだ後にこの本を読むと、調査対象との距離感の違いが鮮明にわかる。 青木さんは、調査対象との距離を適度に保ちながら、客観的に読者を誘う。一方本書の森村誠一さんは、自らの思い...
"第二次世界大戦の歴史に埋もれた関東軍第731部隊の実態を探った本。 青木冨貴子さんの「731」を読んだ後にこの本を読むと、調査対象との距離感の違いが鮮明にわかる。 青木さんは、調査対象との距離を適度に保ちながら、客観的に読者を誘う。一方本書の森村誠一さんは、自らの思いが強すぎて主観を至る所にちりばめた感がある。 当事者が当時感じたことなのか、筆者の思想なのかがわかりにくい。巨悪な集団を告発するというスタンスで、洗脳のように筆者の感じたことが繰り返し聞かされることになる(終章で「戦争という集団狂気の中」では、俯瞰したコメントを残しているが、本編では終章のスタンスでかかれたところは少ないような気がした)。また、論理的につながらない文書もあり、本書が発行された当時もマスコミのネタとなり、いろいろなことがあったそうだ(序文から)。 ただ、この本に書かれていることを調べ上げた森村さんの努力には本当に頭が下がる思いを持った。"
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