となり町戦争 の商品レビュー
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「戦争」という人の死をも合理化するイベントが行政事業として、当たり前のように、淡々と進められていくことに、「偵察」という形で関与しながらもリアルを感じられずにもがく「僕」。戦争という名を借りているものの、不合理であっても目的のために強引に進めている行政と、それを無批判に受け容れている現代社会を強く映し出している。 文庫版の「別章」は蛇足に思えるが、上手く内容を咀嚼できない読者を代弁した話であり、P259の「関わっていようがいまいが、誰かを間接的に殺している」、P272の「「現実」に生きているつもりで、全く見ていなかった」という表現が印象的。 心情描写のレトリックも巧みで、P114のチーズの味気なさ、P166のブラックコーヒーの苦さは、戦争を実感できていない「僕」の心情を表す表現として非常に面白い。
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となり町との戦争がはじまる。 ***** ある日、突然となり町との戦争が始まった。 戦争がすぐ側で起きていることに現実味を感じることができぬ中、広報紙に発表される戦死者の数は確実に増えていく。 戦争は確かに今起こっていることなのだ-。 そんな中、”僕”のもとに”戦時特別偵察業務従事者”の任命書が役場から届いた。 ***** 何の前触れもなく、地域の広報紙にぽつんと掲載される戦争の告知。 やがて、戦争開戦の日を迎えても、町が崩壊している様子もないし、人々はいつも通りに生活している気がする。 本当に戦争なんてやっているの??と疑問を抱く主人公。 数日後、広報紙には戦死者の数が掲載されており、”戦争”の気配を僅かに感じることになる。 見えない戦争、そのテーマはとても興味深く、楽しみにしておりました。 間接的に、時に直接的に、現実ではないかのような戦争に関わる登場人物たち。 そんな小説を読んだ私はさらにさらに間接的に関わっているような気がして…感覚が鈍く、薄い。 登場人物たちがリアルに感じることのできない状況はさらにリアルに感じることができなくなった。 何か、距離を感じてしまったぞ?? リアルではない戦争を描くにあたり、物語の輪郭までもぼやけてしまっているような気がする。 文章の雰囲気、描き方はとても丁寧で、いいと思うのだけれど、”戦争のリアル”が迫ってこないの。 それが逆に怖いことなのかもしれない。 淡々とした香西さん(役場の女性)、そして、彼女の弟のキャラクターなんて、けっこう好きなんだけれどなぁ。 面白くない!ことはないのですが、何だか壁を感じつつ、読了。
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小説すばる新人賞 となり町との戦争がはじまる◆偵察業務◆分室での業務◆査察◆戦争の終わり◆終章◆別章
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戦争は、日常と切り離された対局にあるのではなく、日常の延長上にあるのだ。 この言葉の為の作品だったのだろう。 別章がなければまた違った作品になったのだろうが、追記された為に完成度は高くなった。 色々と考えさせられる作品だ。 ある日、突然にとなり町との戦争がはじまった。だが、銃...
戦争は、日常と切り離された対局にあるのではなく、日常の延長上にあるのだ。 この言葉の為の作品だったのだろう。 別章がなければまた違った作品になったのだろうが、追記された為に完成度は高くなった。 色々と考えさせられる作品だ。 ある日、突然にとなり町との戦争がはじまった。だが、銃声も聞こえず、目に見える流血もなく、人々は平穏な日常を送っていた。それでも、町の広報紙に発表される戦死者数は静かに増え続ける。そんな戦争に現実感を抱けずにいた「僕」に、町役場から一通の任命書が届いた…。見えない戦争を描き、第17回小説すばる新人賞を受賞した傑作。文庫版だけの特別書き下ろしサイドストーリーも収録。
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戦争と誰もがもつ日常の関係を主題に考えさせられる小説。 肌感覚を伴わないとなり町との戦争だが、だかららこそ見えない感じられない恐怖に無関心で無責任に日々暮らすことを問題視している。ザワザワと心が騒めく印象深い読書だった。
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現代日本でもし国内戦争があったらというif小説なのかな? 戦争があるのかないのか、誰がいつどうやって殺されてるのか明記しておらず、読者にすべて解釈を委ねるという感じの本なので、読む人によって好みが別れると思う。ちなみにぼくにはつまらなかった。 公務文書が多数登場するので、公務...
現代日本でもし国内戦争があったらというif小説なのかな? 戦争があるのかないのか、誰がいつどうやって殺されてるのか明記しておらず、読者にすべて解釈を委ねるという感じの本なので、読む人によって好みが別れると思う。ちなみにぼくにはつまらなかった。 公務文書が多数登場するので、公務ファンの人は気に入ると思うよ
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町同士の戦争が「公共の事業」として行われる世界で、主人公が偵察任務に従事する話。開戦したにも関わらず日常は相変わらず平凡なままで、でも自分の知らないところで増えていく戦死者の数というギャップに対して、主人公が戦争の意義を問うたり、戦争を「自分ごと化」していくのがメインのストーリー...
町同士の戦争が「公共の事業」として行われる世界で、主人公が偵察任務に従事する話。開戦したにも関わらず日常は相変わらず平凡なままで、でも自分の知らないところで増えていく戦死者の数というギャップに対して、主人公が戦争の意義を問うたり、戦争を「自分ごと化」していくのがメインのストーリー。 同じ作者の『失われた町』が個人的には結構面白かったので読んでみましたが、今作はそこまで面白くはなかったです。エンターテイメント性や面白さよりは、筆者の強い問題意識みたいなものを感じる作品でした。
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当たり前の日常の中に潜む非日常を描いた作品。 組織の論理の中で物事は矮小化し業務化していくのだなあ。 これと同じような事は(どの事象、レベルであれ)起きているような気がする。 ネットでのレビューを見ると、とある事(表現をぼかします)に否定的意見が多いけれど、 あれは感じることが...
当たり前の日常の中に潜む非日常を描いた作品。 組織の論理の中で物事は矮小化し業務化していくのだなあ。 これと同じような事は(どの事象、レベルであれ)起きているような気がする。 ネットでのレビューを見ると、とある事(表現をぼかします)に否定的意見が多いけれど、 あれは感じることができない非現実な戦争に飲み込まれていく主人公と香西さんのあがらいではなかったのかなと思うけど...深読みしすぎかな? 香西さんが業務の一環として行っていただけとは思いたくないな(笑) 昔読んだ小林恭二の「電話男」とか中井英夫の「電線世界」や大場惑の「メイズィング・ゲーム」を思い出した。
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突然始まった「目に見えない戦争」に巻き込まれる主人公 役所からは事務的に淡々と 偵察業務の辞令が来たり 広報紙で戦死者数が知らされる。 数字で伝わってきても実感がわかない、体感できない戦争 戦争は公共事業で、殺人が戦争行為の場合は、犯罪にならないなど、事象をルール化したり、請...
突然始まった「目に見えない戦争」に巻き込まれる主人公 役所からは事務的に淡々と 偵察業務の辞令が来たり 広報紙で戦死者数が知らされる。 数字で伝わってきても実感がわかない、体感できない戦争 戦争は公共事業で、殺人が戦争行為の場合は、犯罪にならないなど、事象をルール化したり、請負業者がいたりと三崎ワールドが展開される。 戦争によって感情を殺してしまった人、日常と戦争の区別がつかなくなった人などが出てきて、これまた自分だったら、と考えさせられる。 「となり町戦争」とは ニュースで見る事件事故の様なものを指していると思う。実感のわかない。 自分に置き換えても日々に忙殺されてテレビで見ても忘れていく事件、事故 のことを考えてしまう。 この本の事も忘れてしまうだろうか… 戦争を感じて「痛み」を得る主人公の描写に 伊藤計劃さんの「虐殺器官」を思い起こした。
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