坂部恵集(1) の商品レビュー
『理性の不安―カント哲学の生成と構造』(1976年、勁草書房)に収録されたものを中心に、著者のカントにかんする論考がまとめています。 著者は、カントが厳密な批判哲学を構築する一方で、人間学の講義において世界に対する幅広い関心を示していることに注目しています。著者によれば、人間学...
『理性の不安―カント哲学の生成と構造』(1976年、勁草書房)に収録されたものを中心に、著者のカントにかんする論考がまとめています。 著者は、カントが厳密な批判哲学を構築する一方で、人間学の講義において世界に対する幅広い関心を示していることに注目しています。著者によれば、人間学はカントの余技にすぎないものではなく、理性的な学問の内へ向けられたまなざしと同時に彼が持ちあわせていた外へのまなざしを示しており、この境界に立つことが彼の「批判」についての考えに通じていると考えています。つづいて著者は、前批判期の『視霊者の夢』をあらためて読みなおし、「批判」という方法論的立場が確立される以前において、上の二つのまなざしを持ちあわせながら、「視霊者の夢」と「形而上学の夢」のはざまで揺れ動いていた彼の思索の現場にせまろうとしています。 さらに著者は、カントの遺稿である『オプス・ポストゥムム』についても考察をおこなっています。「自然科学の形而上学的原理から物理学への移行」という晩年のカントの企図を解明するにさいして、著者はハイデガーが『ものへの問い』のなかで提出した「知覚の予料」の解釈に触れ、超越論的観点を内包量のゼロ地点とすることで、経験の可能性の条件を探求した批判哲学の地平から、経験の実質的な条件にかかわる問いへとカントが進もうとしていたのではないかという見通しを語っています。 批判哲学に尽きないカントの思索の歩みが示す哲学的な可能性について、著者自身の観点から考察をおこなった論考として、興味深く読みました。
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