糞尿譚・河童曼陀羅 の商品レビュー
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「糞尿譚」は著者曰く「日本一臭い小説」。 私財を売り払い、汲取業を起こした小森彦太郎が事業の金回りをめぐって、同業者や政治家、顧問、土地の住民などに振り回される話。 ラストは、溜まりに溜まった鬱憤が爆発し、糞尿をまき散らしながら、寿限無寿限無……と絶叫する。 間の抜けた主人公は滑稽でどこか憎めない。テンポよく話は進む。 作者は共産主義に傾倒したこともあるらしく、一種のプロレタリア文学と見ることもできる。 「河童曼荼羅」は、河童を登場人物にしたさまざまな種類の短編集。伝説、怪談、幻想譚、寓話めいたものまで。 水藻から生まれた河童とは別に、壇ノ浦で滅んだ平家は、男は蟹に、女は河童に生まれ変わった。 「魚眼記」「昇天記」「胡瓜と恋」「皿」が印象的。
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ザ・カタルシスと呼ぶべき小説だった。 糞尿回収事業をしている主人公は、とにかく人から小馬鹿にされてばかりいる。 気の弱い、小心者の男なので、いつもペコペコ頭を下げて、ムッとなってもすぐに誤魔化して笑ってしまう。 けれども溜まりに溜まった憤怒の情は、必ず、どこかで排泄される。それが...
ザ・カタルシスと呼ぶべき小説だった。 糞尿回収事業をしている主人公は、とにかく人から小馬鹿にされてばかりいる。 気の弱い、小心者の男なので、いつもペコペコ頭を下げて、ムッとなってもすぐに誤魔化して笑ってしまう。 けれども溜まりに溜まった憤怒の情は、必ず、どこかで排泄される。それが生物の生理現象なのだから仕方がない。 汚くも美しいラストシーンに、僕は思わず鳥肌がたった。(いろんな意味で)
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[ 内容 ] 出征前日まで書き継がれ、前線の玉井(火野)伍長に芥川賞の栄誉をもたらすと共に、国家の命による従軍報道、戦後の追放という、苛酷な道を強いた運命の一冊「糞尿譚」。 郷里若松の自然と人への郷愁を、愛してやまない河童に託し夢とうつつの境を軽やかに飛翔させる火野版ファンタジー、「河童曼陀羅」。 激動の昭和を生き抜く庶民的現実と芸術の至高性への憧憬―聖俗併せもつ火野文学の独自の魅力に迫る。 [ 目次 ] [ 問題提起 ] [ 結論 ] [ コメント ] [ 読了した日 ]
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男には糞尿撒き散らしたくなる時がある。 でも「俺うんこ持って殴りこんでいい?」なんて訊こうものなら本気で「うへええ」という顔をされ、「俺のギャグ全然通用しない」となるわけだ(漫画「釣れんボーイ」より名シーンを抜粋)。 この物語では汲み取り業者を経営する愚直な男が主人公である。...
男には糞尿撒き散らしたくなる時がある。 でも「俺うんこ持って殴りこんでいい?」なんて訊こうものなら本気で「うへええ」という顔をされ、「俺のギャグ全然通用しない」となるわけだ(漫画「釣れんボーイ」より名シーンを抜粋)。 この物語では汲み取り業者を経営する愚直な男が主人公である。 しかも自分から好き好んで汲み取りで一旗上げようと思った人物だ。 男ならば「今に見とれ」という心意気がなければ確かにいけない。 だけどその張りつめたものが切れた時、男はうんこを撒き散らす。 実際に撒き散らさなくても、精神的に撒き散らす。 これはそんな男の悲しき人生をユーモアで痛快に描き切った快作だ。 現代では全くの無名作家であるが、第6回芥川賞をこの作品で受賞。 戦後は「戦犯作家」として追放されるも、再び人気作家となったそうだ。 これは全くの不勉強だった。 またその最期も自殺という、云わば糞尿の撒き散らしぶり。 自殺した作家は信用に値すると自分は思うのだけど、その期待を裏切らない見事な作品だった。
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芥川賞第6回受賞作(1937下期) こういう作品はタイトルだけで敬遠しがちな私、最初は嫌々読み始めたのだが難なくすんなりと読み終え自分でも驚いている。大胆不敵で乱暴なように見え、緻密な構成と登場人物の心情の表現、考えの狡さについても筆者の細やかな気遣いが感じ取れる。そういった...
芥川賞第6回受賞作(1937下期) こういう作品はタイトルだけで敬遠しがちな私、最初は嫌々読み始めたのだが難なくすんなりと読み終え自分でも驚いている。大胆不敵で乱暴なように見え、緻密な構成と登場人物の心情の表現、考えの狡さについても筆者の細やかな気遣いが感じ取れる。そういったところが何名かの選考委員に評価されたようだ。(川端康成、室生犀星などは積極的には評価していないが) 主人公は排泄物の汲取業を行う事業者、色々な経済と政治の問題が絡み、従業員との会話の一端一端にも、酒好きで好人物で弱い、主人公の哀感がにじみ出、なんとも胸を締め付けられる。糞尿もたくさん溜めておくとメタンが出来て火がついたり爆発したりするでしょう、そんな感じで、テーマが糞尿なだけに美しくはない、けれど目の離せない、特に最後の黄金のシーン(糞尿をばらまき散らすシーン)は迫力がある。選考委員の宇野浩二が言い得ている。「もし世の文学に関心を持つ程の人で、『糞尿譚』を、題名だけで当て推量して、敬遠して、読まない人があったなら、その人は文学の神に見放されるであろう。それほどこの小説が傑作であるというのではないが、老いも若きも、この小説を読んで損をした気にならぬであろう、という程の意味である。」当時の世相もよくわかる、よい作品だと私は思う。 日中戦争出征前に書いた作品で、その後従軍作家になるや、戦犯作家の烙印を押されるやでその道はうねうねと曲がり大変だったろう。1960年に睡眠薬自殺している。
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