充たされざる者 の商品レビュー
退屈なのに読み進めたくなる作品。今まで体験したことのない読書体験だった。 読み切った後でやっと、全てのシーンに、ああ、なるほど、と納得できた。 登場人物全員がどこかおかしさを抱えていて、読者はそれに翻弄される。そこが面白いと感じられる作品でした。
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成し遂げた結果よりも、成し遂げる過程で刻まれる記憶を慈しむ。 幸福はそこにあるのではないか。 そして周りの皆の幸福があってこそ自らの幸福も有り得るのではないか。 このようなテーマを感じとり、さらに最後、鉄道に乗って移動する情景と絡めて、少々勝手だが『銀河鉄道の夜』を想起した。 ...
成し遂げた結果よりも、成し遂げる過程で刻まれる記憶を慈しむ。 幸福はそこにあるのではないか。 そして周りの皆の幸福があってこそ自らの幸福も有り得るのではないか。 このようなテーマを感じとり、さらに最後、鉄道に乗って移動する情景と絡めて、少々勝手だが『銀河鉄道の夜』を想起した。 音楽家としての名声と、代償として失った家族との生活、愛する者からの信頼。 ほんとうは、後者がなによりも大切であった。 町おこしのイベントとしてピアノ演奏に来たはずが、ライダーは周囲の者の生き様を見せられるばかりで翻弄される。だがそれらの出来事はライダー自身の過去を投影し、かれは意識の深淵に潜り込む。これでよかったのか、よいはずだ、まちがっているのか、そうではないのか……。演奏会場にたどり着こうとしてさまよう町は意識そのもの。 人生の歩みの中頃に真に大切なものに気づき始めてさめざめと泣く、そんな暗さは、夢から引き戻されて目覚めたころに味わう侘しさと色合いが似ている。 訳者は、カズオ・イシグロは薄明、薄暮の作家だとコメントしているが、それは言い得て妙だ。 ひとつを追い求めれば片方が離れていく、そんなもどかしさが作品全体を覆っている。 この長さがあってこそ、深い感動を得られた。 すぐにはわからないのが、生きるということであるから。そして挙句の果てに、わからないものだから。
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どこまでも続く混沌とした世界。希望を求めながら、信念を抱きながらも、どうしようもない世界に身を置く人たちの声が響き合う。 そんな物語(物語ではないかもしれない)を900ページにわたって総合的に立ち上げている。良い意味で退屈。読み続けるのに苦労したが、唯一無二の読書体験だった。 柴...
どこまでも続く混沌とした世界。希望を求めながら、信念を抱きながらも、どうしようもない世界に身を置く人たちの声が響き合う。 そんな物語(物語ではないかもしれない)を900ページにわたって総合的に立ち上げている。良い意味で退屈。読み続けるのに苦労したが、唯一無二の読書体験だった。 柴田元幸さんがイシグロベストに挙げるのも納得の一作。
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面白かったの一言に尽きる。ページが進めば進むほど引き込まれていった。不思議な雰囲気が癖になる。カズオ・イシグロ作品の中でいちばん好きかも。
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230708*読了 900ページ以上の大作。読書好き、カズオ・イシグロファンとしては嬉しい。 冒険ものでもミステリーでもないのに、よくこんなにたっぷりとこのストーリーを書けたものだと思う。 架空の街があり、そこで公演を行うためにやってきた有名ピアニスト、ライダー。 この街にとっ...
230708*読了 900ページ以上の大作。読書好き、カズオ・イシグロファンとしては嬉しい。 冒険ものでもミステリーでもないのに、よくこんなにたっぷりとこのストーリーを書けたものだと思う。 架空の街があり、そこで公演を行うためにやってきた有名ピアニスト、ライダー。 この街にとっても転機となる重要なイベントに招かれ、大役を果たすつもりでいるのに、ホテルの支配人、ポーター、ポーターの娘とその息子、街の議員たち、再起を果たそうとする指揮者、そのかつての妻…とにかくたくさんの人の願望に巻き込まれてしまう。 現実と夢、現在と過去が、ごちゃごちゃと混ぜ合わさっているような、なんとも夢想的な流れに捉われ続けるライダー氏。 いったい何がリアルなのか。リアルなんてものは存在しなくて、全てが夢なのか。分からない。その分からなさがおもしろい。 ともすると、飽きてしまうような展開なのに、早く続きを読みたくなる。この力こそが、カズオ・イシグロさんなのだと強く思う。
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カズオ・イシグロの4作目。ハヤカワ文庫で948P(厚いし重い。物理的に読みづらくて手こずった)。 不条理ゆえか、焦燥から喪失、郷愁‥‥いろいろな感情がよぎった。今までにない不思議な読後感。
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900ページ越えの分厚い物語は、高名なピアニストが演奏のために町に着いたところから始まる。出会った人々から次々と持ち込まれる奇妙な依頼に振り回され続ける物語。ドアを開けると全く別の空間に繋がっていたり、人の記憶が自分の記憶にすり替わっていたり、突然に生み出される過去の重大な記憶など時系列も不安定で、状況を捉えにくい。はじめはとても読みにくかったが、すぐにこれは夢の中なのだと気付き、不穏な空気に溢れる不思議な世界を堪能しました。巻き込まれたできごとの周りでの悪戦苦闘が延々と続き、何かがスッキリと解決する場面は一つもなく、もちろんハッピーエンドとかバットエンドとか単純に括れず、捉え方によっては悪夢とも言えなくはないが、それでもほのかな未来への希望が感じられる小説でした。夢の中も現実の人生も同じようなものなのも。
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こんなにも読みながらイライラした小説は初めてだ。ただイライラするというのは、面白くないということではないのだ。主人公は自分の予定も訪れた街の地理も把握しないままさまよい歩き、出会った人たちからの不躾な頼み事を断ることもできずドタキャンする。自己弁護に満ちた語りが何ページにもわたり、悪夢のような迷宮を通りぬけると、最後にはこっけいな悲劇に転じる。主人公は目的だったリサイタルすらせずに街を去ろうとしている。カズオ・イシグロらしい、皮肉に満ちた人生の迷宮のような作品だ。
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すべてが夢の中の話なのかと思うほど、空中に浮かんだように感じる文庫本900ページを超える作品。それなりに話は展開されていくのであきはしないが、もう一度読み返そうとは思えない。イシグロさんの小説の中では散漫だなと思ってしまう一冊。
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最後のなにも解決してないのに知らない下層階級の人に泣きついて朝食を食べるラストが気持ち悪すぎて変な夢を見た。 でも読んだ本に左右されて眠れなくなるほど心に色が付いていない部分があったんだと知って嬉しくなる。ずっと子どものまま小さいものも大きく感じたい。
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