聖母の贈り物 の商品レビュー
登場人物が少ないながらも、人物の内情を深くまで観察しているトレヴァー。 静かで冷酷な世界をやさしいまなざしで見つめる作家を感じる。 特に「聖母の贈り物」は、運命を苦しみながら受け入れて進んでいく男の姿がありありと浮かんで心が震えた。 会話文が少なくて、情景文で語るのが、トレヴァー...
登場人物が少ないながらも、人物の内情を深くまで観察しているトレヴァー。 静かで冷酷な世界をやさしいまなざしで見つめる作家を感じる。 特に「聖母の贈り物」は、運命を苦しみながら受け入れて進んでいく男の姿がありありと浮かんで心が震えた。 会話文が少なくて、情景文で語るのが、トレヴァーの好きなところ。
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アイルランドの土と冷たい風の匂いがする短編集。なかでも、「マティルダのイングランド」がやはり秀逸でした。「戦争になったら冷酷になるのが自然なのよ」ということばが刺さった。
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薦められて、図書館にて。海外文学を読み慣れてないので、なかなか難しかった。もっとスムーズに、娯楽として読めるようになりたい。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
アイルランドの作家、ウィリアム・トレヴァーの短編集。『マティルダのイングランド』のみ3篇でひとつの物語をなしてますが、それ以外はすべて1篇で完結してます。著者から関心を持ったのではなく、訳者から興味を持って手に取りました。ちなみに訳者はキアラン・カーソンの『琥珀捕り』を訳した方です。 主人公の造形も舞台も時代背景もバラバラながら、すべての短編に共通するのは登場人物たちの心理&外見の描写の細やかさと、彼らを取り巻く風景の描写の美しさ。もちろん著者の筆力によるところが大きいものばかりですが、日本語としてこれだけ綺麗な文体にまとまっているということを考えると、訳者である栩木氏の技量に感服し、また感謝する次第です。 どの短編が一番好きか、となると、評価は分かれるでしょう。短編の割に長めの『マティルダのイングランド』が好きな人もいるでしょうし、短い中に劇的な場面転換がある、表題作でもある『聖母の贈り物』が気にいる人もいるはず。あるいは映画にできそうな『イエスタディの恋人たち』や、悲劇であり喜劇のようでもある『こわれた家庭』が好きな人もいるかもしれません。自分は白黒映画のような『丘を耕す独り身の男たち』と『エルサレムに死す』、そして『聖母の贈り物』が好みに合いました。 どれか一つは確実に、お気に入りの作品として心に残る可能性は非常に高いと思います。図書館で借りてきた本ですが、どこかの本屋で見つけたら改めて買って本棚に並べてみたいな、と思えた佳作です。
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ここ数年で読んだ海外の短編集の中で確実にナンバーワン。 短編というには紙幅が・・・というものもあるんですが、基本的に私は何枚以下なら短編ではなく、文章の呼吸の感覚のようなもので分けられると思うのでこれは紛うことなき短編集です。 何れもほとんどが「過去」について、「過去」にとらわ...
ここ数年で読んだ海外の短編集の中で確実にナンバーワン。 短編というには紙幅が・・・というものもあるんですが、基本的に私は何枚以下なら短編ではなく、文章の呼吸の感覚のようなもので分けられると思うのでこれは紛うことなき短編集です。 何れもほとんどが「過去」について、「過去」にとらわれている人々が描かれている。 過去は温かいけれど、冷酷。 冷酷への道筋や理屈に圧倒された。 自分の故郷を飛び出して新たなことに挑戦するとかいう勇気が称揚されがちだけど、そんな勇気よりも、過去に留まる、過去に生きるという決意をするほうがよほど勇敢なのではないかとふと考えさせられた。
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アイルランド出身の作家ウィリアム・トレヴァーの短編集です。 短篇の名手であるウィリアム・トレヴァーの短篇が12編おさめられています。 最初の短篇「トリッジ」 ハイスクール時代、いじめてバカにしていたトリッジと中年になって再会した三人組に待ち受けるリベンジとは? 「マティルダ...
アイルランド出身の作家ウィリアム・トレヴァーの短編集です。 短篇の名手であるウィリアム・トレヴァーの短篇が12編おさめられています。 最初の短篇「トリッジ」 ハイスクール時代、いじめてバカにしていたトリッジと中年になって再会した三人組に待ち受けるリベンジとは? 「マティルダのイングランド」 イングランドの大邸宅を舞台とする三部作。 「聖母の贈り物」 聖母のお召しに従ってストイックで孤独な人生を送った男が最後に辿りついた場所は? 聖書のそして、レンブラントの「放蕩息子の帰宅」を思い出させるような結末。 アングロアイリッシュ(プロテスタント信徒のイングランド系アイルランド人)に生まれたウィリアム・トレヴァーは、イギリスやアイルランドを舞台に、多くの作品を描いている。 本格的作家活動に入ったのは30代半ばと遅いが、優れた作品を発表し、稀代のストーリーテラーと呼ばれる。 本書は、名匠トレヴァーの本邦初のベスト・コレクションである。
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若島正さんが現役世界最高の短編作家と紹介しているが、それに全面的に同意である。収録作マティルダのイングランドの素晴らしさといったらもう。ちくまのアイルランド短編選に収録されているロマンスのダンスホールも大好きです。
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凄い切れ味。一見弱く取るに足らないと思われていた者が恐ろしく強くまっすぐ (KYともいうかも) で、それを前にすると普通の人々の世間体、優しさ、欺瞞などは弱さをさらけ出さずにいられない。
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ストーリー・テラーの国、アイルランドは、多くの作家を輩出してきた。 語り部文化ケルトの子孫であるアイルランドの人は話が好きで、神話や伝説、妖精の話を子供の頃から聞いて育つ。 しかし、ウィリアム・トレヴァーの短編小説の世界は、かなりユニークだ。 「聖母の贈り物」は12話を収...
ストーリー・テラーの国、アイルランドは、多くの作家を輩出してきた。 語り部文化ケルトの子孫であるアイルランドの人は話が好きで、神話や伝説、妖精の話を子供の頃から聞いて育つ。 しかし、ウィリアム・トレヴァーの短編小説の世界は、かなりユニークだ。 「聖母の贈り物」は12話を収録したもので、様々な時代や国々を舞台とした短編集である。 トレヴァーの世界に慣れるには、多少の忍耐力とアイルランドの宗教・政治的背景についての予備知識があった方がいいかもしれない。 日常の風景が淡々と語られている緩やかな時間の流れには、ストーリー展開の速さを好む人は多少いらいらさせられるかもしれない。 しかし、この平凡な日常生活を見ている間に、宗教の対立、政治の紛争(トラブルズ)による傷跡が隠されていることに徐々に引き込まれ、だんだんと癖になるトレヴァーの世界へのめり込んでしまう。 12話中、いくつかインパクトの強かったものを選んでみた。 第一話の いじめを題材にした「トリッジ」は、私立の男子校で寄宿舎生のトリッジが、あまりにも純真だった為に、からかいの対象となり、大人になっても、いじめグループの同級生たちの話題に上り、いじめ3人組の家族達にもジョークの主人公としてよく知られている。 久しぶりの同窓会に冗談で招待されたトリッジは、これまで語られなかった学校での事件の一部始終を、そして、自分が如何に変身したかを、いじめグループとその家族全員の前で告白する。 幸せを装ってきた3組の家族達に、トリッジの告白は痛烈な復讐となった。 カトリックの宗教的な束縛、倫理観の中で生きる人達の悲哀。 「ミス・エルヴィラ・トレムレット、享年18歳」。 小さな町で語り続けられているのは、18歳で亡くなった少女エルヴィラの亡霊に取り付かれた少年のミステリー、、、しかし実際はミステリーでもなんでもなかった。 少年の生い立ちは、だれにも歓迎されない過ちの結果で、家族内の秘密だった。 カトリック信者の家族の中で、常に孤立していた少年は、プロテスタント教会の墓碑銘を読み、その若くしてなくなった少女エルヴィラとだけ心を通わせ、次第に精神錯乱状態になっていく。 表題作の「聖母の贈り物」は、カトリックの真髄とも言うべき奇跡をテーマにしている。 農家の一人息子、ミホールは、18歳の時、夢の中で、「修道院へ行きなさい」と聖母マリアのお告げを受ける。 敬虔なカトリック教徒の父も、「神様にまかせておけば間違いない」と一人息子を送り出す。 修道院で神への信心、忍耐、謙虚を身につけ、質素な修道院生活で修道士達との友情により力を得たが、またしても、「孤独を求めなさい」 と、2度目の聖母マリアのお告げを受ける。 アイルランド全土を歩きつくすほどの旅路の果てに岩だらけの孤島にたどり着いたミホールは、ただ一人の孤独な生活を始め、21年の月日が流れた。 3度目のマリアの出現では、「この年のこの月が終わらぬうちに、あなたはここを立ち去らねばなりません。」と告げられる。 孤独な生活を愛するようになり、より神に近づいたと感じているミホールは、混乱しながらも、「あなたのところを訪れるのはこれが最後です。」と言う聖母の言葉で、島を離れる。 再度、長い旅路が始まり、敬虔な農夫に食事を与えられ、荘園での歓待を受けながらも、孤独な旅を続け、その果てにたどり着いたのは、荒れ果てた農地に建つあばら家。 そこにいた老夫婦は年老いて盲目になってしまった父と、母だった。 一人息子を神に差し出した父母への 「聖母の贈り物 」は、一人息子、ミホールの帰還だった。 アイルランドのアラン諸島の岩だらけのイニシュモア島で自給自足をする知人のストイックなライフスタイルがこの話とダブって感慨深い!
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短編小説の名手と知られる、世界的に評価の高いアイルランド人作家で、彼の短編を気に入って日本で紹介・翻訳している人々の顔ぶれ(柴田元幸、村上春樹、柳瀬尚紀等)を見れば納得できる話だ。 この本はすでに発表済みの短編12編をアンソロジーとしてまとめたもので、いわばトレヴァー入門編にあた...
短編小説の名手と知られる、世界的に評価の高いアイルランド人作家で、彼の短編を気に入って日本で紹介・翻訳している人々の顔ぶれ(柴田元幸、村上春樹、柳瀬尚紀等)を見れば納得できる話だ。 この本はすでに発表済みの短編12編をアンソロジーとしてまとめたもので、いわばトレヴァー入門編にあたるもの。読み終えて感じるのは、どの短編にも強くキリスト教の抑圧的なイメージが(カソリックやプロテスタントを問わず)感じられることだ。カトリック教徒が多くを占めるアイルランドでは、その特有の風土や他国によって抑圧されてきた悲惨な歴史も独自の宗教観で捉えられているようだ。 そうした背景を元にして生み出される市井の物語も、自然にその倫理感やタブーを意識したものとなってしまうのだろう。ウィリアム・トレヴァー自身はアイルランドでは数少ないプロテスタント系のキリスト教徒のようであるが、そうした立場もまた微妙に作品に影響を与えている気がする。 なかなかシビアで、皮肉な人生模様がつづられた物語の数々だ。その中ではタイトル作の『聖母の贈り物』、ミステリアスで不思議な『ミス・エルヴィラ・トレムレット 享年十八歳』、60年代の不倫カップルを扱った『イエスタディの恋人たち』が心に残った。 翻訳及び編集を担当した栩木伸明氏の詳しい巻末の解説がちょっとした論文のようで圧巻。
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