村上春樹全作品 1979~1989(2) の商品レビュー
前作の『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』よりもストーリー性がはっきりしていて、題名の通り冒険小説のような物語。 所々ユーモア溢れた素敵な表現には、さすがとしか言いようがない。
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春樹の初期作品を読み返していて感じるのは、それまであった断章形式の語り口が次第に滑らかさを得て、骨太な「物語」へと変化(進化/深化)していくことだ。今回の読書経験を経て確かにウェルメイドなストーリーであることを確認し、同時にこの物語は結局のところ黒幕的存在(ある種のカリスマ)に自...
春樹の初期作品を読み返していて感じるのは、それまであった断章形式の語り口が次第に滑らかさを得て、骨太な「物語」へと変化(進化/深化)していくことだ。今回の読書経験を経て確かにウェルメイドなストーリーであることを確認し、同時にこの物語は結局のところ黒幕的存在(ある種のカリスマ)に自分が翻弄されていると読み、そこから反撃して終わるという構造から成り立っているとも読んだ。ならばそれは後の『ねじまき鳥クロニクル』『1Q84』にも通じるものであり、下手すると陰謀論めいた与太話としても読めてしまうのではないかとも思う
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ふむ…なんだか村上作品は不思議で頭が良くて、 しゅっとしてて、 煙草を吸って、 いつでもその主人公が望めば女と寝れて、 こういうことかな…?というニュアンスが汲み取れなければ 何の話かよく分からない物語が多いのか… 音楽や映画、 時々出てくるサンドイッチとオムライス それからビールとウイスキーとワイン。 北海道だけど、 どこか浮世離れした舞台だなぁ… でも実際に田舎に行けば行くほど どうやって暮らしているのか分からない程漠然とした冬に埋もれた町がたくさんあるもんなぁ…。
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第一章の章題が気になって読み直している。相変わらず、どんどん読める。困ったもんだ。気になったことは解決しない。村上春樹は三島由紀夫について、何を考えていたんだろう。
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話の筋を幾重にも枝分かれさせておいて、最後に一気にまとめあげたような感じ。ただこういった書き方が読者に次へ次へとページをめくらせるんだと思う。
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なるほど、これは毛色が違う。 先の2冊読んだ後では、どうしてこうなった感が強い。 退廃的なリアルが退廃的なファンタジーになっちゃった。 それにしても女性の扱いが相変わらずだ。意思があるフリをしているもの、ロボットのよう。生きているのかどうかもわからない。 主人公にとって…いや、も...
なるほど、これは毛色が違う。 先の2冊読んだ後では、どうしてこうなった感が強い。 退廃的なリアルが退廃的なファンタジーになっちゃった。 それにしても女性の扱いが相変わらずだ。意思があるフリをしているもの、ロボットのよう。生きているのかどうかもわからない。 主人公にとって…いや、もしかしたら村上春樹にとって、女性というものは通り過ぎていくものに過ぎないのかもしれない。
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最初、短編集かと思うくらい一つ一つの話につながりがないような気がした。昔の彼女の死とか(特に彼女が若い頃言った通りに死ぬって。小説ならドラマチックだろうけど。ここで話終わった感)別れた妻とのこととか、ちっとも関係ないと思う。 そしてこれも初期の短編とつながってたとは。 「羊をめぐる冒険」に関して言えば、一緒についてきた女の子も彼女の耳の話も正直いらない。共同経営者の友人もおまけっぽい。どちらも猫のいわしみたいな立ち位置。 僕、鼠、あとは、この話をもたらした先生の秘書の黒服、運転手、羊博士、羊飼い、羊男。 羊男がここにいたのかと少し驚いた。彼の登場で空気が変わった。あまりリアルな形で出るとちょっと怖いかも。 大事なのがジェイ。彼等がいつも最後に帰る場所のような気がする。 ミステリーかホラーかSFか、しかも途中まではそんなの何もなかったのに。いままでの村上春樹作品ぽくない。でもこれもきっと村上春樹なのか。
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彼女は二十一歳で、ほっそりとして素敵な体と魅力的なほど完璧な形をした一対の耳を持っていた。 彼女はハンドバッグから黒いヘアバンドを取り出すとそれを口にくわえ、両手で髪をかかえるようにして後にまわして素早く束ねた。 「どう?」 僕は息を呑み、呆然と彼女を眺めた。口はからから...
彼女は二十一歳で、ほっそりとして素敵な体と魅力的なほど完璧な形をした一対の耳を持っていた。 彼女はハンドバッグから黒いヘアバンドを取り出すとそれを口にくわえ、両手で髪をかかえるようにして後にまわして素早く束ねた。 「どう?」 僕は息を呑み、呆然と彼女を眺めた。口はからからに乾いて、体のどこからも声はでてかなかった。白いしっくいの壁が一瞬波打ったように思えた。店内の話し声や食器の触れ合う音がぼんやりとした淡い雲のようなものに姿を変え、そしてまたもとに戻った。波の音が聞こえ、懐かしい夕暮の匂いが感じられた。しかし、それらは何もかもほんの百万分の一秒かのあいだに僕がかんじたもののほんの一部にすぎなかった。 「すごいよ」と僕はしぼり出すように言った。「同じ人間じゃないみたいだ」 「そのとおりよ」と彼女は言った。 鼠からの手紙とその後日譚 車とその運転手 「ねえ」と僕は運転手に訊ねてみた。「円周率は知ってる?」 「3・14っていうやつでしょ?」 「うん、でも、小数点以下何桁まで言える?」 「三十二桁までは知ってます」と運転手はこともなげに言った。 彼女と別れてしまった今となっては、それは永遠にわからない。 「もし私が死んだら」と彼女はよく言ったものだ。「あのノートは燃やして。石油をたっぷりかけて完全に焼いてから、土に埋めて。一字でも見たら絶対に許さないわよ」 「だって僕と君はずっと寝てるんだぜ。体の隅から隅まで大抵のことは知ってる。今更どうして恥ずかしがるんだ」 「細胞は一カ月ごとに入れかわるのよ。こうしている今でもね」彼女はほっそりとした手の甲を僕の目の前にさしだした。「あなたが知ってると思っているもののほとんどは私についてのただの記憶にすぎないのよ」 彼女は―離婚する前の一カ月ばかりをのぞけば―そのようにきちんとした考え方をする女だった。 鼠、連絡を乞う 至急!! ドルフィン・ホテル406 十二滝町の誕生と発展と転落 彼女は山を去る。そしておそう空腹感 僕はなつかしい型の手動式のトースターでパンを焼き、フライパンにバターをひいて目玉焼きを作り、冷蔵庫にあった葡萄ジュースを二杯飲んだ。彼女がいないのは寂しかったが、寂しいと感じることができるというだけで少し救われたような気がした。寂しさというのは悪くない感情だった。小鳥が飛び去ってしまったあとのしんとした椎の木みたいだった。 羊男来る
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鼠と僕から、一見強く濃い繋がりは感じられないのになぜこんなにも深い友情を感じ取れるのだろう...と、読み終わった今もぐるぐるしています。 目には見えないけれど確実に存在する、抗い様のない力に寄って大切なものを失い続ける人達の物語を、ずっと書き続けているんだなあと思いました。
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著者の3作品目ですが、これまで3作を続けて読んできて感じることは、この著者の不思議な雰囲気は登場人物の名前が全て隠されていることにあるのかも知れません。「僕」「彼女」「鼠」「いるかホテルの支配人」「羊博士」「羊男」などと全て無記名であることが、メルヘンの匂いを漂わせています。例えば緑、直子などの名前があるとイメージが先行してしまうのでしょう。プロの作家になって最初の作品ということで、私小説風な前2作とは一変して哲学的な意味合いを感じさせる作品になっています。他愛もない会話の中に、もの凄いメッセージが込められていることがありそうですから。(P165)終盤近くの僕と鼠の会話などは「君は世界が良くなっていくと信じているかい?」などの言葉が自然に出てきます。意味は分らないまでも、異時元の世界にはまり込んだような錯覚を覚えました。羊が安政年間に日本に初めて入ってきたとのこと。タクシーの運転手との宗教的な会話で神様の電話番号を教えてもらうという場面は、一気に惹き込まれる効果がありました。
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