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ドクトル・ジバゴ(上巻) の商品レビュー

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2018/11/17

自分が正義と信じていたものが、明日、全く否定されたらどう思うだろうか。 社会の価値観が次の日には180度変わっていたら、どう行動すればよいのか。 この作品は葬式の場面から始まる。ロシアの葬送の歌「永遠(とわ)の記憶」が歌われる。まさに大波に揺さぶられる小舟のように明日もわからぬ...

自分が正義と信じていたものが、明日、全く否定されたらどう思うだろうか。 社会の価値観が次の日には180度変わっていたら、どう行動すればよいのか。 この作品は葬式の場面から始まる。ロシアの葬送の歌「永遠(とわ)の記憶」が歌われる。まさに大波に揺さぶられる小舟のように明日もわからぬほど時代に翻弄される登場人物たちの激動の人生と比すると、その歌の名は皮肉にも思える。 著者パステルナークのノーベル文学賞授賞(受賞と書けない)の騒動と、日本のソ連アレルギーもあって、ドストエフスキーの諸作品とも同列に論じても劣ることのないこの作品は、極めて不当に過小評価されていると思う。 冒頭に書いた問いについての解答は、私にもわからない。ジバゴはこの長編で自分自身の人生からある一つの答えを導きだしたのかもしれない。それは自分の恣意でもなく、時代に流されっぱなしでもない。一人の人間として、激動の時代に対する「永遠性」を終始思い描こうとした結果の帰結。それがジバゴの人生だったと私は読解した。 そもそも日本はこの作品舞台のような驚天動地の歴史を持たず(明治維新や敗戦時すらもこの作品の時代背景の前では小さく見える)広大な国土を持たない。その時点でこの作品と同等の主題を日本の小説から見出すことは不可能だろう。 日本の小説と若干異なる組成をもつこの作品を訳者の江川卓氏はロシア語のもつ意味やロシア人の思考法に細部まで目配せしており、ロシアに行ったことのない私たちでも、意義をはずすことを恐れる必要はない。 (2007/10/4)

Posted byブクログ