逆転 の商品レビュー
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1987年(底本1977年)刊行。 著者はノンフィンション・ライター。 1964年、返還前の沖縄において、複数のウチナンチューによる米国軍人らに対する傷害あるいは傷害致死被告事件が裁かれた。 それは、当時の日本の刑事裁判と違い、陪審制の下で行われたものであるが(ただし、所謂裁判員裁判制度と評議の構成員などは違う)、その内実と、その合わせ鏡の如き当時の米軍治世下の沖縄の模様を開陳していく。 著者は、本書刊行の意義を①当該事件の誤った世評を正す点。②当時の沖縄における善政とは程遠い米軍治世の実情を暴く点。③陪審制の優れた面とを明らかにしようとしたとのこと。 確かに、①②については被告人が沖縄県民である一方、裁判官が米国人である上、陪審員も米国人が多く含まれていた(陪審員の評議の主導をしていた人物を含む)こと、裁判以外の模様を正す点、判決結果の偏頗性・政治性を厳しく糾弾する姿勢など、一事件を通してであるが、なかなか読ませる内容になっている。 ただ、③はどうなんだろうか?。 そもそも、本作の眼となった沖縄人の陪審員をして、共謀共同正犯論の検討や、無罪推定の原則に忠実足らんとした姿勢など、極めて誠実ではある。つまり陪審員としての職責を全うしたと言える。 しかし、その彼ですら、縮小認定の議論には十分な理解がなされていない。その他の陪審員に至っては、検察官の声に惑わされ、あるいは沖縄人罰すべきという米国人陪審員の雰囲気に呑まれ、言い出しっぺがいないと評議において採用証拠の吟味はしなかったろうし、さらには法廷でメモすら取らなかったといった具合だ。 本件の場合は、偶々きちんとした人がいたから意味あるものとなった。が、仮にいなければどうなったのかという不安要素を掻き立てられた(ただし、現行裁判員制度は異別。評議は裁判官と共同ではある)。 著者ほど諸手を挙げて容認という気にはならなかった読後感。 逆にいえば、裁判員には証拠を懸命に吟味し、その職責を全うしてもらいたいという意を強くしたところ。 死亡した米軍人を含め、事後のリサーチできない部分もあり(記録の亡失もある)、創作(その範囲は被害者米兵の事件前の行動と明示。まぁ事実上は著者の推測だが、刑事事件の本筋とは言い難い枝葉か)が混ざっていると明記した著者の姿勢には好感。 ともあれ、裁判員裁判制度の原点となった陪審制、刑事事件に対する向き合い方(=他の方法よりはマシだが、裁判システムの持つ限界)を看取できる点、他方、返還前の沖縄が置かれていた現実(軍事基地を維持するためだけではあるが、米軍による植民地支配)を鋭く抉る逸品。一読に俶はない書である。
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