絵図にみる荘園の世界 の商品レビュー

小山靖憲,佐藤和彦【編】

2022/07/24

東京教育大学卒業生、小山靖憲 著。
目に見える以上の情報量。

大学の「歴史地理学概説ｂ」の参考書として使用。授業で取り上げられる、日根野村絵図、洛中洛外屏風が詳解される。
単なる景観として捉えるのみならず、関連文書も参照しながら当地の事情に深掘りして踏み込む。絵図に書き込まれたものから、多くの情報を引き出していて感心する。気づかされることが本当に多く、絵図に対する見方を得られた。歴史の調査の材料としての観点も非常に参考になる。
別書「日本荘園絵図集成」を参照すると、その中でも素人にも興味を惹く絵図を、本書は厳選して取り上げていることがわかる。彩色豊かで比較的きれいな絵図は見るだけでも楽しめる。解説はちゃんと議論を尽くしていて正当性も感じられるが、シンプルにまとめて専門家でなくても理解しやすくて良い。
ただカラー絵図は巻頭にわずかにあるだけである。絵図に書き込まれた文字が判読できないほど、縮小されて収められていて大変残念である。絵図の雰囲気は充分つかめるにしても、本文中で解説されるような詳細な読図には用をなさない。

目次
1.荘園絵図へのいざない―荘園制と絵図をめぐる対話
○政治性の強い絵図（平安時代末期～鎌倉時代）
2.荘園の四至と牓示―紀伊国桛田荘絵図
3.地方寺院の中世的展開―讃岐国善通寺近傍絵図
4.領主の争いと荘園の分割―薩摩国伊作荘日置北郷下地中分絵図
○経済性の強い絵図（鎌倉時代末期～室町時代）
5.山間の流浪と定住―近江国葛川相論絵図
6.荘園村落の開発と景観―和泉国日根野村絵図
7.中世農業と水論―八条朱雀田地差図・桂川用水差図
○荘園絵図の周辺
8.都市図の機能と風景―『上杉本洛中洛外屏風』
9.中世絵図読解の視角