最後の注文 の商品レビュー
中年を過ぎると、なんだか自分の人生ってこんなもんだったのかぁ〜って、苦笑してしまう事がある。自分に見合った人生で、大きな不満もないけれど、思うようにならない事もどうしようもなく受け入れざるを得ない事も、たくさんあるもの。 この小説に出てくる誰もが、私と同じように、不完全で自己中...
中年を過ぎると、なんだか自分の人生ってこんなもんだったのかぁ〜って、苦笑してしまう事がある。自分に見合った人生で、大きな不満もないけれど、思うようにならない事もどうしようもなく受け入れざるを得ない事も、たくさんあるもの。 この小説に出てくる誰もが、私と同じように、不完全で自己中で不器用で、愛おしい。 まさに、人生ってほんとそんなもんだよねって、堤防でずぶ濡れになりながら泣き笑いしてる気分になった。 じんわりきて、珍しく2回読んでしまった。
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1960年代、ロンドン。友人のレイ、レニー、ヴィックが行きつけのパブに集まり、亡くなった共通の友人ジャックを弔っている。一行はジャックの息子ヴィンスが運転する高級車で「遺灰をマーゲイトの海に撒いてほしい」という故人の遺言を叶えるため短い旅に出発するが、男たちのあいだには徐々に剣呑...
1960年代、ロンドン。友人のレイ、レニー、ヴィックが行きつけのパブに集まり、亡くなった共通の友人ジャックを弔っている。一行はジャックの息子ヴィンスが運転する高級車で「遺灰をマーゲイトの海に撒いてほしい」という故人の遺言を叶えるため短い旅に出発するが、男たちのあいだには徐々に剣呑な空気が漂いはじめる。ブッカー賞受賞のロードノベル。 あらすじからしていかにもブッカー賞っぽいな~と思ったのだが、読後もやはりいい意味でブッカー賞らしい完成度の高さと複雑な余韻が心に残る作品だった。 この小説は死してなお続く男たちの友情物語という側面もあるけれど、そうまとめるにはあまりに人間関係が入り乱れている。相関図を書きながら読んでいると後半のドロドロ具合に驚く。離婚、不倫、借金、しまいにはお前の息子がおれの娘を孕ませて中絶。青春の思い出と言えそうなのは戦地で女を買ったことくらい。きらきらと理想化された〈男の友情〉の要素はここには一切ない。それなのに、ジャックの最期の言葉「これでよし、と。これで、大丈夫だ」に差し掛かると、やっぱり泣かされてしまうのだ。たぶんそれがスウィフトのすごさなんだろう。 章ごとに語り手が入れ替わっていくのだが、主となる語り手はレイである。口が悪くて短気なレニー、いけすかないヴィンス、いつでも冷静なヴィックと比べて最初は影の薄いレイだが、後半は彼の抱える秘密が物語を引っ張っていく。そしてこの旅には参加していないジャックの妻エイミーの存在がどんどん大きくなる。 ジャックとエイミー夫妻は本当に複雑なキャラクターだ。障がい児の親であり、戦争孤児の養父母であり、家出少女に手を差し伸べる人たちだった。一方でヴィンスの側から見れば、自分がろくでなしになった背景には娘の身代わりを求め続けたエイミーたちがいるということになる。たとえば同じ物語をヴィンスの世代の目で語られたら、読者がエイミーに感情移入するのは難しかったかもしれない。 これは男たちの物語なので、女性が語り手を務める章はエイミーとマンディが少しだけしかない。彼女たちの章を読んでいると、スウィフトがのちに女性視点で『マザリング・サンデー』を書いた意味がわかる気がした。 チャタムの慰霊碑やカンタベリー大聖堂を経由して、いよいよ車は海辺の観光地マーゲイトに辿り着く。ここまでにおじいちゃんたちはしこたま飲酒してるのに、さすがロンドンの下町っ子、車で眠りこけたりはしない。岬にでて、強風と雨に揉まれながら、荒れる海に向かって半ばヤケクソのように4人は遺骨をまいていく。ここは読者に秘密を話しきったレイの心情と重なって、ちょっと笑えてエモーショナルな旅のクライマックスにふさわしいシーンである。 けれど、ジャックの判断は本当に正しかったのだろうか。”ラッキー”が当てた金は当然のようにエイミーと自分の二人で使うものとレイは思いこんでいて、エイミーには裁量がないように感じる。かつて不倫してたとはいえ、エイミーにはレイを拒む権利はないのだろうか(付き合ってたの25年前だよ?!)。ジャックの言葉を思いだしながらすがすがしくなったレイと、ジューンの部屋で物思うエイミーの心情は乖離している気がして、旅から帰ったレイにはフラれてほしいと思ってしまう(笑)。 小説に対する「人間が描けている」みたいな褒め言葉があるけれど、スウィフトはその究極の達人だと思う。ジャックもレイもヴィンスもレニーもヴィックもエイミーもこの世に存在したことがないなんて信じられない。ジャックの最後の言葉に涙が流れるのは、ただ単純にジャックが良い人だからとか、エイミーへの愛に感じ入るとか、そういう感動ではないのだ。彼は生きていた、ということを作中の友人たちと同じように深く実感し、最初は誰とも知らなかったジャックの死が否定できない”事実”として迫ってきて、自分も4人と一緒に彼の遺骨を握っているような気がしてくる。こんな気持ちにさせてくれる小説はやっぱりそうそうないのだ。
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ロンドンの下町。 肉屋のジャックが死ぬ。 ジャックは、友人たちに1つ最後のお願いをする。 死んだら遺灰を海にまいてほしいというのだ。 皆で集ったパブで最後の注文を聞かれたように。それが彼の人生の「ラストオーダー」。 壺を囲んで集まったのは、八百屋のレニー、保険屋のレイ、葬儀屋のヴ...
ロンドンの下町。 肉屋のジャックが死ぬ。 ジャックは、友人たちに1つ最後のお願いをする。 死んだら遺灰を海にまいてほしいというのだ。 皆で集ったパブで最後の注文を聞かれたように。それが彼の人生の「ラストオーダー」。 壺を囲んで集まったのは、八百屋のレニー、保険屋のレイ、葬儀屋のヴィック。 そこへ義理の息子のヴィンスがベンツを乗り付けてくる。 4人の生者と1人の死者の不思議な道行が始まる。 物語は、語り手が移り変わりながら、短い断章で綴られていく。いずれもモノローグ。旅に同行しない、ジャックの妻もまた語っている。 思い出の中から、ジャックと家族や友人たちの過去のあれこれが浮かび上がる。 よい思い出ばかりではない。 嫉妬もあった。いがみ合いもあった。腹の探り合いもあれば、裏切りもあった。 父の息子への想いは踏みにじられ、妻の夫への願いは振り払われた。 死者を許せないこともある。おそらく死者が許してくれないこともある。 だが。それでも。 「弔い」とは「安らかに(RIP、Rest In Peace)」を願うばかりではなく、あるいは死者にまつわる苦い想い出も抱えながら、残りの人生を共に生きていくことであるのかもしれない。 聖人ではない、かといって極悪人でもない、1人の男が生きて、死んだ。 男が遺したものは何だろう。 男の灰が海風に舞う。 風は、男を覚えている人たちを包み込み、やがて去り、また舞い戻る。
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7人の独白と会話で綴る長い長い物語。人はそれぞれ他人には言えぬ過去と現在をもっている。 友人の遺灰を海に撒く、その旅程の進行とともに、7人がそれぞれ過去を、行きつ戻りつしながら、少しずつ振り返る。読者はそれを組み合わせてようやく物語を時系列に理解する。なるほど、これは現実の会...
7人の独白と会話で綴る長い長い物語。人はそれぞれ他人には言えぬ過去と現在をもっている。 友人の遺灰を海に撒く、その旅程の進行とともに、7人がそれぞれ過去を、行きつ戻りつしながら、少しずつ振り返る。読者はそれを組み合わせてようやく物語を時系列に理解する。なるほど、これは現実の会話でも、追想でもそうだ。この過去と秘密の「小出し」が実にうまい。 登場人物間の葛藤は半ば隠されているが、独白は本心の吐露であるから、読者には現実の冷徹さをそのまま突きつける。(藤沢周平や須賀敦子のような、寡黙で簡潔清明な文体との対極の手法とも感じる) 人生とは、老境に入るといくつかの後悔と少しの達成感を追想するものなのだろう。
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いい作品揃いの新潮クレストブックスからブッカー賞受賞作品をチョイス。 ロンドンのパブに夜な夜な集まる4人の年寄。そのうちの一人が亡くなって「骨を撒いてくれ」という遺言を残す。そのため故人の義理の息子が運転する車で海に向かう。 その過程でのそれぞれの考え、思い、が語られていき、とい...
いい作品揃いの新潮クレストブックスからブッカー賞受賞作品をチョイス。 ロンドンのパブに夜な夜な集まる4人の年寄。そのうちの一人が亡くなって「骨を撒いてくれ」という遺言を残す。そのため故人の義理の息子が運転する車で海に向かう。 その過程でのそれぞれの考え、思い、が語られていき、という話。 静かな出だし〜中盤からじょじょにお互いの関係性や過去の事件などが浮かび上がってくる作りになっていて、じわじわと迫ってくるいい作品でした。
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これは、大人版「スタンド・バイ・ミー」。亡くなった親友の遺骨を海に蒔くため、古い友人たちが旅をするのだけれど、途中で明らかになる、それぞれの過去。晩年の切なさが漂います。
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一人の男の遺灰。海にまいてくれという彼の遺志を受け 飲み仲間が小さな旅に出る。 少しずつ語られている過去の物語。 紡ぎだされて、気がつけば一つの流れになる。 洗練された文章。いい本だと思う。
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