第四間氷期 の商品レビュー
いままで読んだ小説の中では、今のところトップ。1950年代に執筆されたとは思えない。 著者の作品のなかでもかなり読みやすいので、初心者にもオススメ。
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自分が生まれるはるか前に書かれたとは思えないSF小説。 このアイディがどの程度オリジナリティがあるものかは分からないが、未来予知が出来る機会はまさに今のワトソンなど人工知能の進化系、今読んでも、今読むからこそ未来の問題提起になりえる小説だと感じた。
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予言機という未来をはじき出すことの出来る機械をつくった科学者が、世界の未来と自分の未来との乖離に苦悩するSF作品。 予言機が弾き出した海面上昇で世界が水没する未来と、現在の延長でしかない未来との差を論じ合う様はSFというより哲学的。 来る未来に向けて、新しい一歩を踏み出すことが正解なのか、もしくは日常の連続の延長としてありのまま未来を受け入れることが正解なのかは作者によって読者に委ねられた。 未来は希望なのか、絶望なのか、作者が言う「未来は本来的に残酷なものである」と言うこの言葉に非常に共感する。
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予言機械によって地球が水没するという未来が予言され、一部の研究者によって、人類の未来を託すために水棲人類の開発が進められていた。 予言機械の開発者はその未来を受け入れられず、予言機械の開発に消極的となるという未来が予言され、受け入れないということを知った未来の開発者自身と周囲の研究者によって、殺害される。 ただし、予言機械の開発者が主人公であるため、上記の大筋は序盤は明らかにされず、予言機械の開発を継続するためになんとかじて成果をあげようと、見知らぬ男に目をつけ、その男の未来を予言してみせようとするが、それをきっかけに謎の男に付け狙われるという事態に巻き込まれていく。 妻がいつのまにか堕胎される、水棲豚を飼育する、二週間以内の胎児を集めて水棲人類を発生させるなど、終始不気味な雰囲気が漂っている。水棲人類が生きる未来も生々しくグロテスクである。 ミステリーとしてもSFとしてもとても興味深い作品。
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安部公房のSFである。しかし、SFなのにミステリなのか、悶々とした追いつ追われつがあり、自分以外が薄気味悪く笑っていたり、気がついたら自分が死ぬ運命になっているあたりが安部公房だ。 予言をするコンピューター、水棲人間作りなど、SFの要素はしっかりある。それなのに、多くの部分で感...
安部公房のSFである。しかし、SFなのにミステリなのか、悶々とした追いつ追われつがあり、自分以外が薄気味悪く笑っていたり、気がついたら自分が死ぬ運命になっているあたりが安部公房だ。 予言をするコンピューター、水棲人間作りなど、SFの要素はしっかりある。それなのに、多くの部分で感じるのは、「燃えつきた地図」や「密会」にもあった、よくわからない人たちから情報を引き出そうとする話。その中で、未来にいるのか戦後間もない木造のアパートに居るのか、未来にそういうボロアパートがあるのかを錯覚する。 ディテイルは非常によく書き込まれており、荒いながらもコンピューターや、発生学(オーガナイザーの時代か?)をそれなりに納得させるように書いているのが興味深い。物質の密度勾配で腕が出来るか足が出来るか、なんていう話を書いているが、これ、1950年代だからね。 予言の話のモスクワ2号で、引き合いに出されているのはオーウェルの「1984年」なのかな。皮肉的に触れられているのも興味深い。 本作は全体に会話が主になっており、安部公房の独特の形容詞回しが苦手な人でも読みやすいだろう。最後の「コンピューターの夢」とでも言える部分以外は、情景も非常にわかりやすい。 「砂の女」「方舟さくら丸」で感じた、日本映画のネチネチした部分を文章化したような、安部公房らしい作品といえる。 なお、表紙は奥さんの安部真知の作品のものを読んだ。中には珍しく挿絵まで入っている。新潮文庫は知らない内につまらない表紙になっていて、非常に残念だ。このサムネイルの表紙なら、星をもう一つ減らしたい。
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たぶん10代の頃以来の安部 公房。 そういえばこんな感じだったなーと懐かしくなった。 全然明るくはないけど、絶望的に暗いわけでもない、安部公房が描く少しグロテスクで奇妙な未来像。 面白かった。
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高校3年のときに初めて読んだ。大学3年のときにユートピア論の授業で発表するために読み直した。そしてそれから25年ぶりにまた読んでみた。中1の息子が夏休みの課題で読んだ。(私が与えた5冊の中から選んだ。漱石や鴎外をおさえて選ばれた。)その後、クラスでの紹介スピーチにむけて、国語の先...
高校3年のときに初めて読んだ。大学3年のときにユートピア論の授業で発表するために読み直した。そしてそれから25年ぶりにまた読んでみた。中1の息子が夏休みの課題で読んだ。(私が与えた5冊の中から選んだ。漱石や鴎外をおさえて選ばれた。)その後、クラスでの紹介スピーチにむけて、国語の先生から書き直しを指示されてしまった。感想文はノータッチだったので、ここで読み直して、アドバイスをすることにした。さて、ほぼ1日で通して読んだのだけれど、これほどおもしろいとは思っていなかった。安部公房の中で一番好きな小説であることは間違いないのだけれど、もっと読みにくいものと思っていた。まあ、年をとって読解力がアップしたのかもしれない。三島とか漱石などを読んでいると、最初の50ページほどは大した事件も起こらず、投げ出したくなるものだけれど、これはちょっと違っていた。予言機械の話から、3週間目までの胎児を7000円で買うという話。そして、水棲哺乳類、さらには水棲人間の話。最後には地球温暖化による海面上昇、陸棲人間の絶滅? さらには水棲人間都市、機械がこういった世界を予言していく。水中に住む人間には涙腺がない。泣くことがないために悲しみを知らない。皮膚感覚からくる地上人の情緒というようなものを水棲人は感じることができない。水棲人は陸上にすむ人を歴史上のものとして、博物館などでの観察対象とする。陸上人に作り上げられた水棲人が、地上に生きてきたものを批判的に見る。我々が作り出した未来によって我々自身が裁かれていく。ミステリー風に書かれているけれど、内容は深くて重い。1950年代後半に「世界」に連載されている。それを考えると感動的ですらある。
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SF。突飛な設定にもかかわらず、見てきたような描写の細かさ。迫力がある。安部氏が医学部卒であることも、説得力を持たせている一因だと思う。
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私はいわゆる文学作品とか有名どころとか一切読んで 来なかった人間なので、初・安部公房であり、そして 今更ながらの第四間氷期、である(苦笑)。 未来を予言するコンピューターや、今でいえば遺伝子 工学にあたるような生物改造、そして地球温暖化などを 扱い、当時から見た未来を描いた立派...
私はいわゆる文学作品とか有名どころとか一切読んで 来なかった人間なので、初・安部公房であり、そして 今更ながらの第四間氷期、である(苦笑)。 未来を予言するコンピューターや、今でいえば遺伝子 工学にあたるような生物改造、そして地球温暖化などを 扱い、当時から見た未来を描いた立派なSF小説であり ながら、初出昭和33年という古さをほとんど感じない のには驚いた。もちろん、そこに作者の力量が現れて いるということも言えるのだろうが、実はこの小説が SFではなく、言わば哲学の表出だからゆえに古くなら ないのではないだろうか、そんなことを思った。 出てくるSF的仕掛けのすべてが、作者の言う「未来の 断絶に対する絶望」を示すための単なる道具立てにしか 過ぎないと思えて仕方が無いのだな。主役として扱われ てもおかしくない予言機械や生物改造が、脇役ほどの 地位も与えられていない、そんなもどかしさを全編を 通して感じた。少なくとも単純に楽しんで終わる娯楽 SF小説ではないことは確かだ。 未来の断絶に対する絶望とは、実は死への恐怖なのでは ないだろうか、そんなことも思ったり。
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1959年執筆。「第四間氷期」をどう思いついたのか。恐ろしいまでの才能だ。素晴らしい。 終戦から復興を遂げ始めた高度経済成長期前、そして冷戦真っ只中。温暖化はもとより現代のコンピュータの勃興なんて夢のまた夢の世界。そのなかで科学的裏付けで構築された緊張感ある緻密なストーリー。 ...
1959年執筆。「第四間氷期」をどう思いついたのか。恐ろしいまでの才能だ。素晴らしい。 終戦から復興を遂げ始めた高度経済成長期前、そして冷戦真っ只中。温暖化はもとより現代のコンピュータの勃興なんて夢のまた夢の世界。そのなかで科学的裏付けで構築された緊張感ある緻密なストーリー。 テーマは「断絶した未来」だが著者は肯定も否定もしていない。陰鬱な結末と捉える人が多いようだが「理解を超えた未来」を提示されたとき人類はどう反応するか。というテーマそのものを読者で試しているのかもしれない。SFよりむしろ哲学に近いのかもしれない。
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