妻と私 の商品レビュー
本屋で、文庫版になった著書を見つける。 実は、何年か前、この本が単行本で出された。私は、城山三郎の亡くなられた奥様のことを書いた本だと知りながら、どうしても手を伸ばすことはできなかった。気になってはいたが、文字通り、手にとってみることさえできなかった。 江藤淳の「妻と私...
本屋で、文庫版になった著書を見つける。 実は、何年か前、この本が単行本で出された。私は、城山三郎の亡くなられた奥様のことを書いた本だと知りながら、どうしても手を伸ばすことはできなかった。気になってはいたが、文字通り、手にとってみることさえできなかった。 江藤淳の「妻と私」がトラウマになっているからだ。 「妻と私」は、江藤淳の奥様ががんで亡くなられた、その間の経緯や二人の思い出などが簡潔に温かく綴られたものだ。その後、江藤は自ら命を絶つことになる。 してみると、「妻と私」は江藤本人が意識していたかどうかはわからないが、夫人に対してのレクイエムであり、江藤自身の遺書である。 大学の先輩でもある江藤の著作は、そんなに多くではないが、私は好んで目を通していた。特に、新聞や雑誌に出されるエッセィや文芸時評は気骨のあるもので、間違いなく私はファンの一人でもあった。 江藤自殺の報にいくばくかの驚きを感じながらも、妙に納得もしたことを覚えている。子供のいない江藤夫婦にとって、妻の逝去というものは、そのまま夫の死に繋がるであろう事は、そうなってみればそうなってみたで、容易に想像ができよう。 「妻と私」が出され、私はすぐに読み終える。妻の死がそのまま夫本人の死に直結したことを、既に知って読んだせいもあり、大変切ない思いにとらわれる。 私には二人の子供がいる。二人とも私の命よりも大切な宝物である。そうであっても、私の妻に万が一のことがあったら、私もやはり江藤淳と同じ人生の選択肢を選ぶであろう。「妻と私」の読後感、いや、読んでいる最中から、確信に近い思いを持つ。 「そうか、もう君はいないのか」を読むと、また、同じ思いにとらわれるのではないか。一流の作家の書き上げるものは、それだけの力を持っている。だから、最初に刊行されたときは、手に取ることさえしなかった。 先般、本屋さんで文庫版を目にする。家に帰り、なんとなく気になり、「妻と私」を再読。翌日、「そうか、君はもういないのか」を購入し、一気に読み終える。
Posted by
この本の分類は何? 確かに最後の気力を振り絞って執筆されたのだろうが、世に出す必要があったのか。自殺されたと読後に知り、後味が悪く感じた。
Posted by
初めて読んだとき、嗚咽を押し殺しながら読んでました。 江藤さんという人について、詳しく知らなかったのだけど、この本を読んだ後に、自殺されたと知りました。 その後図書館で、江藤さんの死について考えるという内容の本もみて、 江藤さんの自殺は是か非かみたいな議論もあったみたいだけど、...
初めて読んだとき、嗚咽を押し殺しながら読んでました。 江藤さんという人について、詳しく知らなかったのだけど、この本を読んだ後に、自殺されたと知りました。 その後図書館で、江藤さんの死について考えるという内容の本もみて、 江藤さんの自殺は是か非かみたいな議論もあったみたいだけど、 ひとつだけ言えるのは、江藤さんがとってもとっても奥さんのことを愛していたということは事実だなと思います。 やっぱり読み返すと、涙がポロポロ出てきて本当に悲しいのだけど、 天国で奥さんと一緒にいれたら、江藤さんは幸せだろうなと思います。
Posted by
最初の1行目から最後の頁まで涙が止まらない。どんな気持ちでこれを書き上げたのか考えると、胸が詰まる。
Posted by
わたしはあまり「愛」と「死」がからんだ話が好きでない。ましてや、それがノンフィクションとなれば尚更である。大抵そういう話は押しつけがましくなる。「こんなに辛かったんです、泣きなさい」と言わんばかりになる。好きでない。 しかしその「愛と死」が、共に六十を越えた夫婦のこととなれば...
わたしはあまり「愛」と「死」がからんだ話が好きでない。ましてや、それがノンフィクションとなれば尚更である。大抵そういう話は押しつけがましくなる。「こんなに辛かったんです、泣きなさい」と言わんばかりになる。好きでない。 しかしその「愛と死」が、共に六十を越えた夫婦のこととなれば話は少し変わってくる。ましてや一時代を築いた評論家「江藤淳」の書いた物なら、尚更である。本書は江藤が感情を抑制しながらつづった、ひとつのエッセイである。 江藤の妻はガンだった。だが江藤は彼女に「告知」をできなかったという。結局最後まで江藤は告知をしない。わたしにはそれが意外だった。そういったごまかしをする人間には思えなかった。だが江藤の視点でつづられていく文を読み進める内に、わたしに「告知」の重さがひしひしと伝わってくる。妻に告知をしない以上、江藤は誰にも妻の病を言えない。秘密を抱えて、日常を生きる江藤の姿が描かれる。本書の白眉は何と言っても、この「日常の描写」だろう。簡潔な描写のなかに、深い悲しみが示されている。 そして妻の死という異常な「死の時間」を乗り越えて、江藤は再び日常の時間へと還っていく。江藤のあとがきには、いまだ整理の付かぬ寂しさと、ひとりで生きていく希望がかいま見えていた。 だがこの本の出版直後、江藤は不可解な自殺をする。江藤の最期のことはだれも分からない。 (補記) 本書は文庫版も出ている。しかし単行本の方が装丁がうつくしい。文庫版は半分以上が吉本隆明、石原慎太郎、福田和也のエッセイに占められている。(けー)
Posted by
最愛の妻を亡くし、自身も翌年自殺した江藤氏が最後に執筆した文章。自殺は人を不幸にしますが、江藤氏は自殺をすることでシアワセだったのかもしれないと思わせます。号泣しました。
Posted by
漱石評論家として名を知られる氏の自殺を知ったときは、衝撃だった。それから数年たち、この本を読んで、胸が熱くなった。 なんという、愛の形か。 妻亡き後、この世をさった氏は、あの世というものがあるのなら、そこでまた夫婦として暮らしているのだろうと信じられるような、一作である。
Posted by
- 1
- 2