夏草の記憶 の商品レビュー
あまりにも取り返しのつかない終わり。「愛と憎しみは表裏一体」みたいなテーマや話の展開自体はわりとありふれたものだが、随所随所が胸に痛い。
Posted by
ドーナツの穴を書く、というが小説教室での私の課題でありまして。「ドーナツの穴って空気しか無いじゃん!」と思うじゃないですか。でもそこを書かなければならないと言った場合どうするか。『夏草の記憶』を読んだとき「これだよ!」と思いました。てなわけで私にとって本書は、「ドーナツの穴」問...
ドーナツの穴を書く、というが小説教室での私の課題でありまして。「ドーナツの穴って空気しか無いじゃん!」と思うじゃないですか。でもそこを書かなければならないと言った場合どうするか。『夏草の記憶』を読んだとき「これだよ!」と思いました。てなわけで私にとって本書は、「ドーナツの穴」問題の、一つの優れた回答になっているミステリーです。
Posted by
愛と憎しみ。 愛しているから憎む。 チョクトーの町すべてが、ケリーのかつてのことばを借りるなら、ひとの世のすべてが、現実と仮定の合間に挟まれて身動きがとれず、知るべき事を知りえずにりいるのではないだろうか。しりえないまま人生の機を織るうちに生じたひとつの傷が、次の傷を生み、さら...
愛と憎しみ。 愛しているから憎む。 チョクトーの町すべてが、ケリーのかつてのことばを借りるなら、ひとの世のすべてが、現実と仮定の合間に挟まれて身動きがとれず、知るべき事を知りえずにりいるのではないだろうか。しりえないまま人生の機を織るうちに生じたひとつの傷が、次の傷を生み、さらに別の傷をこしらえて、やがては悪意なき恵泉の黒々とした長い縞柄が、織り上げられてしまうのではないだろうか。
Posted by
アメリカ南部の小さい町で開業している医者のベン。 そのベンがハイスクールに通っていた30年前に起こった痛ましい事件。 物語は、そのベンの過去の回想という形で描かれている。 北部からやってきた美しい少女、ケリーへの恋心。 生真面目で、いつも自分はいつかこの小さい街から出て、都会で何...
アメリカ南部の小さい町で開業している医者のベン。 そのベンがハイスクールに通っていた30年前に起こった痛ましい事件。 物語は、そのベンの過去の回想という形で描かれている。 北部からやってきた美しい少女、ケリーへの恋心。 生真面目で、いつも自分はいつかこの小さい街から出て、都会で何かを成すに違いないと思っている、秀才ガリ勉タイプのベンの、あまりに屈折した恋心が描かれているんだけれど、物語はそれと同時に60年代のアメリカ南部の状況や、過去のインディアンや奴隷市などの話しなどを、正義感が強く激情家なケリーを通して描かれており、色々な事を考えさせる作品でもあった。 事件そのものは、最初からベンの回想は暗くて、悔恨に満ちていて、事件の細かな真相はわからないけれど、誰がやったのかは容易に想像がつくような描かれ方だった。思春期の、あまりに屈折して素直に愛を表現できないベンへ、同情とも哀れみとも軽蔑とも思えるような感情が湧いてきて、じれったい感じがした。 文章も、ところどころ読みにくく理解しがたい表現や言いまわしなどもあり、暗くて息が詰まるような、そんな気分に拍車をかけていたように感じられた。 本の裏書を見ると、誰もが予想しえない真相って書いてあるんで、どんな真相なんだろうって思いながら読んでいたけれど、自分的には、途中で予想しえて いたものではあったので、特別驚きはしなかった。 描き方が、あまりに犯人を特定的に思わせるような描き方だったので、意外と言えば意外と言えるかもしれないが、その事件を引き起こす事になった直接的な原因は、その部分が描かれるまでは、誰も想像しえなかったとは思う。 些細な悪意によって、とんでもない事件を巻き起こしてしまったわけだけれど、それは、誰の心の中にも必ずある心の闇の部分であり、ここまで自分で自分を追いこんでしまったベンが哀れでならなかった。 また、ケリーにしても、自我が強過ぎて、周囲の人間の気持ちまで思いやることができなかった彼女の性格にも、私は何故か共感できなかったかな。 この物語で一番驚いたのは、事件の真相よりも、事件から30年後にケリーの母親からベンが呼ばれて、その家で目にしたことが一番驚いた。 えっ?そうだったの?って、あまりに意外であり、またあまりに哀れだったかな。 ところで、この本の解説で初めて知ったんだけど、私はこの作家の「緋色の記憶」と言う作品を以前読んだ。似たようなタイトルで同じ作家だったから、今回の作品にも興味を持ったんだけど、なんと「記憶3部作」と言われてるらしい。 「緋色の記憶」は3作目で、今回の作品は2作目にあたるそうな。。。。 勿論、話しの内容は全く関連性は無いのだけれど、どれも主人公の一人称で過去が語られる趣向になっているそうだ。 自分的には、この作品も良かったけれど、やはり賞を取った3作目の方が、作品としての完成度が高いと思った。 今回の作品は、思春期の子供たちの姿を実によく現しているし、とても読み応えのある作品ではあったけれど、如何せん、全体的にしつこい部分があって、贅肉が付いてるような無駄が多いような、そんな印象を受けた。そういう部分が物語りの雰囲気を演出する為の意図的な描き方なのかもしれないけれどね。
Posted by
"記憶シリーズ"のうちの1冊。シリーズに共通する、人間の暗い部分を鋭く描くのに加え、思春期の複雑な感情が丁寧に表現されている。相乗効果がいい。
Posted by
記憶シリーズ3部作の最終巻。前作の『死の記憶』が自分の中でイマイチだった為、やはり『緋色の記憶』のインパクトは超えられないのかなあとあまり期待をせず読み進めていました。相変わらず大変な長編で、まあこの記憶シリーズが長編なのは最後の最後で衝撃的などんでん返しがあるからなのですが、今...
記憶シリーズ3部作の最終巻。前作の『死の記憶』が自分の中でイマイチだった為、やはり『緋色の記憶』のインパクトは超えられないのかなあとあまり期待をせず読み進めていました。相変わらず大変な長編で、まあこの記憶シリーズが長編なのは最後の最後で衝撃的などんでん返しがあるからなのですが、今回のどんでん返しは私にとって本当にどんでん返しで、自分が今まで読み進めてきた上で理解していたと思っていた事は間違いだったのかー??と前のページを何度も繰ってしまう程、驚きのラストでした。いやーびつくり。完璧にしてやられました。ここまで長いのも納得、って感じのエンディング。ここまで頑張って読んできてよかった、と思えるエンディング。ラストシーンも余韻があってとてもよかったです。とにかくエンディング数ページの為だけに書かれているような本なので、その数ページの為にそこまでの400P強を読んだろうじゃないか!という根性ある方にはぜひぜひおススメしたい1冊です。
Posted by