日本の憑きもの の商品レビュー
憑き物の正体は、迷信…
憑き物の正体は、迷信や精神障害です。かつてはそれが如何に捉えられていたのか。興味深い内容でした。
文庫OFF
前々から読みたいと思っていたのだが手に入らず困っていたところ、最近通い始めた図書館に所蔵があって助かった。イヌガミやオサキ等日本の憑きものについて、独自の調査もしつつ海外と比較するなどしており面白い。 最近読んだ本に、アフリカの農村について「ひとりだけ人気の作物を作り始めたら収...
前々から読みたいと思っていたのだが手に入らず困っていたところ、最近通い始めた図書館に所蔵があって助かった。イヌガミやオサキ等日本の憑きものについて、独自の調査もしつつ海外と比較するなどしており面白い。 最近読んだ本に、アフリカの農村について「ひとりだけ人気の作物を作り始めたら収穫をみんなに分けなくてはならない。分けないと嫉妬されたり呪われたりする。だからやらない」といったような記述があり「oh人類」という気分になったのだけれど、本書だと憑きものに関して「急に羽振りが良くなると憑きもの筋だと言われる/筋の者に憑きものをけしかけられるので、慎んだり皆に分けたりしなくてはならない」といったような記述があり「人類皆兄弟」という気分になった。 つまり緊密な社会において嫉妬を受けることは災厄をもたらすので、避けるための協調性が求められ、この点は世界的に共通しているという話にまとめられるような気がする。 謙遜が美徳ということの意味が長らくよく分からなかったのだけれど、嫉妬を避けるという意味で十分な役割があるものだったのね。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
日本における憑きもの現象を、主として社会人類学の視点から解説・考察した書。著者自身がフィールドワークで収集した事例を諸外国の類例と比較しつつ、憑きもの現象が日本の村落社会において果たす役割、そこに現れる伝統的な価値観や思考形態を分析する。 本書は、日本における「憑きもの現象」――特に「キツネ憑き」や「イヌガミ憑き」といった悪しき霊的存在が人に取り憑いて害を与えるケースを取り上げ、これを社会人類学の立場から調査したものである。著者は実際に憑きもの現象のある地域でフィールドワークを精力的に行ってきており、そこで得た豊富な事例を、類似する海外の邪術・妖術信仰と比較しながら紹介していく。その上で、憑く人(いわゆる「憑きもの筋」の人)・憑かれる人がその村落でどういう立ち位置に属しているのか、人間関係はどうか、憑霊現象が村の人間からどういう認識で受け止められているのかを一つ一つ分析する。憑きものという概念・信仰が、村落社会のなかでどのような構造の中にあるのか、どのような機能を有しているのかを論じるのである。 そして著者は、憑きもの現象の意義とは「複数の関係原理が入り混じる村落社会において共同体を統制・維持する」ものであると結論付ける。即ち、単一ではなく複数の関係構造の中にあるような村落社会において、憑く・憑かれることへの恐れから村落内での秩序逸脱を抑制し、関係性の曖昧さゆえに摩擦の起こりがちな村人間の摩擦を緩衝し、村落構造を維持するという社会的な意義である。 本書を読んで興味深かったのは、本書の終盤での西洋における魔女狩りとの比較である。日本の憑きもの信仰も西洋の魔女狩り(妖術者迫害)も、根本的には社会の規範を違反した者を「妖術使い」として処罰し社会構造を維持するという共通点がある。しかし、それなら何故日本のそれが西洋のもののように(かえって社会情勢を混乱させるまでに)大規模化しなかったのかという疑問が生じる。著者はこのことについて、日本では部落内での互助活動などで筋・非筋の家々が密接に結びついており、(差別や対立はあるにしろ)まず部落の社会的統一に最大の努力を払う部落連帯性が強い故ではないか、としている。このあたり、西洋においてもこうした観念を産み出すような互助活動の構造はないのだろうか、といった点が気がかりとなった。 事例が国内外問わず多数収録されているので、初学者でも分かりやすく憑きもの信仰の姿を知ることが出来る一冊である。
Posted by
「どんな分野においても、成功した者は、あれは学閥のせいだ、親の七光りだ、特別な「ヒキ」があったからだ、何のかのと言われたりする。これは、あの家が財をなしたのはキツネのせいだ、ということと類似の思考様式ではなかろうか。」
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
日本における憑き物信仰は江戸中期、村落内の貧富の格差の拡大の中で生またものである。そして、憑き物は個人ではなく家に憑くとされる。 また、本書では憑き物信仰の社会的意義について、村落維持と不幸を説明する二点について、他の社会と比較しながら言及している。
Posted by
従来、民俗学の分野・領域で考察が進められていたこの分野を、社会人類学的な立場から検討しようとするのが本書の目的。 憑きものの研究を通じて、日本の伝統的な価値観や意識の特質が捉えられると考える。構成は、序章と三章から成る。 序章 「憑きもの」に憑かれて 第一章 憑きものの正体と...
従来、民俗学の分野・領域で考察が進められていたこの分野を、社会人類学的な立場から検討しようとするのが本書の目的。 憑きものの研究を通じて、日本の伝統的な価値観や意識の特質が捉えられると考える。構成は、序章と三章から成る。 序章 「憑きもの」に憑かれて 第一章 憑きものの正体と特色 第二章 憑きもの筋 第三章 憑きものの社会的意味 第一章 そもそも「憑く」とはどういうことか。憑きものに関する諸外国の事例も列挙しながら整理する。憑霊や精霊憑きには心的分離を伴う場合とそうでない場合とがあるという。 また、憑きものの現象には、少なくとも四つの側面があるという。1観念内容、2信仰・観念内容に伴う行為的側面、3信仰・観念内容と人間関係や社会関係との結びつき(社会的側面)、4憑きもの信仰はどのような感情や性格、パーソナリティと結びついているのか(心理的側面)。 そして、キツネ、イヌガミ、オサキと地域によって呼び名が異なる憑きもの、これは一体何なのか。憑かれるとどのようなことになるのか、また憑かれた場合の処置の仕方と防ぎ方について、目撃者の証言をもとに整理する。 結果まとめると、日本の憑きものは、中国思想の影響が顕著である。また、家系・世帯との結びつきがあるが、個人での結びつきはなく、そこに性的な要素も関わってこない。イヌガミやオサキはネズミより大きくネコよりは小さいもののようだが、一般の人には見えないという話もある。 第二章 つきもの筋の家がどのように形成されてきたのか、山陰・四国・群馬などの地域での聞き取りを基に説明する。発生は江戸時代くらいまで遡れるようだ。基本的には外部から入村した者が経済的に成功することで、もともと住んでいた村民の嫉妬などをかい、病などの発生をもとに憑きもの筋とすることで定着するという。経済的成功の背景には、その頃より浸透してきた貨幣経済が関係するという。 こうなると、持筋になるかならないかは、多分に人間の性格が左右しているのではないかと思う。そして実際そのように説明されている。また、都市生活ではあまりというか、ほとんど問題にならないが、相互扶助が不可欠の村では密接な関係が形成されやすいため、嫉妬なども起こりやすいのだろう。持筋の家が分家すれば、分家も持筋であり、持筋の嫁をもらえば同じような筋となり筋の家に嫁をやった家も、親戚が筋と縁組しても「灰色」や「ハンパ」としてグレーに扱われ、やがて筋となるという。一度筋になったら食い止めることが大変そう。そのせいか、憑きもの信仰がある村では、持筋は持筋同士、そうでないものはそうでないもの同士でかたまって住居を設けているそうだ。 なお、山陰・四国では血族の中に憑きものが関係する(内在的性格)といい、群馬等の関東では憑きものが住む住居などに住むことで持筋となる(外在的性格)という点に差異があり、区別できるという。 第三章 つきものにはどのような意味があるのか。 「憑く」のはどのような人なのか、「憑かれる」のはどのような人なのか、ケースを整理し傾向を探る。憑きもの信仰は易者や祈祷師がつくりだすのではなく、村落における具体的な人間関係であるようだ。この辺は二章でも説明していた。 まだ、持筋が固定していなかった状況において、また階層の変動の激しかった時代において、村の既存の秩序に脅威を与えるような新興農家を「憑きもの筋」とすることが村落構造の維持、社会統制のメカニズムの一つとして作用したのではとする。その後、階層的な固定化が進み、家筋が固定化し、地主と小作人の関係が発展してくると、タテ関係がフォーマルに統制されるようになる。そうなると憑く、憑かれるの関係は、よその親方に仕える子方相互間に、言い換えるなら構造的に比較的曖昧な関係に起こりやすくなる。そしてその関係は憑霊現象によってコントロールされると解釈されるという。 また、憑きもの信仰が多いとされる村落は、福武直氏による日本の農村類型によれば、所謂「西南型農村」にあたり、これは本家、分家からなる同族結合が弱く、その代わりに隣近所が集まる「組」や「講」等の結びつき強い「講組型農村」が多いという。 最後に、つきものの社会的意味としては、①社会統制機能と②身に起こった病気や不幸を説明する機能の二つを挙げる。 本書は70年代に出版されている。21世紀を迎えた現代では、農村も大きく変化している。今後、当時以上の研究を進めることができるのだろうか少々不安に思う。
Posted by
歴史以外の本でこんなに積読したのはマレかも。国内各所で語られる憑き物についてその所以などを著者視点で書かれています。
Posted by
良書。 キツネ持ち、イヌガミ持ちなどと呼ばれる憑き物持ちの家と、それを抱える共同体を丹念に取材、考察。 時間が進むほど失われる資料も多いだろうから、貴重な書のように思う。 これの前にレヴィ=ストロースについての本を読んだせいか、著者も外側でなくその内側にいる人々の論理を探す人な...
良書。 キツネ持ち、イヌガミ持ちなどと呼ばれる憑き物持ちの家と、それを抱える共同体を丹念に取材、考察。 時間が進むほど失われる資料も多いだろうから、貴重な書のように思う。 これの前にレヴィ=ストロースについての本を読んだせいか、著者も外側でなくその内側にいる人々の論理を探す人なんだな、と感じた。 論理があるからといって、住人がそれを把握して伝承に加担するかはわからないが。 つまり、これは妬む・妬まれる心理を精神的・身体的な症状へ顕在化し、集落のルール破りを罰するシステムだ。 感情で規範を守らせるシステムってすごいな、と思うと同時になんだろうな。 やはりドロドロしてる。 邪視のシステム(見つめられると不運になる)も、これと同じで人の注目を浴びないように、なるべく妬まれないように、という抑止の効果がある。 「社会が未開であればあるほど憑き物や妖術が多いというわけではない」 「社会的相互作用が比較的少なく、接触が緊密でない世界、また社会的役割が明確に規定されている社会では妖術が少ない」 逆の世界では、それらを補う役割を妖術が担っている、ということか。 ブログ: http://haiiro-canvas.blogspot.jp/2014/10/blog-post_59.html
Posted by
“日本の”とありますが、“人間の”と置き換えてもOK。影響範囲が地域によって個人・家族=血族とか変わるぐらいかもしれない。
Posted by
- 1