中世シチリア王国 の商品レビュー
タイトル通り、ノルマン人が支配者であった頃の中世シチリア王国を取り扱う。 あまり日本では大きく扱われることがないが、ヨーロッパ、ビザンツ、イスラムの3つの文化・人が混淆し共存した稀有な時代を扱っている時点で、痒いところに手が届く一冊……。 と期待したが、読むと何とも痒いところに手...
タイトル通り、ノルマン人が支配者であった頃の中世シチリア王国を取り扱う。 あまり日本では大きく扱われることがないが、ヨーロッパ、ビザンツ、イスラムの3つの文化・人が混淆し共存した稀有な時代を扱っている時点で、痒いところに手が届く一冊……。 と期待したが、読むと何とも痒いところに手が届かない。 1章をプロローグとし、2〜6章が中世シチリア王国の歴史、7〜8章が都市経済文化などを扱う。 筋立てはすっきりしていて、全体を見通すには本書は悪くはないと思う。 ただ、とにかく具体的な記述が乏しく、「何でそんなに上手くいったのか?」というのが見えず、とかく読んでいてイメージが湧きづらい。 例えば、戦闘に関する叙述を一つ例に挙げると 「こうして、グイスカルドゥスは、生涯最大の危機に直面することになる。しかし、彼は首尾よくこの征討軍を破り、1080年までにすべての反乱を鎮圧することができた」。 戦力差も分からないので危機の具合も分からなければ、どんな戦闘が行われたかもわからない。 その後も、シチリア王国の2代目以降の王政期にも何度か国内反乱の事実が記載されるが、この頃官僚制が整備されて王自身はあまり政治に関わっていないという。にもかかわらず、反乱が広がると王がようやく前線に出向き、また一行で「鎮圧した」とのみ記載される。どうにも淡々とした描写で、王国やその周辺の政治バランスや軍組織の状態も分からなければ王個人の性格や評価も見えてこない。 他に、政治体制について論じたところを挙げると、この王国の特徴は、王を支える「王国最高顧問団」と呼ばれる重臣たちを筆頭とした寡頭体制の下、優れた官僚組織が行政を行なっていたものと記載がある。しかし、この最高顧問団については、何故か「誰が務めたのか」という点には紙幅を割くのだが、具体的な働きぶりについてはやはりあまり記述がない。更にその下層の行政組織は、当時のヨーロッパの中では最も高度化された組織であったという評のみ紹介されるが、具体的にどういう組織体制でどう機能していたかは今ひとつ深く語られない。137ページに図表にて初めて記されるが、何か書いてあるようで大した情報もない。ある組織の業務内容は一言「行政上のすべてのこと」と記されるのみである。これでは、ふーん、としか思わない。 そして、この具体性の不足が極まるのは、この時代を研究する意義を下記のように述べる箇所である。 「三つの文化的要素が一つの王国内に併存している状況は、それぞれの文化的要素を同じ文脈の中で比較することを可能にさせる。それによって、歴史家たちが作り上げてきたラテン・カトリック世界、ギリシャ・東方正教世界、アラブ・イスラム世界のイメージを比較・相対化し、再検討する道が開かれることになる。王国研究は、このように、単なるヨーロッパの歴史を超えてより広い歴史研究上の意味を持っているのである」 なるほど、意義深い。 だが、「それぞれの文化的要素を同じ文脈の中で比較する」例の一つも挙げてはくれない。やはり具体例がなく、素人にはシチリア王国の歴史から照射できる新たな三つの文化の比較論は例えばどういうものか、イメージできないまま本書は終わる。 中世シチリア王国の歴史を論じている、日本語で読める一般向け書物という時点で有り難いことこの上ないし、発見もたくさんあったのだが、それぞれの章でもう一歩ずつ深く踏み込んだ記述があれば、ぐっとこの時代の歴史のイメージも湧くし、研究の意義や方向性も感じられたのだろうになあと、惜しい気持ちのほうが強く残る。 なお、本書は人名表記は頑なにラテン語表記にこだわっているので、そこは少し分かりづらいかも。(例えば、ロベール・ギスカールは、ロベルトゥス・グイスカルドゥスだし、ルッジェーロはロゲリウスである)
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pp.146-7 ロゲリウス二世二使えた地理学書イドリーシーは、『世界各対を深く知ることを望む者の慰みの書』の中でこの町(パレルモ)を次のように描写している。数ある町の中で、パレルモは最も大きく最も美しい町であり、滞在としてもすばらしい町であった。この町には、尽きることのない栄光...
pp.146-7 ロゲリウス二世二使えた地理学書イドリーシーは、『世界各対を深く知ることを望む者の慰みの書』の中でこの町(パレルモ)を次のように描写している。数ある町の中で、パレルモは最も大きく最も美しい町であり、滞在としてもすばらしい町であった。この町には、尽きることのない栄光が存在し、有り余る優雅さがあった。そして、歴代の王が住まう町であった。この町は会がいい沿いにあり、その西側には高くて大きな山がある。海寄りには、日当たりのよい居住区がある。この町は美しい建物で満ちあふれ、旅人達は、これらの建物や洗練された工芸品の評判にひかれて、町を歩き出すのだった。 pp.168-172 (「十二世紀ルネサンス」とは)千九百二十七年にチャールズ・ハスキンズという中世史家が『十二世紀ルネサンス』という書物を著して以後、多くの人々の間で知られるようになった言葉である。この書物は、十二世紀の西ヨーロッパがそれまで考えられていたような「暗黒時代」ではなく、ルネサンスと同じように文化活動が盛んな時代であったことを明らかにし、西欧中世に対する人々の見方を大きく転換させた。 …… ところで、このハスキンズの十二世紀ルネサンス論において重要な位置を占めるのは、スペインとシチリア、北イタリアにおける翻訳活動である。 …… このような視点から、シチリア王国は西欧が東方文化を受け入れる場所とみなされてきた。そして、王国における翻訳活動や王国を訪れた西欧の知識人たちがとりわけ注目を浴びてきた。 …… シチリア王国が西欧の東方文化を受け入れる場所であったことに間違いはない。……シチリア王国がヨーロッパに対して果たした役割は、いくら強調しても強調しすぎることはないであろう。 …… しかし、私たちは、そのようなヨーロッパにとっての意味だけにこだわる必要もない。時間枠と空間枠を少し広げてみれば、この現象が複数の文化圏の間で生じる文化移転の一部であることが用意に理解されるはずである。 …… さらに広く時間枠と空間枠を広げてみるならば、この王国は、人類の経験としての文化交流と異文化接触に関して、豊富な実例を提供している。異文化接触や交流が恒常化しつつある現代世界にあってみれば、シチリア王国で生じた現象は、私たち自身の世界を理解するための重要な示唆を与えてくれるはずである。
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塩野七生さんの「フェルディナンド2世」を読んでから中世シチリア史に興味がありますが、こちらは彼の前の時代について、さらっと書いてあり,楽しめました。関連本読みたいです。
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読了。 中世シチリア王国 / 高山博 世界史の知識不足人としてはこの中世シチリア王国と両シチリア王国とは違うん?と思ってたわけです。 端的にいえば時代が違ったわけですが... 両シチリアは19世紀でした。 こちらは11世紀頃です。 フランス ノルマンディ地方の田舎ノルマン人...
読了。 中世シチリア王国 / 高山博 世界史の知識不足人としてはこの中世シチリア王国と両シチリア王国とは違うん?と思ってたわけです。 端的にいえば時代が違ったわけですが... 両シチリアは19世紀でした。 こちらは11世紀頃です。 フランス ノルマンディ地方の田舎ノルマン人騎士兄弟が傭兵として南イタリアに渡り、シチリア(南イタリア含む)に王国を誕生させる物語。 成り上がり物語ですね。 ロマンあふれる展開ですね。 塩野女史のローマ亡き後の地中海世界で触れてた部分なのでそのうち読もうと買って積んでありました。 塩野女史もこちらの作者もルネッサンスはシチリア島から始まった(きっかけ)と言ってましたので、ルネッサンス=フィレンツェというイメージは間違ってはいないがそれだけではなかったといった感じですかね。 アラブ人、ギリシア人、ラテン系が住み文化が交わる場所だから始まりのきっかけのルネッサンスのようですね。 たいへん面白かったです。
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12世紀ごろ、シチリアに成立したノルマン・シチリア王国についての本。平易で読みやすく、大変面白かった。 ノルマンディのノルマン人によって建国されたこの王国は、カトリック圏ヨーロッパ、東方教会(ビザンツ帝国)の世界、アラブ・イスラム世界が入り混じった、多彩な国家であった。 ノル...
12世紀ごろ、シチリアに成立したノルマン・シチリア王国についての本。平易で読みやすく、大変面白かった。 ノルマンディのノルマン人によって建国されたこの王国は、カトリック圏ヨーロッパ、東方教会(ビザンツ帝国)の世界、アラブ・イスラム世界が入り混じった、多彩な国家であった。 ノルマン・シチリア王国が形成されるまでの流れをさらっと紹介した後、建国~13世紀初頭のフレデリクス3世の時代までが、各王の生涯を追う形で描かれている。 中世ヨーロッパといえば、神聖ローマ帝国などの西方のキリスト教世界を中心に捉えがちだった。 地中海にこのような世界があったのだと、目を開かれる思いがした。
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神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世がシチリア出身だったなーと思い、読んでみた。 ノルマンシチリア王国最盛期には北アフリカやイタリア半島南部まで支配し、さらにビザンツ帝国にまで攻撃してたとは知らなかった。 いくつか興味深かったことをピックアップ。 ノルマンディーの小さな村から出発し...
神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世がシチリア出身だったなーと思い、読んでみた。 ノルマンシチリア王国最盛期には北アフリカやイタリア半島南部まで支配し、さらにビザンツ帝国にまで攻撃してたとは知らなかった。 いくつか興味深かったことをピックアップ。 ノルマンディーの小さな村から出発したオートヴィル家の兄弟たちによってシチリア王国は作られた。 イスラム教徒とキリスト教徒が共存してた。 ラテンキリスト文化圏、ビザンツ文化圏、アラブイスラム文化圏の共存。 アラブ人を役人として大量雇用。
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シチリア王国の成立辺りから、神聖ローマ帝国の支配下に置かれる前までの200年間ぐらいを扱った本だったと思います。古代ギリシア、アラブ、ノルマン、スペインなど、多種多様な民族と文化、交易の十字路となった独特なシチリアの歴史を垣間見られます。創作活動のためにシチリアを調べていて出会っ...
シチリア王国の成立辺りから、神聖ローマ帝国の支配下に置かれる前までの200年間ぐらいを扱った本だったと思います。古代ギリシア、アラブ、ノルマン、スペインなど、多種多様な民族と文化、交易の十字路となった独特なシチリアの歴史を垣間見られます。創作活動のためにシチリアを調べていて出会った本。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
シチリア島といえば、正直イタリアの南の方の田舎かな、と今では思いがちである。しかし中世においては、フランク王国や神聖ローマ帝国に比べれば、明らかに自由で文化度の高いところであった・・ということだ。それもそのはず、ローマ帝国が東西に分裂し、紆余曲折のあとシャルルマーニュがフランク王国の皇帝として戴冠すると、話の本筋はずっと北西~中部ヨーロッパにうつる。そしてルネサンス期になると、話はいきなり南ヨーロッパにうつる。そこで中世南ヨーロッパで何があったのか、それが語られている。 もちろん「ビザンチン文化」「ヨーロッパ文化」「イスラム文化」が混在し、優れたイスラムの文化が入り、その知識人が(イスラム教徒でもある)王国の顧問を務めるなど、独特の風潮があった。古代ギリシアの文献をラテン語に訳すなど、学術的にも進んでいた。また絶対王政の端緒も南ヨーロッパにあるし、政治的にも進んでいた。 ただし、14世紀になると次第に繁栄は過去のものとなる。ローマ法王が介入してきたり、互いの宗教に対する猜疑心もなきにしもあらずであるし、イスラムの君主が介入してきたり、その場所であるがゆえ―当初はその場所であるがゆえ、交易の要衝で、独特の混在さが近郊を保っていたのだが―、分裂と対立を招いてしまう。 極めて重要な地域なのだが、あまり有名ではない、そんな気もする。
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オリーブとオレンジの島。イタリア最大の州であるシチリア島は、 穏やかな南の島のイメージがある。そして、映画「ゴッド・ファー ザー」の故郷の島。 そこはイタリア・ナポリが辿った歴史と同様に、ギリシャ・ローマ、 ビザンツ、イスラムの3つの文化と宗教が入り込んでいる。 そして誕生し...
オリーブとオレンジの島。イタリア最大の州であるシチリア島は、 穏やかな南の島のイメージがある。そして、映画「ゴッド・ファー ザー」の故郷の島。 そこはイタリア・ナポリが辿った歴史と同様に、ギリシャ・ローマ、 ビザンツ、イスラムの3つの文化と宗教が入り込んでいる。 そして誕生したシチリア王国は、フランスの片田舎から傭兵として ひと旗挙げようとしたノルマン人によって確立される。 人種も宗教も異なる人々が、それぞれの専門分野で力を発揮出来る ような行政システムはかなり優れているのではないか。 歴史的背景からの必然とはいえ、中世のシチリア王国が宗教的寛容を 実現していたのになんで現代では他宗教を憎むことしか出来ないのだ ろうねぇ。 やっぱり行きたいシチリア島。パレルモにある大劇場テアトロ・マッシ モは「ゴッド・ファーザー3」のラスト・シーンが撮影されたところなん だよねぇ。 シチリア島で地中海を眺め、地中海の風を浴びながらマリオ・プーゾォ 『ゴッド・ファーザー』のページをめくる。 あぁ、時間とお金があったらやってみたいっ!その為にはせっせと働か なくては…。汗。
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シチリアに向かう飛行機のなかで読んだ2冊のうちの1冊。著者は歴史学者で、中世シチリア研究の第一人者であるようだ。本書は、サントリー学芸賞受賞作の『中世地中海世界とシチリア王国』(東京大学出版会)のダイジェスト版といった位置づけだろうが、シチリアを立体的に把握する為の肝をつかんでい...
シチリアに向かう飛行機のなかで読んだ2冊のうちの1冊。著者は歴史学者で、中世シチリア研究の第一人者であるようだ。本書は、サントリー学芸賞受賞作の『中世地中海世界とシチリア王国』(東京大学出版会)のダイジェスト版といった位置づけだろうが、シチリアを立体的に把握する為の肝をつかんでいる(と僕は思った)、とてもよい本だった。シチリアを訪れる際の事前学習としては、絶対的にお薦めしたい。欲を言えば、本書で扱っているのは主に11〜12世紀で、それまでの流れについてはある程度は追っているのだけれど、新書という特性を鑑みると、以後についてももう少し触れておいてほしかった。僕らが実際に対面するシチリアは抽象的で直線的な歴史ではなく、それら歴史のすべてを経てきた「場所」としての現在のシチリアなのだから。
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