蝶のかたみ の商品レビュー
※ネタバレ※ まずは読みたかった「バスタオル」から読みました。もうまず最初のあたりから墨田の容姿についての形容と彼を見る主人公兵藤の精神描写の熱感が物凄い。すごく情念を感じる。 自身の性的指向を受け入れきれない苦しみと社会の目に雁字搦めにされた自意識のせいで息苦しく送る人生の...
※ネタバレ※ まずは読みたかった「バスタオル」から読みました。もうまず最初のあたりから墨田の容姿についての形容と彼を見る主人公兵藤の精神描写の熱感が物凄い。すごく情念を感じる。 自身の性的指向を受け入れきれない苦しみと社会の目に雁字搦めにされた自意識のせいで息苦しく送る人生の描写、それと対比される、墨田との春のように花ほころぶ精神、みずみずしい青春のようなもの、湿気と熱と精がないまぜになった情交の描写。この二者の落差が本当に最高。 これだけでも本当に素敵なのにあのラスト!!ラストが最高すぎる。水に浸けられた精の染み込んだバスタオルと美しくかわいらしい赤子をそんなふうに対比させる!?異性愛と同性愛をバスタオルと赤子の比喩で語ることによって主人公の中にある自意識を強烈に表現するその感性が本当に本当に大天才だなと思った。この直前に墨田と過ごすかけがえのない時間により生まれ直すことができたとさえ思っていた主人公の存在も相まって本当に大天才すぎる。 初めて福島次郎氏の文章を読んだのですが、情景描写が本当にすごい。脳内に自然と映像が流れてくるほどに滑らかな文章でありながら、美しさや性的に惹かれている部分への描写は非常にねっとりとしていて重みがずっしりとある。終盤の墨田との小旅行の場面なんて全てが輝いて楽しいのだということが文章からキラキラと読み手に飛んでくるようだった。感情や情景を描く最高の作家だと思った。 続いて「蝶のかたみ」 冒頭の大きな感情と光景にガツンと導入されてからは、情感も特にないサバサバとした語り口で物語が綴られていく。バスタオルと違って感情が主体の恋愛小説ではなかったので、へぇーと思いながら文章を読み進めていった。昭和から平成にかけて記されていく主人公と主人公の弟との交流をふーんと思って読み進めていったが、終盤の弟の部屋の描写でまた頭をガツンとやられる。読みやすく端正な文章だと思って読んでいたけれど、情念がこもる場面の描写が段違いにすさまじい。清濁、美醜を生々しく描くその力が最強すぎる。夢とその脆さ、栄光と虚飾、美しい雛壇がゴミ屋敷の一角に配置されていること、それを見て弟は幸福に浸っていたこと…この部屋のシーンが本当に最高だった。 そしてラスト。着るのだろうなと思っていたらやっぱり着るのだ。弟の生き方や人生を否定し受容できず、寄り添おうとしてもどこかで一線を引いてきた弟という存在を、ようやく受け入れられたのだろうと思った。弟のように生きたいとは思ったことのないだろう兄が、弟の残した着物を着たいと思って着る。そこでやっと兄と弟が交差したように思った。 福島次郎最高です。ありがとうございました。
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年老いたゲイってホテルビーナス思い出すよな・・・ 同時収録の「バスタオル」、思った以上に同性愛小説しててびっくりした・・・
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バスタオル、ラスト、純愛〆でいいぢゃん!!なんでラストで自分の気持ちを認めないで、汚いものとするのさ!!時代なのかなぁ。。
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内容も福島次郎さん本人の体験に基づく話なのでとてもリアルで生々しいので他人に勧められない本です。でも、個人的には好きというと少し違う気もしますが読んでいて同性愛者について考えました。 ゲイではなくホモという侮蔑の言葉を使うのは時代の為なのかそれとも本人がそう思っているからなのか・...
内容も福島次郎さん本人の体験に基づく話なのでとてもリアルで生々しいので他人に勧められない本です。でも、個人的には好きというと少し違う気もしますが読んでいて同性愛者について考えました。 ゲイではなくホモという侮蔑の言葉を使うのは時代の為なのかそれとも本人がそう思っているからなのか・・・おそらく後者だと思いますが、それでも私にはそれがいけないことだとは思えませんでした。『バスタオル』の二人の行為は愚行ではなく愛だと思います。男女じゃないからこそあの話になり同性だからといってそれがこの話の欠点にはならないと思います。
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『蝶のかたみ』『バスタオル』共に芥川賞候補作。蝶のかたみの方は、自分も弟も同性愛者であるという殆ど自叙伝的な物語。バスタオルも著者の経歴を生かしたような、教師として勤めている高校の生徒との関係を描いた物語。どちらの作品も、著者を投影したと思われる主人公は、いささかズルイ所があると...
『蝶のかたみ』『バスタオル』共に芥川賞候補作。蝶のかたみの方は、自分も弟も同性愛者であるという殆ど自叙伝的な物語。バスタオルも著者の経歴を生かしたような、教師として勤めている高校の生徒との関係を描いた物語。どちらの作品も、著者を投影したと思われる主人公は、いささかズルイ所があるというか相手より自分の事中心に考えが巡ってるというか。少なくとも「蝶のかたみ」の弟の純さは感じられないかなぁ。悪い人じゃないんだけど。
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※このレビューにはネタバレを含みます
表紙のデザインの古臭さと作家の名前のじじ臭さからガチリアルなゲイの世界を連想して、いや私が求めてるのはそうじゃないんだけど、と思いつつ、図書館で予約。二丁目をぶっ潰せと声高に叫び、同性愛者達を震撼させた石原都知事がまさかの『バスタオル』を芥川賞に強く推したらしい。都知事はこの作品の中に認めざるを得ないゲイの純愛を見たのだろうか...そう考えたらその純愛度はいかがなものなのか確かめずにはいられない。手元に届き表紙を開いた。閉ざされた世界の臭気にモァッと襲われる感覚がしておののく。むむ..これはファンタジーとして楽しむことなぞ許されないようだ。覚悟をしなければ..... 『蝶のかたみ』 お互いが同姓愛者というマイノリティ兄弟。世間とバランスをとってうまくやってきた兄と、自由奔放に正直に性をひけらかしてきた弟、生き方も男の好みも違うけど、兄は明らかに生き方をうらやましく思っていたし、誇りにさえ思っていたのがひしひしと伝わってくる。どちらの生き方が良いのかなんて分からないけど、どっちもありなんだろうなと思う。人生は短いから自分の好きなように生きよう、というタイプと、いや先は長いから平和で何事もなく終えるよう無理をせず生きようというタイプ。兄弟が真逆なタイプだったから晩年に助け合えたんだなと思える。同性愛者は自身のジェンダーに気づいたときから、生き方の方針を決めて自覚的に生きていくことを迫られるのかもしれない。そう考えるとその苦労は計り知れない。血縁関係と同志としての関係は相反するもので、弟の女装姿は受け入れたくない、でもそんな自分は明らかに同性愛者であるから、弟を否定することは自身を否定することとなる、という葛藤が兄にはあった。でもその葛藤を超えた兄弟の晩年の関係はあたたかくて良い。(ウリ専バーに一緒に行っちゃうし) 弟の艶かしい蝶の着物に袖を通したとき、兄が何を思ったか考えてみた。弟をリスペクトしたか?弟のような人生を一瞬疑似体験して満足したか?実は弟のことがリアルに好きだったのか?弟になってみたかったのか?とか。なんとも言えないけど、夢の中に弟の女装姿を見て”自分でもしてみたいという気持ち"になったというくだりがあるので、兄も何だかんだ言って艶かしい着物を着てちょっとそんな気分になりたかったのかもしれない。 『バスタオル』 たった3畳の狭い部屋で日に日に関係を濃くしていく教師と生徒、その経過が普通にエロくて萌える。教師は若く、生徒は菩薩のような美しい顔の学ラン詰襟姿。ビジュアル的に問題ないし、悲壮感もない。理性と本能のせめぎあいに教師が翻弄される様とか、お互い女性と一緒にいるところを見かけて嫉妬しあったりとか、男と女であっても普通に起こる現象が描かれ、一応純愛を育む形で物語は進行し、安心してBLファンタジーの世界を堪能していたのだが。 忘れてはいけないのは、この小説はガチゲイの小説家によって書かれたもので、ライトノベルでもマンガでもないということ。最後は純文学らしくものすごい現実をつきつけられゾッとする。時々そっと思い出して懐かしむ美しい思い出として、二人の関係を心の奥にしまおうとしたときに、彼らの欲望を吸収してきたバスタオルが、そうはさせなかったという結末である。化学的に本当にあのようなことになるのかどうか興味はあるがさておき。醜悪な現実をつきつけられ、悲しくも美しい別れが一転し、あまりの滑稽さに唖然、感傷的な余韻は取り上げられてしまう。所詮恋愛の渦中では自分達を美化して酔いっぱなしで汚いものは見ようとしない。辛い気持ちにならなかったのであれば、バスタオルに感謝するべきじゃないか、という個人的な考えはある。またバスタオルについての教師の感傷的な語りについては、男と女だって同じ、男と男だからバスタオルがあのような代物に化けてしまったわけではないと思った。でもあれは教師の切なさの表現だったのかもしれないなとは思う。 結局、都知事が芥川賞にこの作品を推したのかさっぱり分からなかった。所詮同性愛はあのバスタオルが象徴するようなものなんだという見解だったのかどうか。直接聞いてみたい。
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近親憎悪から四十年以上も音信不通にあった兄弟は晩年になって交流を持つようになる。哀切なる兄弟の絆を描く。 先の『剣と寒椿』を読んだあとでは若干の先入観がありますが、かなりおもしろく読めました。入手するのに苦労したかいがあった! やっぱり『バスタオル』がよかったです。ある一時期...
近親憎悪から四十年以上も音信不通にあった兄弟は晩年になって交流を持つようになる。哀切なる兄弟の絆を描く。 先の『剣と寒椿』を読んだあとでは若干の先入観がありますが、かなりおもしろく読めました。入手するのに苦労したかいがあった! やっぱり『バスタオル』がよかったです。ある一時期にしか得ることのできない透明な愛の描写がよかった。 全体にただよう木造校舎、市街地から離れた町などの雰囲気も作品によくあっていました。
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これは恐らく自身の経験に基づいて綴られたものなのでしょう。紙面から匂い経つような生々しさだけが強烈に印象に残っています。
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