万引き天女 の商品レビュー
中編小説と他二つの短編が収められた文庫。 表題作の「万引き天女」は商店街で民芸店を営む男性が増え続ける万引きの対策に躍起になりながらも第一の容疑者である女性に心惹かれていくという話。帽子のよく似合うその女性は皮肉なことに店側が舌を巻くほどに物を見る目がある。次第にこの人になら万引...
中編小説と他二つの短編が収められた文庫。 表題作の「万引き天女」は商店街で民芸店を営む男性が増え続ける万引きの対策に躍起になりながらも第一の容疑者である女性に心惹かれていくという話。帽子のよく似合うその女性は皮肉なことに店側が舌を巻くほどに物を見る目がある。次第にこの人になら万引きされても仕方ないかなとか、この万引きはあの人には似合わないなど妙な思考に陥ってしまう。いまいち正体の掴めない謎の女性と万引きの間でゆらゆら揺れる主人公と読者、それが、面白い。 商店の万引きに対する苦悩がとてもよく分かる。こんなにも嫌な気分になるものなのか。 商店街のあり方や他人との距離の変化が万引きという犯罪を通して伝わる一編だった。 「黄色い旗」これは本編よりも好きだった。 20ページ強の本当に短い話である。 武蔵野という土地に尋常じゃないこだわりをもつ遠藤氏とその妻ツネ子。足りない予算に悩みながら毎週の休みを不動産屋巡りに費やし、ついに遠藤氏は武蔵野に家を手に入れる。それは半分は武蔵野、半分は道路を挟んで練馬区というおかしな家だった。 最後の妻と義弟との会話、あれがなければショートショートだろう。あの後味の悪い会話、あれは薬味みたいなものでその他の部分を引き立てるためのクセの部分なのだ。 アイデア一発勝負が短編小説のよさだ。 ローンを組むような年齢ではない遠藤氏はおそらく蓄えもほぼ費やしてしまったのではないかと想像する。それでも尚、本人がとても満足げなのが清々しい。 これは他の話もなのだが、ねじめ正一の小説には人と人とのつながりで生じる摩擦、負の部分を受け入れる包容力がある。作者は人好きがうかがえる。 「お断り」は小説家が主人公のメタ視点的な作品。作者本人がモデルなのではないだろうか。 物書きお断りの小説の題材にしてみたら?と提案しているのもある意味では作者か。 2006年3月25日 第1刷 著者 ねじめ正一 発行所 集英社 万引き天女(9) 黄色い旗(221) お断り(245) 解説 野谷文昭(288)
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登場人物がみんな等身大で好感がもてた。 でも、万引き犯が最後までわからずじまいだったのには、未練がのこる。
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