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本格小説(下) の商品レビュー

4.4

43件のお客様レビュー

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2016/05/22

東太郎の人生の話と思いきや、最後冬絵の登場と語りで、この物語はフミ子の人生の話だったのではないか、と視点が逆転した。 そして、この物語に登場した、愛を交わしあった人々、本当は誰もが愛して愛されてはいなかったのではなかろうか…と、気付いてしまった。それぞれが語る愛が、交わっているよ...

東太郎の人生の話と思いきや、最後冬絵の登場と語りで、この物語はフミ子の人生の話だったのではないか、と視点が逆転した。 そして、この物語に登場した、愛を交わしあった人々、本当は誰もが愛して愛されてはいなかったのではなかろうか…と、気付いてしまった。それぞれが語る愛が、交わっているようで、実は何だか宙に浮いてしまっているような。それは、語り手に話を進ませる方法をとったからなのか。もし、渦中の誰かの一人称か、まったくの三人称で小説が構成されていたら、きっと違っていたのかも。 漱石の『こころ』は、渦中の「先生」の語りを執った一人称だが、あの作品ではまさに、「先生」の主観(思い込みともいえる)で物語が進んでいく。一方この『本格小説』は、フミ子の語りでありながら徹底的に事実から第三者的な立場が貫かれている。しかし、最後の冬絵の台詞で、それまで冷静な第三者的な物語と信じ込まれていたものがガラガラと崩れ、フミ子の語りによるフミ子の人生の物語へと姿を変えたような。 そんなカラクリも仕込みつつ、文学の可能性を試している著者の仕事っぷりに脱帽する。 本当に面白かった‼

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2016/04/19

 これは、説明不要、とにかく面白いので読め!って感じの本です。    軽井沢に別荘を持つ裕福な家庭に生まれた少女・よう子と浮浪児同然の少年・太郎の恋が軽井沢で芽生えますが、階級の格差と時の流れによって、いつしか二人は離れ離れになる。その後、成長した太郎がアメリカで経済的な大成...

 これは、説明不要、とにかく面白いので読め!って感じの本です。    軽井沢に別荘を持つ裕福な家庭に生まれた少女・よう子と浮浪児同然の少年・太郎の恋が軽井沢で芽生えますが、階級の格差と時の流れによって、いつしか二人は離れ離れになる。その後、成長した太郎がアメリカで経済的な大成功をおさめて、よう子の前に姿を現します。  戦後の日本を舞台に描かれた『嵐が丘』とも言われていますね。  メロドラマにどっぷり、というような読書は普段しないのですが、これは例外。とにかくグイグイ引き込まれますので、未読の方は是非)^o^(

Posted byブクログ

2015/12/21

「山荘」だとか、「アメリカ」だとか、全く縁のないキーワードばかりでした。土屋富美子さんの語り口が、ですます調が、お上品でした。

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2015/11/16

小説は、主観的な内的な心象風景を物語で紡ぎながら、その中に美しさとそれから生まれる哀しみがあらわされれているもの・・かなと。 どの時代でも、文化、社会の中で人が思うようには生きていけない辛さみたいなものが澱んで、人が巻き込まれ、自分からまきついていくような人がいて、そういう時代に...

小説は、主観的な内的な心象風景を物語で紡ぎながら、その中に美しさとそれから生まれる哀しみがあらわされれているもの・・かなと。 どの時代でも、文化、社会の中で人が思うようには生きていけない辛さみたいなものが澱んで、人が巻き込まれ、自分からまきついていくような人がいて、そういう時代に翻弄される劇的な物語を、人は惹かれるものである。 この本の主人公が登場しているとき、嵐が丘の冷たい暗い風がいつも感じられる。この小説が「嵐が丘」を意識していることは、最初から感じられるのだが、嵐が丘を感じながらも、この小説の舞台は戦後である。貧しい家族に恵まれない辛い子供時代を過ごした主人公は、時代背景が嵐が丘とは違うがその主人公太郎の立ち位置がヒースクリフが非常に似ているためそのように感じるのだろう。 この本の好きなところはいろいろあるが、ラストの意外性がすごいと感じさせた。嵐が丘を意識しながら、全く別の次元のものに昇華したと感じた。 小説とは、これを言うのだなと感じさせてくれる本である。

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2015/05/10
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

その当時に生きた人にしか感じられなかった惨めさと華やかさ いまの時代では想像できない世界が同じ日本だったんんだ 苦しくも悲しくも悔しくもあるんだけど 読み始めると、先が気になり、どんどん読み進め 最後の最後には、単純に夢のように浮かれていた気持ちが びっくりするほど水を浴びせられたような気分になり すごい小説を読んでしまったなぁという気持ち でも、水村さんの他の小説、すぐに読みたいとは思えない 衝撃が強すぎる

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2015/03/17

+++ 夏目漱石の遺作を書き継いだ『続明暗』で鮮烈なデビューを果たし、前代未聞のバイリンガル小説『私小説from left to right』で読書人を瞠目させた著者が、七年の歳月を費やし、待望の第三作を放つ。21世紀に物語を紡ぐことへの果敢な挑戦が、忘れかけていた文学の悦びを呼...

+++ 夏目漱石の遺作を書き継いだ『続明暗』で鮮烈なデビューを果たし、前代未聞のバイリンガル小説『私小説from left to right』で読書人を瞠目させた著者が、七年の歳月を費やし、待望の第三作を放つ。21世紀に物語を紡ぐことへの果敢な挑戦が、忘れかけていた文学の悦びを呼び招く。 +++ 上巻を読んでから時間が空いてしまったが、やっと下巻を読むことができた。上巻から持ち越された緊張感と昂揚感はそのまま続き、東太郎、冨美子、よう子、そして三枝三姉妹や関係者たちもそれぞれ歳を重ねて状況はずいぶん変わってくる。よう子は重之ちゃんと結婚し、娘も生まれたが、太郎に対する気持ちが消え去ってしまったわけではなかったのである。太郎とよう子、夫の重之三人の関係は、危うい緊張感の上に安定し、しあわせの極みとも言える時を過ごしもする。彼らが主役の物語でありながら、それよりも、語り手とも言える冨美子の一生の物語とも思われ、最後に語られる事実にその感をさらに強くするのである。人というもののむずかしさ奥深さ、底知れなさを思わされる一冊である。

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2015/02/21

感想 貧乏、学歴、金持ち、努力、恋愛、上流社会の三角関係と、どのページを開いても飽きさせない話でした。 これら全てが戦後からバブル期が終わる頃までの時代の流れに合わせるように織り込まれていました。 文章は丁寧な日本語が使われていて読みやすいです。 ...

感想 貧乏、学歴、金持ち、努力、恋愛、上流社会の三角関係と、どのページを開いても飽きさせない話でした。 これら全てが戦後からバブル期が終わる頃までの時代の流れに合わせるように織り込まれていました。 文章は丁寧な日本語が使われていて読みやすいです。 内容が面白くてサクサク読めて、 続きが読みたくて暇を作っては読み一週間かかってしまいました。

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2015/01/19

成城に屋敷を構え、夏は軽井沢で過ごす上流階級の家庭に生まれた女たちと、身分の違いすぎる男太郎の、半世紀に渡る運命の物語。 「太郎ちゃんなんかと結婚したら、ミ・ラ・イ・エ・イ・ゴ・ウなんの夢もない。恥ずかしくて死んでしまう。」と言い放ちながら、死ぬまで太郎を愛し続けたよう子。 生涯...

成城に屋敷を構え、夏は軽井沢で過ごす上流階級の家庭に生まれた女たちと、身分の違いすぎる男太郎の、半世紀に渡る運命の物語。 「太郎ちゃんなんかと結婚したら、ミ・ラ・イ・エ・イ・ゴ・ウなんの夢もない。恥ずかしくて死んでしまう。」と言い放ちながら、死ぬまで太郎を愛し続けたよう子。 生涯他の女性を愛する事なく、アメリカに渡り、億万長者になった太郎。 でも、ふたりが結ばれる事はなく、あまりにあっけない別れが悔しい。 周りの雑音が多すぎて、ドラマチックな盛り上がりに欠けるのだけど、人生なんてそんなものかもしれない。 太郎を子供の頃から支えてきた、女中の冨美子の目線で語られるが、最後に驚きの事実が。

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2015/01/14

かなり長い話でしたが、話の世界にどっぷりと浸ることができました。 女中の視点で語られる三枝家と重光家、太郎とよう子の関係も面白かったし、舞台になっている軽井沢や小田急沿線も馴染のある場所だけに情景がすんなりと思い浮かんで、ぐいぐいと引き込まれました。 よう子視点での話も読んでみた...

かなり長い話でしたが、話の世界にどっぷりと浸ることができました。 女中の視点で語られる三枝家と重光家、太郎とよう子の関係も面白かったし、舞台になっている軽井沢や小田急沿線も馴染のある場所だけに情景がすんなりと思い浮かんで、ぐいぐいと引き込まれました。 よう子視点での話も読んでみたかったけど、ここは想像するしかないといったところが残念。 冨美子視点からだと、よう子が何故そこまで雅之と太郎といった2人の極上の男性に溺愛されるのか、そこまで魅力が伝わらないのだが、そこは冨美子のよう子に対する嫉妬心みたいなものが含まれていて魅力が伝わる描写になっていないのかな、と思った。

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2014/07/24

主体としての「I」が育たなかった日本で、「私」を主語に本格小説を書いた著者の姿勢に圧倒される。 主体としての「I」を書こうとすれば、自分がとるに足らないことも受け入れられる。と言いながら、これだけの量、精密さ、言葉の崇高さを維持して書きあげるって、どんなモチベーションなんだろうか...

主体としての「I」が育たなかった日本で、「私」を主語に本格小説を書いた著者の姿勢に圧倒される。 主体としての「I」を書こうとすれば、自分がとるに足らないことも受け入れられる。と言いながら、これだけの量、精密さ、言葉の崇高さを維持して書きあげるって、どんなモチベーションなんだろうか。登場人物は、そこまで私であることに自覚的に暮らしているようには見えないし。主体としての「私」とは何か、何度か読み直さないといけない本。

Posted byブクログ