イラクの戦場で学んだこと の商品レビュー
日本人の平和ボケとはよく聞く言葉ではあるが、過去の戦争の惨劇を経験した世代の大半が亡くなり、子供世代からまたその子供へと連なる記憶の糸も僅かに引っ張ったら途切れてしまいそうだ。だがそれ自体は私は悪い事では無いと思う。過去の戦争の反省が無くなれば、人はきっと過ちを繰り返すに違いない...
日本人の平和ボケとはよく聞く言葉ではあるが、過去の戦争の惨劇を経験した世代の大半が亡くなり、子供世代からまたその子供へと連なる記憶の糸も僅かに引っ張ったら途切れてしまいそうだ。だがそれ自体は私は悪い事では無いと思う。過去の戦争の反省が無くなれば、人はきっと過ちを繰り返すに違いない、歴史は繰り返されるなどよく言われる。だからいつまでも反省して二度と繰り返さないようにする、というのも解る。だが現実日本に身近な所に起こっていない戦禍を想像だけで繋いでいくにも限界がある。ある意味それくらい今の日本は戦争から遠ざかり平和を謳歌しているとも言える。果たしてそれを忘れた現在を生きる日本人が、グローバル化され密接に繋がる世界において、過去の軍国主義の様に侵略を行うとは到底思えない。逆にアメリカを除きほとんど侵略された経験がない日本人の記憶に、逆に教訓にすべき記憶も少ない。北朝鮮のミサイルが万が一我が国に襲いかかったとして、役に立つ記憶があるとは思えない。それ程までに長く平和を続ける日本人にとって、世界中で起こっている戦争の現場を知る機会は少ない。 本書は大学卒業と同時に社会人経験なくNPOの世界に飛び込み、やがてピースウィンズジャパンのメンバーとしてイラクに飛び込んでいく筆者の見た世界である。ある程度ニュース映像などで、危険らしさは伝わってくるが、筆者がいた頃はアメリカがイラクの生物兵器疑惑で空爆を仕掛けようとしていた頃の話だ。筆者は国を持たない最大民族であるクルド人をNPOメンバーとして支援する立場から、アメリカの攻撃を受ける側の世界にいる。そこには生物兵器とは無関係のイラク国民やクルド人難民が沢山いたはずである。不足する食料、患者を選別せざるを得ない医療、ちょっとの距離の移動でも襲撃という死の危険と隣り合わせの街、屋根にパラパラと落ちてくる弾丸の音。どれも日本に暮らしていれば感じることなど殆どあり得ない。 本書はその様な世界に飛び込んだ筆者が、現地を去るまでに出会った人々とのつながりの強さ、筆者自身の人間性を知ることができる。幾つかのエピソードは胸が熱くなり目頭を熱くした。 自分が平和を謳歌し、過去の戦争も経験ではなく、リアルな記憶がない中で、筆者の経験はまさに今この瞬間にも日本以外の場所で起こっている世界のリアルを教えてくれる。何か行動を起こさなくても、力になれないとしても、無関心でいる事がいちばんの罪だ、という文面が想像以上に重たく心臓あたりにのしかかってきた。
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ピースウィンズジャパンに所属していた筆者が、イラクのクルド人自治区で活動した三年間を綴った本。 現地で活動する人の仕事や生活を詳しく知る機会はあまりないので、私にとってはとても貴重な本。 特に、スタッフとして採用した現地の人が亡命していくことが結構あることにびっくりしました。 ...
ピースウィンズジャパンに所属していた筆者が、イラクのクルド人自治区で活動した三年間を綴った本。 現地で活動する人の仕事や生活を詳しく知る機会はあまりないので、私にとってはとても貴重な本。 特に、スタッフとして採用した現地の人が亡命していくことが結構あることにびっくりしました。 NGOのスタッフとして採用されるということは能力が高く、世界情勢も知っている。 紛争が終わった後は当然国を立て直していくのに必要な人材で、先頭に立って復興をしてくれるだろうと期待していた人が亡命していくのは辛いと。 能力が高くて、世界情勢を知っているからこそ、紛争に終わりが見えないと絶望して亡命をしていくんだそうです。 そんなことは全く思いつきもしなかったから、これが現実なんだ、綺麗事だけじゃ行きていけないんだと頭を殴られたような衝撃を受けました。 現地で活動されてた方の経験談はとても勉強になります。 これは岩波ジュニア新書なので、わかりやすく書かれてて読みやすく、理解しやすいです。
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読んだ感想は「NGOの仕事をがむしゃらにやった3年間」の体験記でしょうか。面白かったです。 興味を持ったのは、 ・国連本部の汚職 ・クルド人自治区へ入るには密入国 ・現地でのコーディネーターとしての仕事の難しさ ・日本の外務省、クルド自治政府、アメリカ政府等との折衝 ・...
読んだ感想は「NGOの仕事をがむしゃらにやった3年間」の体験記でしょうか。面白かったです。 興味を持ったのは、 ・国連本部の汚職 ・クルド人自治区へ入るには密入国 ・現地でのコーディネーターとしての仕事の難しさ ・日本の外務省、クルド自治政府、アメリカ政府等との折衝 ・CIA、アメリカ軍民生担当との調整 ・紛争地域で働くのは現地の人と共に汗を流していく仕事だけではない でしょうか。 NGOの仕事に対する見方が少し変わりました。 意外に良書かも。
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(2011.09.12読了)(2010.12.12購入) イラクのバグダッドあたりの話と思って手に取ったのですが、クルド人自治区の話でした。 2000年11月から2003年7月までの約3年間、著者は、日本のNGO「ピースウィンズ・ジャパン」の国際スタッフとして、イラク北部クルド人...
(2011.09.12読了)(2010.12.12購入) イラクのバグダッドあたりの話と思って手に取ったのですが、クルド人自治区の話でした。 2000年11月から2003年7月までの約3年間、著者は、日本のNGO「ピースウィンズ・ジャパン」の国際スタッフとして、イラク北部クルド人自治区に駐在しました。 この本は、その時の経験をつづったものです。 クルド人がどうこうというよりは、NGOの活動というほうに重点がありますので、NGOの活動に興味のある方向けの本です。イラクやクルド人について知りたいという方にはあまり向いていないと思います。(クルド人について全く書いていないというわけではないのですが) NGOとは?(NGOについてネットで調べてみました) Non-Governmental Organizationの略 もともとは、国連と政府以外の民間団体との協力関係について定めた国連憲章第71条の中で使われている用語です。国際協力に携わる「非政府組織」「民間団体」のことを意味します。開発、人権、環境、平和など地球規模の問題に国境を越えて取り組んでいる非営利の民間組織をNGOと呼んでいます。 章立ては、以下の通りです。 1、現場に行きたい! 2、クルド人自治区へ 3、紛争地帯で働くということ 4、試行錯誤を繰り返しながら 5、幅広い現地での人道支援活動 6、悪化する治安の中で 7、いざ、未知なる「イラク」の地へ! 8、現地での体験から学んだこと 著者は、人道支援の仕事をしたかったのですが、最初に就職したところは、現場に行く機会がなかったので、ピースウィンズ・ジャパンに移って赴任辞令の出たところがイラクのクルド人自治区だったということです。 「私の場合、イラクに行きたかったから行ったわけではありません。クルド人を助けたかったのでもありません。ただ、紛争というものが他者の私利私欲のために起こり、そのために傷つきどうしようもないまま死んでいく人がいるという現実が許せなかったのです。」(184頁) (紛争が私利私欲のために起こるというふうに言い切ってしまえるところがすごいです。) 赴任先についたら、前任者が2時間後に離任していってしまった、というのには唖然としてしまいました。現地スタッフは110名いるけど、NGOからきている日本人は自分だけ、という状態で、25歳の著者が、率いていかないといけないということです。 試行錯誤をしながら、3年間過ごしたというのですから、感心してしまいました。 ●不法入国(47頁) 中央政府(イラク)が反政府分子であるクルド人を支援するNGOスタッフにビザを発給するはずもなく、かつ自治区は中央政府の支配外でしたから、私自身を含めNGOの国際スタッフは、隣国のシリアやイランの政府から通行許可を、自治政府から入国許可を得て、イラク中央政府の支配地域を通らずに入国していました。 ●お尋ね者(53頁) (中央政府からNGOスタッフに1万ドルの懸賞金がかかっていたらしい。) 身を守るため、自治区内での私のプライバシーや行動の自由はほぼゼロでした。すべての事務所とレジデンスには24時間の警護がつき、10メートル先の雑貨屋であろうとも、移動には武装した警護スタッフがついてきました。 ●女医の必要性(83頁) イスラム教の風習が強いイラクでは、男性医師が女性患者を診察することはほぼ不可能です。とくに農村部ではその傾向が強く、女性医師ですら、患者の夫もしくは父親の同意がないと女性の体に触れることができないという状況でした。 (2011年9月13日・記)
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[ 内容 ] イラク北部クルド人自治区で、たった一人の日本人現場責任者として3年間にわたって人道支援活動にたずさわった若きNGOスタッフの記録。 紛争地で厳しい現実に直面し、怒り、悩み、戸惑いながら難民救援や医療援助活動に奔走する日々…。 彼女が現場で感じたことは何だったのか。 ...
[ 内容 ] イラク北部クルド人自治区で、たった一人の日本人現場責任者として3年間にわたって人道支援活動にたずさわった若きNGOスタッフの記録。 紛争地で厳しい現実に直面し、怒り、悩み、戸惑いながら難民救援や医療援助活動に奔走する日々…。 彼女が現場で感じたことは何だったのか。 [ 目次 ] 1 現場に行きたい! 2 クルド人自治区へ 3 紛争地帯で働くということ 4 試行錯誤を繰り返しながら 5 幅広い現地での人道支援活動 6 悪化する治安の中で 7 いざ、未知なる「イラク」の地へ! 8 現地での体験から学んだこと [ POP ] [ おすすめ度 ] ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度 ☆☆☆☆☆☆☆ 文章 ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性 ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性 ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度 共感度(空振り三振・一部・参った!) 読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ) [ 関連図書 ] [ 参考となる書評 ]
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「ただ、重要なのは、そのことに興味を持つということではないでしょうか。イラク戦争の際、とある日本の歌手が言っていた言葉が忘れられません。「なにもしなくてもできなくてもいいけど、無関心でいることが一番の罪ではないだろうか」。」 「NGOの仕事は他人の命に責任を持つことであり、最後に...
「ただ、重要なのは、そのことに興味を持つということではないでしょうか。イラク戦争の際、とある日本の歌手が言っていた言葉が忘れられません。「なにもしなくてもできなくてもいいけど、無関心でいることが一番の罪ではないだろうか」。」 「NGOの仕事は他人の命に責任を持つことであり、最後には、その責任をその人自身で持ってもらうよう仕向けていく仕事です。これは、実は、普通に生きている日本の生活でも同じかもしれません。」 愛すべき岩波ジュニア新書。 インスパイアされた本をとにかく手に取ってみた。 私よりも少し年上の女性が、25歳の時点でイラクで110人ものイラク人男性を部下にNGOの頭として指揮をしたり、 まさに戦争が起こっているその状況で、絶対にイラクに残る、日本に帰らないと決意する様。 それは必ずしも見てくれとか、世間体とか、そういうんじゃなく苦しくても辛くても泣いても、こうすると決めた強さ。 目の前にあることを諦めず、全うする力。 圧倒された。 「くじけそうになる私を支えていたのはこの得体の知れない理不尽なものに対する「怒り」だったのではないかと思っています。」 【7/28読了・初読・市立図書館】
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