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暗いブティック通り の商品レビュー

3.8

10件のお客様レビュー

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2024/04/04

中盤まで、自己を探索し記憶との距離を詰めてゆく主体の在り方にうっとり。描写が良い。後半、ここで終わる!?という唐突さ。余剰はたっぷり。ミステリは謎を解決するためにあるのではないのね…。落下の解剖学と同じ構造。

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2020/10/09

記憶喪失だった男が自分を捜してパリのあちこちの通りを彷徨い歩く。最終的には記憶を喪失した前後のことは明らかになるが、だからと言って自分が何者なのかの本質は曖昧(obscure )なまま。フランス版の私小説。極めて観念的で読後もフワフワしたかんじがとれない。

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2016/07/20

 “彼女はわけもなしに泣く―”  探偵事務所の助手として働く、記憶をなくした男。事務所の閉鎖を機に、自身の過去を探す旅に出る。雪景色のなか、なぜ恋人たちは突然の悲劇に引き裂かれたのか?失われた時を求め、男はパリの街を彷徨う。 「それは果たしてぼくの人生なのだろうか?」  意...

 “彼女はわけもなしに泣く―”  探偵事務所の助手として働く、記憶をなくした男。事務所の閉鎖を機に、自身の過去を探す旅に出る。雪景色のなか、なぜ恋人たちは突然の悲劇に引き裂かれたのか?失われた時を求め、男はパリの街を彷徨う。 「それは果たしてぼくの人生なのだろうか?」  意味の分からない、混沌とした切れ端のかけら。切れそうな糸を頼りに、かろうじてそれを辿ってゆく。知らず知らずのうちに、誰か他の人生に滑り込んでいっているのかもしれないという疑いを常に感じながら。 「われわれは、最後には気化してしまうかもしれないのだ」  古い写真、新聞記事の切り抜き、淡い覚え書き。果たしてそれは彼の道標となり得るのか。夜闇が次第に白いふわふわした靄に代わり、少しずつ皆をかき消して透明にしていく。 「砂は何秒かの間しかわれわれの足跡を留めない」  忽然と虚無の中から現れ、暫し光った後でまた虚無に戻る。ある日姿を消しても誰も気づかない。結局のところ、人間は皆そういう存在であり、やがて行方をくらましてゆく。  2014年のノーベル文学賞受賞作家、パトリック・モディアノによるミステリ風叙情純文学。サスペンス的な展開やどんでん返しがあるわけではなく、霧が晴れるように徐々に見えてくる真実と、明らかになる悲哀に満ちた人生劇が書かれています。ゴンクール賞受賞作。  そんなお話。

Posted byブクログ

2015/07/04

霧。 濃霧のなかに一人いる。 霧の向こうにはなにかる気配がある、時々影もみえる。 匂いも・・・シガレット?コーヒー?古い書物、埃・・・夏と冬。 「結局のところ 私は◯◯なんかではなかったかもしれず 要するに何ものでもなかったが それでもある時ははるかな かと思うとある時はもっと...

霧。 濃霧のなかに一人いる。 霧の向こうにはなにかる気配がある、時々影もみえる。 匂いも・・・シガレット?コーヒー?古い書物、埃・・・夏と冬。 「結局のところ 私は◯◯なんかではなかったかもしれず 要するに何ものでもなかったが それでもある時ははるかな かと思うとある時はもっと強烈な波動が私の中をよぎり 空中に漂っているそうした散り散りの谺が結晶していき それが私となるのだった。」

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2015/02/24

傑作でありました。記憶喪失の主人公がアイデンティティーを求めて、手がかりを一つ一つ追いかけていく推理小説のような仕立てでありながら、霧の中のような、なんとも不思議な読後感。目が離せなくなるという点では、モディアノの他の作品と同様です。まさに、中毒性がありますね。

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2015/01/17

8年前より以前の記憶を失った「私」が自分の来歴を探し求める話。 主人公は意識を取り戻して以来従事していた私立探偵時代のツテを利用し、微かな手がかりから手がかりを経て、少しずつ自分の過去に迫っていく。 ヒントを握っていそうな人物に次々話を聞きに行くが、その証言も――これは記憶喪失で...

8年前より以前の記憶を失った「私」が自分の来歴を探し求める話。 主人公は意識を取り戻して以来従事していた私立探偵時代のツテを利用し、微かな手がかりから手がかりを経て、少しずつ自分の過去に迫っていく。 ヒントを握っていそうな人物に次々話を聞きに行くが、その証言も――これは記憶喪失でなくても誰もがそうだが――過去の出来事を完璧に再現できないために、断片的である。 少しずつフラッシュバックのように過去の場面が浮かぶこともあるが、それすら「私」が追跡をする中で思い込みが生み出した幻視かもしれない。 自分という地盤を失った「私」の不安感と、思い起こされる過去の自分が陥っていた時代の不安感とが混じり合い、えも言われぬ雰囲気を醸し出す。 読者は、「私」とともに推理小説的な彷徨を続けるのだが、ネタバレをすると、本書のなかでは彼の出自は断片的に解明された(かもしれない)という段階で終わりを告げる。しかも一つの断片が明らかになったことで、より大きな疑問を何個も残して。 では、「私」はそもそもどこから来て、その後どこへ行ったのか? そこからの追跡は、読者の空想にゆだねられるのである。 作品中で答えを出さず、読後にまだ作品世界の余韻を引きずる、こういった手法で熱心なファンがつくのは納得できる気がする。 「私」とともに「自分とは何者か」の迷宮にともに迷い込む。作品世界に没入できるという点で優れた読書時間を提供してくれる良書だと思う。

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2014/11/28

「すぐれた現代小説はしばしば推理小説的構造をとる」という説があるらしい。「私は何者でもない。その夕方、キャフェのテラスに坐った、ただの仄白いシルエットに過ぎなかった。雨が止むのを待っていたのだった。ユットと別れた時に降りはじめた夕立だ」という、ノワール小説風の書き出しはその説の正...

「すぐれた現代小説はしばしば推理小説的構造をとる」という説があるらしい。「私は何者でもない。その夕方、キャフェのテラスに坐った、ただの仄白いシルエットに過ぎなかった。雨が止むのを待っていたのだった。ユットと別れた時に降りはじめた夕立だ」という、ノワール小説風の書き出しはその説の正しさを裏付けるものかもしれない。 十年前、記憶喪失に見まわれた「私」を援けてくれたのがユットだった。記憶の戻らない「私」に新しい身分証明書を手配し、探偵として使ってくれたばかりか、引退した日、自由に使えと事務所の鍵まで渡してくれたのだ。自分の過去をたずねる旅に出る潮時だった。 「私」が探るのは、自分は誰で、十年前になぜ記憶をなくしたのか、という謎である。都合のいいことに、「私」を助けたのが探偵事務所の所長であり、八年間その右腕として働いた「私」は、今では腕利きの探偵となっている。引き継いだ事務所には紳士録や住所録のファイルで埋まった棚があり、ユットは各方面に人脈を持っていた。 実際に顔を見れば、「私」を覚えている者に会えるかもしれない。「私」は、わずかな手がかりを求め、人を尋ねてパリの街中を歩きまわる。文中に通りや建物の名が続出する。パリに詳しい読者なら、そこがどんな界隈かすぐにわかるのだろうが、詳しくなくともそこはパリだ。映画で見覚えのあるところも多い。サクレ・クール寺院近くの階段などとあれば、一気に情景が喚起される。 「私」が会うのは、亡命ロシア貴族やうらぶれたピアノ弾き、男色家の写真家といったいずれも落剥を絵に描いたような面々。彼らは思い出したくもない過去を問いただす探偵を追い払うかのように、思い出の品を手渡す。写真や形見の品から芋づる式に手繰り寄せる自分の過去。手がかりになるのは、名前と住所、電話番号といった記号化された情報である。一章が丸ごとそれにあてられることも。 そのうちに少しずつ分かってくるのは、「私」が、どうやらいくつもの名前を使い分けていたこと、恋人がいたこと、南米の外交官と関係があったこと等々。時代は第二次世界大戦下、ヴィシー政権下のフランスで臨検を恐れる立場にあった「私」は、同じ境遇の仲間たちとスイス国境に近いムジェーブという観光地への旅行を強行し、記憶喪失に至る事故に遭ったらしいい。 推理小説風にはじまった小説は、「私」の過去が明らかになるに連れ、過去に出会った人々の視点による回想が挿入されたり、自分の回想が入り混じったりして複雑な様相を呈するように。暴かれた過去ははじめの謎を解明するが、それによりかえって謎が深まってゆく。恋人だった女はどうなったのか。ボラボラ島で行方知れずになった学生時代からの友人は本当に死んだのか。「すぐれた現代小説はしばしば推理小説的構造をとる」の後には「が、それはたいてい最後まで謎の解けない推理小説である」という、もうひとつの説が続いているという。いやはや。 「暗いブティック通り」は原文で“Rue des Boutiques Obscures” 。フランス語になっているが、もとのイタリア語では、ローマにある通りの名でイタリア共産党の本部があるとか。「私」がかつて住んでいた、その地を訪れるまで謎は解明されることはない。「私」とは、いったい何者でいくつもの名を名のらねばならなかった理由とは何だったのか。その解明は読者にゆだねられている、ということだ。 推理小説的構造を借り、娯楽小説の意匠を纏うことによって、戦争や人種、自己とは何か、というすぐれて現代的な問いを、不用意な読者に否応なしに突きつける、きわめて用意周到な作品である。それでいて、登場人物が仄めかすサイド・ストーリー、美味そうな酒や料理の紹介、と巷間に流布する凡百の推理小説やスパイ小説をはるかに凌駕する読み応え。本を読むことの愉しみはしっかり保障されている。1978年度ゴンクール賞受賞作。

Posted byブクログ

2014/11/26
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

モディアノの小説ってどれもふわふわしている。これは『イヴォンヌの香り』に近い印象。フランス(ムジェーヴ)には山小屋にもビリヤード台があるらしい。

Posted byブクログ

2014/10/13

その淡い世界の中では記憶も悲劇も曖昧なまま。自らの記憶を喪失し過去を探す男―どこか使い古された様な設定だが、実際には私が私を探すほどそのアイデンティティは分裂し、やがて歴史の澱に沈殿してゆく。終始淡々と進んでゆく私探しの探偵物語は、あらゆる個人情報が記号化しているが故に感情的に切...

その淡い世界の中では記憶も悲劇も曖昧なまま。自らの記憶を喪失し過去を探す男―どこか使い古された様な設定だが、実際には私が私を探すほどそのアイデンティティは分裂し、やがて歴史の澱に沈殿してゆく。終始淡々と進んでゆく私探しの探偵物語は、あらゆる個人情報が記号化しているが故に感情的に切り離され、代替可能なものなだという不確かさが付き纏う。少なくとも、ここにはあらゆるものから切り離されたからこそ全てと繋がれるのだという可能性は存在する。だからこそ、繋がる事への必然性を、欲望を、もっと曝け出してほしいと思うのだ。

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2009/10/04

見つけることではなくて、見つけようとすること。古いビスケット缶の中に入った写真や手紙、思い出の品…普遍的な何か。

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