遠い音 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
音のない世界とはどういうものか、を体感してみたくて 手に取りました。 5歳のときに猩紅熱にかかり耳が聞こえなくなった 主人公グローニアは祖母から言葉を教わり聾学校で 友人を作り、青年と出会い結婚。カナダも 第一次世界大戦に加わり夫は遠い地へと旅立つ…。 5歳なら病気になる前はそれなりに話せただろうに グローニアは一つの単語を習得するのに とても時間がかかっていて、さらに同音異義語だったり 似た発音の単語は区別がつかなかったり 比喩が理解できなかったりとことばだけでも 数々の困難を抱え、周囲の音もまったく聞こえないので 立ち振る舞いにも困難を抱えていて、「聞こえない」と いうことは生きていくこと自体にとても大きな困難を抱えるんだなと感じました。 周囲(特に夫のジム)の戦争での出来事とグローニアの 静寂との対比がこの小説における「音」を際立たせていました。
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見えないということは、もしかすると逆に豊かさを生むのだろうかと思ってはいた。 でも、聞こえないことについては考えたことがなかった。想像したこともなかった。 だからこの本で、音のない世界、手で言葉を交わし合う世界がどれだけ豊かなのかということを、初めて知った。 ------ 『...
見えないということは、もしかすると逆に豊かさを生むのだろうかと思ってはいた。 でも、聞こえないことについては考えたことがなかった。想像したこともなかった。 だからこの本で、音のない世界、手で言葉を交わし合う世界がどれだけ豊かなのかということを、初めて知った。 ------ 『サンデー』という絵本を使って言葉を教えてくれた祖母、マモ。 言葉だけじゃなく、深い愛情をもって、色んなことをグローニアに教えた。 「あまりにも深い悲しみは、じっと抱えこんでいるしかないんだよ」 夜寝るとき、お互いの足に紐をつけて、一人じゃない、つながっているということをわからせてくれた姉、トレス。 そうしたエピソードの一つ一つがとてもあたかかく、胸がじんわりして涙が出る。 聾学校に行くことを強く勧めたにもかかわらず、クリスマスに会えないとなったときのマモの様子も忘れられない。 「自分自身が両親を急き立ててこどもを学校に送るようにさせたのだが。彼女は目を閉じて、ボロボロと頬を伝い流れる涙を止めようともしなかった。」 聾学校を卒業した後、学校病院の手伝いをしていたときグローニアはジムという青年と出会い結婚。 たった2週間の短い結婚生活。 グローニアは目をつぶり、左手の指をジムの唇にもっていく。 「彼がささやく言葉が彼女の指先に伝わり、彼女が小声でそれに返事をして、並んで寝たまま会話をするのだった。」 「〈さあ、指をわたしの口に当てて。そうっと。言葉を感じるのよ。今度はわたしの喉へ、それからまた唇へ。言葉のかたちが指に滲みこんでくるようにするのよ。言葉を手ですくいとるの〉 彼はこれほど完璧に愛を包みこんでいる言葉を知らなかった。 彼女はこれほど安心できたことはなかった。」 ああ、こんな美しいコミュニケーションがあったとは…。 しかしジムは戦争へ。 ここから、物語は残されたグローニアと、戦場のジムと、二つの部分に分かれて進行していく。 作者のフランシス・イタニは、耳の聞こえなかった祖母をモデルに、6年間も綿密なリサーチをした上でこの小説を書いたそうだ。 静かでユーモアもある文章が、いい。 訳文も、いい。 読み終わった後、ふわあ、と放心するような、あたたかいもので満たされるような、何か大切なものがどしりと心に居座るような、そんな長編小説です。 いいもの読んだ。
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第一次世界大戦が迫りくるなか、グローニアは5歳で聴覚を失った。家族や 世界とのつながりを回復させようとする祖母。現実を受けとめられず、神に 祈り医者にすがる母。祖母が根気強く教える言葉の断片が、やがて世界へ つながっていき、聾学校で学んだ手話が彼女の新しい人生を切りひらく。...
第一次世界大戦が迫りくるなか、グローニアは5歳で聴覚を失った。家族や 世界とのつながりを回復させようとする祖母。現実を受けとめられず、神に 祈り医者にすがる母。祖母が根気強く教える言葉の断片が、やがて世界へ つながっていき、聾学校で学んだ手話が彼女の新しい人生を切りひらく。 音楽好きの青年ジムとの出逢い。そして、結婚。しかし、つかのまの幸せ を残し、夫は戦場へと旅立っていく―。
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