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ポロポロ の商品レビュー

3.9

27件のお客様レビュー

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2020/09/16

最初の「ポロポロ」と一部の小説を除いて、軍隊生活の同じ時間を反復して語られる。しかしそれに飽きるということはなくて、というのもおそらく語り直す度に作者は語るということに直面しているからで、徐々にそれは“物語”の否定という形をとっていく。確かに我々は物語を生きてはいない。生活は物語...

最初の「ポロポロ」と一部の小説を除いて、軍隊生活の同じ時間を反復して語られる。しかしそれに飽きるということはなくて、というのもおそらく語り直す度に作者は語るということに直面しているからで、徐々にそれは“物語”の否定という形をとっていく。確かに我々は物語を生きてはいない。生活は物語ではない。軍隊生活も、物語ではない。ましてや死んだ人間を語るのにそれをしてしまっては……ではどうするのか。答えなど出ない。ギリギリまで物語を否定して、それでも答えらしきものは何もない。小説は答えを提示するものではなく、考え続けることを示す表現方法だと思う。無茶なことを言ってしまえば、表題作の「ポロポロ」に出てくる異言「ポロポロ」は、自らの生活を物語にしないためのいちばん誠実な実践なのかもしれない。言葉には常に物語化しようとする強い圧力が潜んでいるのだから。

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2020/04/10

ただ、ポロポロ。言葉でも祈りでも願いでも宗教体験でもなく、身につくものでもなく、ご利益のあるものでもない。ぽっかりと空いた底の見えない穴のような観念をポロポロの中に垣間見た。

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2019/12/03

癒やされるものを感じた。とはいえ、口当たりの良い文章が書き連ねられているわけではない。もちろんコミさんだから奇を衒った表現でこちらを驚かせるわけではないが、言い淀みがあり、すんなりと真っ直ぐストーリーを進めないぎこちなさが存在するのだ。そのぎこちなさはしかし、語義が矛盾してしまう...

癒やされるものを感じた。とはいえ、口当たりの良い文章が書き連ねられているわけではない。もちろんコミさんだから奇を衒った表現でこちらを驚かせるわけではないが、言い淀みがあり、すんなりと真っ直ぐストーリーを進めないぎこちなさが存在するのだ。そのぎこちなさはしかし、語義が矛盾してしまうがとても心地良い。それはそのまま、すんなり「物語」を(なんなら小説を)語ってしまってたまるかというコミさんの几帳面さや誠実さの表れであるだろう。ここまで誠実に語ろうとする姿勢は、時代を超えて人の胸を打つ。スケールがでかくない問題作

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2018/05/01

田中小実昌 「 ポロポロ 」戦中記。武士道と無関係な生き方。食糧事情と衛生状態の悪さから 生きるのに 精一杯。便のことばかり。 ポロポロの意味が難しい。ネガティブ要素、神秘要素は含まれていないようだが、言葉に出来ない何かを意味 *霊体験 *異質の中にある さらなる異質を暗喩=生...

田中小実昌 「 ポロポロ 」戦中記。武士道と無関係な生き方。食糧事情と衛生状態の悪さから 生きるのに 精一杯。便のことばかり。 ポロポロの意味が難しい。ネガティブ要素、神秘要素は含まれていないようだが、言葉に出来ない何かを意味 *霊体験 *異質の中にある さらなる異質を暗喩=生きにくい社会を示唆 *誰にでもあるものが僕には欠けている 兵隊にいくときは 誰でも死ぬことを考えることが 僕にはなかった

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2018/06/05

今月の猫町課題図書。昭和19年、太平洋戦争の終末期に入営し、中国で終戦を迎えた著者の回想記。ではあるのだが、著者はかたくなに「物語」を拒絶する。前半におさめられている『岩塩の袋』、『魚撃ち』あたりは「地獄のような経験を冷徹な筆致で描写」といった感じの文章なのだが、後半の『寝台の穴...

今月の猫町課題図書。昭和19年、太平洋戦争の終末期に入営し、中国で終戦を迎えた著者の回想記。ではあるのだが、著者はかたくなに「物語」を拒絶する。前半におさめられている『岩塩の袋』、『魚撃ち』あたりは「地獄のような経験を冷徹な筆致で描写」といった感じの文章なのだが、後半の『寝台の穴』、『大尾のこと』では、戦争やその記憶を「物語」にしてはいけないとでも言うのか、明示的に物語化を拒否する記述が表われる。そしてあらためて冒頭の『北川はぼくに』を読み返すと、あれは北川が自分の壮絶な経験を物語にしてしまいたかったのではないかと思い至るのだ。表題作『ポロポロ』のみは他の掲載作品と異なり銃後における実家の様子を描いていて、これはこれで面白いのだが、連作集としてみるとやや蛇足な気もする。

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2018/04/18

五月の読書会課題本。短編私小説集である。表題作は牧師をされていた父親の思い出がメインであり、それ以降は太平洋戦争末期の中国における著者の従軍体験がメインとなっている。生と死が背中合わせのシビアな状況でありながら、それを飄々とした独特の雰囲気の文章で語られているので、よくある戦争体...

五月の読書会課題本。短編私小説集である。表題作は牧師をされていた父親の思い出がメインであり、それ以降は太平洋戦争末期の中国における著者の従軍体験がメインとなっている。生と死が背中合わせのシビアな状況でありながら、それを飄々とした独特の雰囲気の文章で語られているので、よくある戦争体験記にあるような嫌味な感じがなく、想像していたよりも楽しく読めた。

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2018/01/04

 初めて読む田中小実昌。  初めて読んで途端に惚れてしまった。  この「ポロポロ」は7編からなる短編集なのだが、自伝的回想録になっている。  最初の一編で表題作の「ポロポロ」は、独立教会の牧師だった父親との回想になっているが、残りの6編は第二次世界大戦時に召集され、中国に渡...

 初めて読む田中小実昌。  初めて読んで途端に惚れてしまった。  この「ポロポロ」は7編からなる短編集なのだが、自伝的回想録になっている。  最初の一編で表題作の「ポロポロ」は、独立教会の牧師だった父親との回想になっているが、残りの6編は第二次世界大戦時に召集され、中国に渡り、やがて終戦を迎え1年程経過するまで、が描かれている。  独特の語り口のせいか、戦争中の描写などにあまり悲惨な印象を受けることはない。  悲惨な印象を受けることはないが、それでも読んでいると物凄い状況だったことが判る。  それにしても、ほんとうに独特な語り口であり、とても素敵な日本語の使い方をする。  決して正確な日本語ではないだろうし、国語の先生などからすれば間違いだらけの日本語なのだろうが、ほんとうにグイグイと心に入ってくる。  特に自分の葛藤を表現する時など、たどたどしく、そしてくどいまでの繰り返しがあるのだが、それらが見事なまでに心にしっかりと入ってくる言葉たちであり、文章なのだ。  いや、グイグイと入ってくる、というよりはグイグイと引きずられていく、といったほうが正確かもしれない。  それがこの人の言葉であり、この人の思考なのだろう。  彼がとことん「物語」を否定していた理由も読んでいるうちに痛いほどにわかってくるような気になる。  他の作品もぜひ読んでみようと思う。

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2017/01/07

物語にすまいというのは随所に感じられるのですが、なぜそこまでストイックにそうするのかが少し分からないまま読み進めました。 その点が、最後に収められている『大尾のこと』で、少し分かったような気がします。こういうふうに書かなければ、作者が見て、知って、感じた大尾のことは書けないという...

物語にすまいというのは随所に感じられるのですが、なぜそこまでストイックにそうするのかが少し分からないまま読み進めました。 その点が、最後に収められている『大尾のこと』で、少し分かったような気がします。こういうふうに書かなければ、作者が見て、知って、感じた大尾のことは書けないということ。 これ、場合によっては自分を縛りかねないほど、すごく難しいことだと思うのですが、そうまでして田中小実昌が「書いた」のはどうしてなのかなと思いました。

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2016/04/13

田中小実昌の、 冷めているのか熱しているのか分からない視点 遠いのか近いのか分からない距離 乾いているのか湿っているのか分からない熱量 そんな、あやふやなのに、はっきりとした文体は、ちょっと特異であり、魅力的です。 行軍中の戦争物はさておき、なによりも表題作の「ぽろぽろ」が素晴...

田中小実昌の、 冷めているのか熱しているのか分からない視点 遠いのか近いのか分からない距離 乾いているのか湿っているのか分からない熱量 そんな、あやふやなのに、はっきりとした文体は、ちょっと特異であり、魅力的です。 行軍中の戦争物はさておき、なによりも表題作の「ぽろぽろ」が素晴らしい。 宗教の不確実さと、不確実さに頼ることの頼りなさと、頼りなさをを見上げる子供の目線と、そのまなざしを伝える乾いた文体。そして、何があっても、ただ、ポロポロ。 くりかえすけど、父にとっては、死んだおじいさんが、記念日の日にやって来たとしてもポロポロ、ちがう人だとしてもポロポロ、だた、ポロポロなのだ。

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2011/12/07
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 田中小実昌ってブコウスキー系なんだ(大きく言えば、だけど)。読んでみてそう感じた。  『ポロポロ』『香具師の旅』、どっちがおもしろかったか決められない。  話の内容、つまり物語という点では『香具師の旅』の方がおもしろい(と私は思う)。  『ポロポロ』は最初の『ポロポロ』以外は戦争に言った時の話。物語としては戦争体験記。  だけど、ただの戦争体験記ではなく作者の視点が独特で、文調も独特で、好きな人は好きだし、こういうのこそ文學だ!という人もいると思う。  私はそういうのとは別で、後半の、<物語>というものについての持論はすごくおもしろいと思った。文章が<物語>にならないように、と意識して書いている。あるものをあるがままに、出来事を出来事として、<物語>にはしたくないんだと言いながら物語を書いている。そういう矛盾撞着的なところが興味深かった。

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