わたしの名は「紅」 の商品レビュー
16世紀末、オスマン・トルコ帝国の、スルタンの細密画工房に使える絵師たちを描くこの小説は、それ自体まさに細密画のような、絢爛で奥行き豊かな歴史ミステリーだ。 目次を眺めるだけで、もうわくわくしてくる。”優美さん”、”蝶”、”オリーヴ”、”コウノトリ”と呼ばれる絵師たち、彼らの忠誠...
16世紀末、オスマン・トルコ帝国の、スルタンの細密画工房に使える絵師たちを描くこの小説は、それ自体まさに細密画のような、絢爛で奥行き豊かな歴史ミステリーだ。 目次を眺めるだけで、もうわくわくしてくる。”優美さん”、”蝶”、”オリーヴ”、”コウノトリ”と呼ばれる絵師たち、彼らの忠誠を要求する名人オスマンと、ヨーロッパ絵画へ誘うエニシテという対象的な「父親」たち、「探偵」を演じるカラと、彼を翻弄する美女シェキュレ、狂言回しエステル、さらには、犬や木や馬、悪魔など、絵に登場するさまざまなものたちまで、多様な声たちが重層的に物語を織り成していく。 殺人事件と油断のならない恋をめぐるエンターテイメントであると同時に、人間を中心に置くヨーロッパのスタイルに脅威をおぼえつつ惹かれる絵師たちそれぞれの語りを通じて、世界を表現する芸術の営みとは何か、美のために生涯をささげる献身と、それにつりあわない評価について、異なる思索がはりめぐらされる。優れた絵を眺める眼が感じる喜びのように、物語をたどる愉しさを心ゆくまで味わうことのできる贅沢な小説だ。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ノーベル文学賞を取ったオルハン・パムクの作品。ペルシャの細密画家の世界を舞台にしている。 「優美」さんと呼ばれる細密画家が殺され、その犯人を探すというのがメインのストーリーだが、ミステリーと呼ぶよりも芸術小説といった方がいいだろう。遠近法など、写実的な画法に富む西洋画の影響が細密画にもしのびよってきており、それとの軋轢や、細密画家のあるべき姿などが、多くの登場人物によって語られる。 その一つの核になるのが画家たちを統括する「エニシテ」と呼ばれる人物。その娘で軍人に嫁いだものの夫が戦争から帰ってこないシェキュレと、12年前にシェキュレに求婚するものの、振られてしまったカラとの恋愛も重要なサブストーリーとなっている。 非常に面白いが、細密画を知らないので、それがわかれば数倍楽しめると思う。
Posted by
毎日こつこつ読んで、やっと読了。おもしろいんだけど、長かった。物語の世界や語り方に慣れるまでに少々時間がかかる。そしてもう少し、トルコの歴史の知識が必要だったかも。最後まで、犯人探しには引きつけられるが、ストーリーとはほとんど関係のない、「わたしの名は”死”」とか「わたしは悪魔」...
毎日こつこつ読んで、やっと読了。おもしろいんだけど、長かった。物語の世界や語り方に慣れるまでに少々時間がかかる。そしてもう少し、トルコの歴史の知識が必要だったかも。最後まで、犯人探しには引きつけられるが、ストーリーとはほとんど関係のない、「わたしの名は”死”」とか「わたしは悪魔」などの章が特におもしろいと思った。イスタンブールへ行きたくなりました。
Posted by
ようやっと読めた・・・いったん返却して、読書会までにまた借りれるかな。 良心の呵責に悩む1週間になりそうだ
Posted by
斜陽にさしかかったオスマン帝国を舞台にした作品。 トルコ旅行前に読もうとしたけど読み終わらず、でもイスタンブールの地図を眺めていたおかげで作中の土地や位置関係が理解できて更に楽しめた。 その物語の手法や、主人公たち細密画師たちの思考や生活そして知識など、どれだけの調査や構想をし...
斜陽にさしかかったオスマン帝国を舞台にした作品。 トルコ旅行前に読もうとしたけど読み終わらず、でもイスタンブールの地図を眺めていたおかげで作中の土地や位置関係が理解できて更に楽しめた。 その物語の手法や、主人公たち細密画師たちの思考や生活そして知識など、どれだけの調査や構想をしたのかというくらい重厚。 歴史小説、中世恋物語、殺人ミステリーなどなど、内容の要素は盛りだくさんで、それら全部を通して細密画師という「生物」の生態(生き方?)を見た、という感じがした。 読み終わった後は仔細に細密画を鑑賞したくなる。 ただ、原文がそうなのか翻訳のせいなのか、文章がとっつきにくくて慣れるまでくじけそうになる。
Posted by
章の組み立てや話者の設定などいろいろとたいへん凝ってて、手法もミステリー仕立てでひきつけるようにしてて、でもそれが消化不良にならないところで読者に「いい仕事だなぁ」思ってもらえる、稀にみる傑作だとおもいます。 トルコとかエキゾチズムに興味があるなしは関係なく、高級な「物語」が好き...
章の組み立てや話者の設定などいろいろとたいへん凝ってて、手法もミステリー仕立てでひきつけるようにしてて、でもそれが消化不良にならないところで読者に「いい仕事だなぁ」思ってもらえる、稀にみる傑作だとおもいます。 トルコとかエキゾチズムに興味があるなしは関係なく、高級な「物語」が好きならどうぞ。
Posted by
中世オスマントルコ帝国のミステリー。トルコがマイブームなので惹かれて読み始めたものの・・・・・。 文章が長くて読みづらい!難しい単語も混じってるし。 短編の連作みたいな作り方で、劇団ひとりの陰日向に咲くを思い出しました。
Posted by
16世紀のトルコを舞台に、細密画師の間で起こる殺人事件を描いた作品。 構成は凝っていて、全く知らない世界のあでやかなモチーフは目がくらむばかり。 ノーベル文学賞受賞したんでしたっけ?
Posted by
トルコのノーベル文学賞受賞作家、オルハン・パムクの初邦訳小説。 オスマン・トルコにもイスラームにも細密画にも馴染みはなかったのだけれど、自分の知らない世界について描かれた小説を読むのは、いつもわくわくする。 読者である私たちに向けて、主要な登場人物たちが語りかける形で物語は進んで...
トルコのノーベル文学賞受賞作家、オルハン・パムクの初邦訳小説。 オスマン・トルコにもイスラームにも細密画にも馴染みはなかったのだけれど、自分の知らない世界について描かれた小説を読むのは、いつもわくわくする。 読者である私たちに向けて、主要な登場人物たちが語りかける形で物語は進んでいく。語り口そのものは平易なのだけれど、作中で展開される芸術論、文化論、細密画の歴史的変遷等々、その濃密さは時として息苦しくなるほど。ところどころに挿まれる、コーヒーハウスの咄し家が犬、木、金貨、死、悪魔などに成り代わって語る章が、その諧謔味のある語り口と、当時台頭してきた原理主義のホジャ(師)に対する痛烈な揶揄とで、その息苦しさをふっと軽くしてくれるような、効果的なアクセントになっていたように思う。 この咄し家がとりあげた題材が、エニシテが秘密裡に描かせていた絵と一致していること、内部事情に通じた者にしか知り得ないような内容が語られていることに、おやっと思わされるのだが、小説終盤でその謎も明かされ、なるほどと納得。 細密画師たちがスルタン付きの工房の職人であり、時の権力争いに翻弄され続けたこと、閉ざされた職人世界における師弟関係・弟子同志の特殊な関係性なども印象深かったけれど、エニシテが語る、西洋的手法で描かれた肖像画を初めて眼にした時の驚愕や憧憬、スルタンに献上された写本や絵、そして細密画師の辿る運命に対する絶望ぶりが一番胸に迫った。 ――Benim Adim Kirmizi by Orhan Pamuk
Posted by