柔かい月 の商品レビュー
個人的にはカルヴィー…
個人的にはカルヴィーノの作品の中で一番好きな作品です。語り部Qfwfg氏が、あるときは地球の起源の目撃者、あるときは生物の進化過程の生殖細胞となって、宇宙史と生命史の奇想天外な物語を繰り広げるます。カルヴィーノの『レ・コスミコミケ』と一緒に読まれることをお薦めします。
文庫OFF
20世紀イタリアの小説家イタロ・カルヴィーノ(1923-1985)による短篇集で『レ・コスミコミケ』の続編、1967年。前作のようなナンセンスで知的な可笑しみのある物語といった趣ではなく、前作以上に科学的な概念や論理的な分析を駆使した実験的な作品。 文学とは、言語表現の限界を超...
20世紀イタリアの小説家イタロ・カルヴィーノ(1923-1985)による短篇集で『レ・コスミコミケ』の続編、1967年。前作のようなナンセンスで知的な可笑しみのある物語といった趣ではなく、前作以上に科学的な概念や論理的な分析を駆使した実験的な作品。 文学とは、言語表現の限界を超え出ようとすること。言語表現の限界を超え出ようとすることで、意識と世界の限界も更新されて、以てそこに別様の可能性を現出させること。それが何であるかもわからないまま。実際にどんな様態であるかだとか、どんな意味があるかだとか、どんな効用があるかだとか、そういったことを先回りして取り沙汰することなく。ただそれが現実と別様であるというだけで。 「文学の闘争は、まさにことばの境界の外に出るための努力だ。文学が身を乗り出すのは表現できるものの極限からであり、文学を動かすのは語彙に外にあるものの呼び声だ。」(p227文庫版解説、「サイバネティクスと幻影」と題された講演記録からの引用) 「ちがいはないんだ! 怪物も怪物でないものもずっとたがいに隣りあっていたのだ! いままで存在しなかったものはずっと絶えず……」(p40「鳥の起源」) □ 「ミトシス(間接核分裂)」 自己への意識、自己の外部への欲求、他者の発見、自己が世界の複数性の一部であるという自覚、恋の衝動などを、細胞分裂の過程に準えて語られる。ヘーゲル『精神現象学』における意識の展開過程の記述のよう。 「ある位置である瞬間に私が占有しており、そして他の瞬間に他の位置において、一連の他の瞬間と位置とにおいて、私が占有するであろう空なるものとして私に映っていた外部が存在していた、要するにそれは私がまだそこに存在はしていないが私の存在が潜在的に投影されたものであり、したがってその空なるものは世界であり未来なのであったが、私はまだそれを認識していなかったということである、〔略〕、しかし、私は私の外には私ならざるこの空なるものが存在し、それがもしかすると私になるかもしれないという満足感は抱いていた、〔略〕、とにかくそれは私になりうるかも知れぬ空なるものであるがその瞬間にはまだ私でなく、そして結局は決して私になることはないであろうものなのであった、それはまだなにかではないがとにかく私ではない何か他のもの、と言おうかその瞬間その位置における私ではないもの、したがって他のものの発見であった、そしてその発見は心楽しい、いや、心を引き裂くような興奮を、めまいのするような苦しみを、すべてが可能な、すべての他の位置、他の時、他の方法が可能な空に対する、私にとってすべてであったあのすべてを補充する空に対するめくるめきを、私にもたらしたのである、そしてこの沈黙し空なる他の位置、他の時、他のふうなるものに対する愛が私を満たしたのである。」(p88-89) 「ティ・ゼロ」「追跡」「夜の運転手」 時空間のある一点における状況を、論理的分析によって過剰に細分化していくことで、別スケールの世界を現出させる。ニコルソン・ベイカー『中二階』(1988年)の先駆けのよう。
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2008年10月16日~21日。 「見えない都市」よりもずっととっつきやすかった。 それでも途中、辛い箇所もあった。 「柔らかい月」と「追跡」はスバ抜けて面白かった。
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妄想している人の頭の中をそのまま覗き見てしまったような、なんとも不思議な短編集。表題作、かなり夢中で読みました!しかし、さらに深〜い妄想が続くので、読み終わるにはかなりの忍耐力が必要です(苦笑)
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『レ・コスミコミケ』の続編とも言われるカルヴィーノ 1967年の作品。コスミコミケでは宇宙創成から地球造成、生物誕生を客観した Qfwfq 氏が引き続き地球の歴史を語る第一部、DNA とその分裂、有性生殖を語る第二部、そして想像が時空を越えていく第三部からなる。「小説」の対象が宇...
『レ・コスミコミケ』の続編とも言われるカルヴィーノ 1967年の作品。コスミコミケでは宇宙創成から地球造成、生物誕生を客観した Qfwfq 氏が引き続き地球の歴史を語る第一部、DNA とその分裂、有性生殖を語る第二部、そして想像が時空を越えていく第三部からなる。「小説」の対象が宇宙物理学から分子生物学へ、そして再び超紐理論を思わせる宇宙物理へと飛躍する様は圧巻を通り越して茫然の一言。しかし、訳の問題か、コスミコミケの魅力の一つであった Qfwfq 氏のユニークな語り口調は失なわれている。
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きっと、このような文学/小説のかたちをとる必要がない。不毛で、「見えない都市」を書いた作家には思えない。初期の模索の熱量だけが唯一の救い。
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まさかのQfwfqは語るパート2。しかし前作『レ・コスミコスケ』とは違い彼の名前が登場するのは第二部の頭まで。細胞分裂を愛の歴史として語るこの章も興味深いが、やはり本懐は原題にもなっている第三部「ティ・ゼロ」だろう。ここではどの話もある瞬間を捕え、その一点において語り得るもの全て...
まさかのQfwfqは語るパート2。しかし前作『レ・コスミコスケ』とは違い彼の名前が登場するのは第二部の頭まで。細胞分裂を愛の歴史として語るこの章も興味深いが、やはり本懐は原題にもなっている第三部「ティ・ゼロ」だろう。ここではどの話もある瞬間を捕え、その一点において語り得るもの全てを語りきろうとする偏執病的な語りが展開されていき、それはデュマの名作を換骨奪胎した最後に書かれ得るものそのものへの語りへと到達する。読み進める程に深く、より複雑な迷路に分け入ってる様な感覚がたまらない。でもそれは確かに前進なのだ。
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図書館から借りました SF。短編集。 表題は4部作の一つ。「クフウフク氏」という語り部が「月」が地球に来た日を語る。 柔らかい月が固い地球にやってくる。 気持ちのいい柔らかさではなく、月は緑色の腫瘍のようなぶよぶよ。 その脂肪質のような、葉緑素な柔らかいものが地...
図書館から借りました SF。短編集。 表題は4部作の一つ。「クフウフク氏」という語り部が「月」が地球に来た日を語る。 柔らかい月が固い地球にやってくる。 気持ちのいい柔らかさではなく、月は緑色の腫瘍のようなぶよぶよ。 その脂肪質のような、葉緑素な柔らかいものが地球に降り注ぎ、地球の固いものは月に奪われてしまう。 「結晶」は地球がゆっくりと冷え固まった世界へのあこがれと妄想。 純度の高い結晶が生えていく世界が美しい。 後半のは現代ものっぽいのだが。 まるで、数学や理科の例題のような話で。 くるぞくるぞ、と思ったらきた。 「夜の運転」 彼女のもとへ車で向かう私。(ベクトルは→ 彼女に呼び出された恋敵。 (ベクトルは→ 喧嘩を悔いて私のもとへ向かう彼女。(ベクトルは← 高速道路上ですれ違う、追い抜かれる、引き返す。 等々の思考実験なのだよ、この話は。 ひたすらに理屈っぽい。 読みやすいのは「クフウフク氏」の四部。他は眠くなります。まるで授業のよう。
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2010年立秋、しかしあまりに暑くて月もとろけそう、という連想で、今宵はこれを。連作短編集。科学的な言葉によって綴られる、寓話?幻想?こういう世界も好きです。
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途中で挫折したくせに、不意にカルヴィーノ独特の語り口や世界観が恋しくなって手に取った。 苦戦した前回と違って、今度はすんなりと心地良く読めた。そして、いい本だとも思えた。どうしてだろう。 いくつもの短編から成るこの本はどんな話なのかを伝えるのが難しい。 第一部、第二部、...
途中で挫折したくせに、不意にカルヴィーノ独特の語り口や世界観が恋しくなって手に取った。 苦戦した前回と違って、今度はすんなりと心地良く読めた。そして、いい本だとも思えた。どうしてだろう。 いくつもの短編から成るこの本はどんな話なのかを伝えるのが難しい。 第一部、第二部、第三部、と分けられ、すべてQfwfq氏が物語を語る構成ではあるがそれぞれテーマは異なる。 第三部の「ティ・ゼロ」「追跡」「夜の運転者」は空間と時間と存在について書かれていて、私もよく考えることだったのでとても読みやすかった。 たぶん一般的にも第三部が最も分かりやすいんじゃないかと思う。最初は第一部と第二部に苦戦したのだが、二回目ともなるとずぶりとカルヴィーノの世界に入ってしまえばいいのだということが分かっているから、何も考えずにその不思議な世界を楽しむことができた。こういう気分にさせてくれる本はなかなかない。カルヴィーノが「小説の魔術師」と呼ばれるのがわかる。カルヴィーノの世界の捉え方というのは、好きな人にはたまらないと思う。
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