イワン・イリッチの死 の商品レビュー
イワン・イリッチは俗物の象徴ではあるのだけど、少なくとも他者からみれば成功した人物だろう。裁判官なのだから。むしろそのことが読者に死をめぐる葛藤の苦しみを与える。これだけ上手く社会的に立ち回り、上り詰め、表面的にせよ楽しく生きたイワンでさえこうなのだ。では私はどうなのだろうかと...
イワン・イリッチは俗物の象徴ではあるのだけど、少なくとも他者からみれば成功した人物だろう。裁判官なのだから。むしろそのことが読者に死をめぐる葛藤の苦しみを与える。これだけ上手く社会的に立ち回り、上り詰め、表面的にせよ楽しく生きたイワンでさえこうなのだ。では私はどうなのだろうかと。そのことは読み終わってから冒頭に戻るとよく分かる。イワンの妻や友人の残酷なまでの無関心さは、読む前のわたしの姿でもある。しかし読み手はしだいにイワンの不安に惹きこまれてゆく。ここがすごい。 イワンが「自分を理解してくれる」と思えたのは、献身的に自分に接してくれる田舎者ゲラーシムと、自分そっくりの目を持った息子ワーシャだけだった。とくにゲラーシムは社会階層的には友人でもなんでもない。イワン自身も権衡であったなら彼を鼻にもかけなかっただろう。だが病に臥したイワンは彼に心を開く。こうしたことからも、人生にとって本当に大切なものはなにか、ということをつくづく考えさせられる。もちろん彼自身の思想の変化こそがもっとも読み応えのあるところだけれど。 これはさまざまな論点、感想が出ると思われるので、読書会などで語り合いたい一冊だ。
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生きることの意味を考えさせられる書だ。 人は生きるうえで指針というものがなければ、生きることはできない。 だがしかし、その指針というものが知らずのうちに多くの人がもつ指針を自分ももってしまっているということが、 人生においてはどれだけ辛辣なことか。 ある一人の人間の死にゆく姿でみ...
生きることの意味を考えさせられる書だ。 人は生きるうえで指針というものがなければ、生きることはできない。 だがしかし、その指針というものが知らずのうちに多くの人がもつ指針を自分ももってしまっているということが、 人生においてはどれだけ辛辣なことか。 ある一人の人間の死にゆく姿でみることができる。
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死に対して、何の小細工も弄せず、愚直にまっすぐ向き合った作品だと思う。いろんな形で、いろんな方向から死にアプローチすることだってできるはずが、真っ正面から対象を見据え、無駄なものを一切排除して描き切ったところが、トルストイらしい。イワンの死に対する価値観の変容が、身体の容態とリン...
死に対して、何の小細工も弄せず、愚直にまっすぐ向き合った作品だと思う。いろんな形で、いろんな方向から死にアプローチすることだってできるはずが、真っ正面から対象を見据え、無駄なものを一切排除して描き切ったところが、トルストイらしい。イワンの死に対する価値観の変容が、身体の容態とリンクしている様が、本当に真に迫っている。理解しきることはないが、それでも分かる分かるとうなづいてしまうようなリアリティがある。聖人君子でもなければ、イワンと同じ心境に陥ることはあるだろう。どうでもいいけど、トルストイと言えばイワンだな…。
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諸行無常。と一言で言ってしまうことを小説にした感じ。一見、順調に見える人生を歩んできた表題人物の死と生涯。苦しみはどこから来るのか、救いはあるのか幸せはどこに存在するのかそんなことを考えさせられる作品だった。
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ここにはトルストイの幾つものメッセージが込められています。まず自分が他人にした事はいずれ形を変えて自分にも返って来るという事。 凡人が陥り勝ちな自分の欲望を最優先に追い続ける生き方をするといつか後悔する時がくるということ。人間はどんな状況でも生きている限り他人の為に出来ることがあ...
ここにはトルストイの幾つものメッセージが込められています。まず自分が他人にした事はいずれ形を変えて自分にも返って来るという事。 凡人が陥り勝ちな自分の欲望を最優先に追い続ける生き方をするといつか後悔する時がくるということ。人間はどんな状況でも生きている限り他人の為に出来ることがあるということ。死にたくないという本来の生存への執着ですら持つ事が本当ではないということ。自分の生活が法にかなって作法に外れてさえいなければ正しいわけではない。 イワンはそれに気付くために病気になって苦しむ必要があったのだと思う。ただ生きるのではなくどう生きるかが大事なんだと思いました。 素晴らしいです。何度も読み返してさらに深く気付いたらまた追記します。
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死について、というより今自分の生について考えさせられた 全盛期まで器用に生きてきたイワンイリッチなわけだが、その器用さが故に後々死に近づいていってる時に苦しめられ、結局良き思い出は幼少期くらいしか出てこない 見栄や虚心で生きれば、それなりにあとから苦しみがやってくる
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昔も読んだ。 人間の愚かさというか、滑稽さに笑ってしまう場面もあった。 しかし、イワン・イリッチの死に際する苦しみには、笑えなかった。 死とは孤独なものだろう。 そして、イワン・イリッチの死は決して特殊なものではないだろう。 また、読み返そうと思う。
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目をそらしたくなるほど生々しい恐怖だったが、私にもいずれおとずれると思って読み切った。もう死はなくなったのだ、という言葉が頭に残った。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ある男の死への道程を描く。トルストイ好きな人ならいいのかも 印象的なのは、一番最後の「もう死はなくなったのだ。」というところ。 ブギ―ポップシリーズだったかで、「生物は生というエネルギーを使って生きているのではなく、死というエネルギーを使って生きているのだ」という考え方に似ていると思った。
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