不可触民と現代インド の商品レビュー
正直、インドほどよく判らない国はそうそう無い。学生時代は世界史を専攻していたので、インド史は覚えづらい人命やら王朝がわんさか出てきて苦労したのをよく覚えている。漠然と記憶しているインドとはヒンドゥー教の国である事、それによるカースト制度が存在する事、長らくイギリスの植民地支配下に...
正直、インドほどよく判らない国はそうそう無い。学生時代は世界史を専攻していたので、インド史は覚えづらい人命やら王朝がわんさか出てきて苦労したのをよく覚えている。漠然と記憶しているインドとはヒンドゥー教の国である事、それによるカースト制度が存在する事、長らくイギリスの植民地支配下にあり東インド会社を中心に世界の貿易拠点となっていた?事ぐらい。人命ならマハトマ・ガンディー、初代首相のネール(ネルー)、チャンドラ・ボースにパール判事あたりだろうか。私はインドカレー好きだから周りにインド人も沢山いるが、彼らの国がどんなものか気にした事も無かった。近年は著名なIT企業(グローバル)の社長や役員に必ずインド人が含まれており、流石数学の得意な国だ、と漠然と感じる程度。 本書はインドに暮らし学んだ筆者が記す、生のインドの声を集めたものだ。前述の通り厳しいカースト制度は未だインド国民の心を支配し、社会・政治・経済はカーストの厳しい身分制度の影響を強く受ける。バラモン(ブラーミン:僧侶)、クシャトリヤ(戦士・軍人)、ヴァイシャ(商人)に属する上位カーストは国民全体の15%足らず、彼らへの奉仕者であるシュードラ(奉仕者)が60%、それらカースト4姓制度よりも更に下位に位置する下位カースト・指定カーストと呼ばれる「不可触民」が25%と、下位層は85%を占める社会構造だ。海外から見たインドはヒンドゥー教の国であるが、それは身分制を維持したい上位カーストが何とか支えているものであり、実態は身分制の下位に甘んじ、就きたい職業にも就く機会さえない国民はそうした身分制を心から支持する事はない。然し乍ら、アーリヤ人が押し寄せた時代から侵略者達によって作られた(遺伝子調査で上位カーストはヨーロッパ系)身分制度は何千年と人々の心を支配したし、植民地化したイギリスにとっても、社会秩序維持のために好都合な制度だった。そうしてインド人の心の中に深く根差した身分に対する考え方がそう簡単に無くなる事はない。そうした考え方を制度面からも改善しようとしたのが、本書の中心的な存在となるアンベードカルである。不可触民出身でありながら様々な学問を修め政治の世界に身を投じた人物で、あのガンディーとも闘っている。ガンディーはインド独立の父ではあるが、それはヒンドゥー教上位階層が作り出したインドに都合の良い人物像とし、不可触民やシュードラなどの下位層を含まないインドの父であるとする。そうすると、下位カーストが85%を占めるインド人の大半はヒンドゥーの教えに則り自由が存在しない。アンベードカルはこうしたインドの現状を訴えガンディーとも対立するのである。 アンベードカルはひたすらに身分制度撤廃に向けて活動を続けるし、初代法務大臣として下位カーストの社会進出促進のために様々な法を整備する。これにより学問さえ積めば公務員になる道も一定程度保障されるようになった。また身分制を根底とするヒンドゥー教を捨て仏教に改宗するとともに、その後のインド内における仏教回帰への力強い支えになる。その後日本人の佐々井秀嶺へと引き継がれ、インドの仏教復興へと繋がっていく、本書はこれをブッダのインドに始まり、中国・日本を経て再びインドに戻る回帰と表現している。 それら社会的な風潮の根底にあるのは、人は誰でも自由平等であり身分による差別を受けない、という先進国の憲法に必ず含まれる当たり前の権利だ。インドという国が不思議に映る理由の一つがそれなのだが、女性に対する権利の低さは身分制に更に輪をかける。社会においても家庭内においても女性の立場は更に虐げられており、政界・経済界のリーダーも少ない。本書後半はそんな中で台頭した初の女性州知事マヤワティーにも触れる。女性の社会進出が身分制を超える以上に如何に大変で困難を伴う事か、そして改革するには極端にでもルールを変えていく強い信念が必要である事が伝わってくる。因みに本書中盤では、一時期書籍で話題になった女盗賊プーラン・デヴィを始めとした地方の盗賊にも触れており、インド社会の複雑さを理解する助けになっている。 本書を読みインドへの理解を深めると共に、何も知らずインドへの投資を考えてしまった自分を恥じてしまった。
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この本が出版されたのが2003年。 16年とちょっと経った今、SDGsという国際目標が広まる中でインドはどう変わったのか読み終えた今は気になってます。
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インドカースト問題における日本人第一人者の山際素男の「不可触民」続編。ショッキングな現状よりも、現代インドの、目覚めた不可触民たちがいかにしてその歴史文化的ジレンマと戦い進んでいるかのレポート。 これを読んで正直自身の理解の足りなさ、関心の低さに失望する思いだった。アンベード...
インドカースト問題における日本人第一人者の山際素男の「不可触民」続編。ショッキングな現状よりも、現代インドの、目覚めた不可触民たちがいかにしてその歴史文化的ジレンマと戦い進んでいるかのレポート。 これを読んで正直自身の理解の足りなさ、関心の低さに失望する思いだった。アンベードカルを全く知らなかったし、聖人ガンジーとは何者であるかと再考せざるを得なくなった。歴史と宗教、そして人の生命に対して思いを巡らす時間になった。 17/2/27
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日本人には理解できないインドのカースト制度。不可触民とはなんなのか、なぜヒンドゥー教なのか、踏み込んでいく。 バラモンが独占したもの、それは富や権力よりも「知」である。人がなぜ「知」を求めなければいけないか。インドから学べる。 _____ p19 権力者は己の正体を暴かれるのが怖い 真実が暴かれれば支配者はその存在が危ぶまれる。ヒンドゥー教のバラモン階級はまさにそれだ。 異民族が支配に利用した宗教がヒンドゥー教であることを明るみに出せないのだ。 p19 ビームラート=アンベードカル バラモンの正体を見破り、公然と彼かの権威と偽善性に挑戦した不可触民の指導者。 こんな人知らなかった。ガンジー・ネルーと並ぶインドの偉人である。 p44 浄・不浄 ヒンドゥー教は「浄・不浄」の観念で、人間だけでなく自然やすべてを差別する宗教である。 p45 インドのトイレ インドのトイレは便器でない。外で排泄用のツボに用を足す。都心の外国人のいるような土地では水洗設備もあるが、田舎ではトイレがないのがふつうである。 この糞壺を回収するのが不可触民である。 p57 ヒンドゥー教VSイスラム教 東パキスタンでは元来宗教対立はなかった。しかし、イギリスからの独立後の分断で宗教対立が意図的に起こされ、大虐殺や原爆所持にまで至る対立になってしまった。 p63 政府の嘘 インドの人口85%がヒンドゥー教であるという政府発表があるが、それは支配階級が自分たちの特権が脅かされないように発表しているプロパガンダであり、仏教・イスラム教・キリスト教に改宗する者が増えている。2,30年もすればヒンドゥー教はマイノリティになるかもしれない。 p66 イギリス人の罪 インドにカースト意識を甦らせたのはむしろイギリス人だった。イギリス人が導入した郵便制度が村落の各人の姓名を明らかにし、人々のカースト意識を意識させるようになった。 p69 ガンジーとヒンドゥー教 ガンジーはインドの独立はカースト制度の中で行われるべきと考えた。カーストはインドの自然な状態であり、それが人々に生きる意味を絶えず与え、幸せをもたらす。と考えていた。 ちなみにガンジーはヴァイシャ(商人)階級出身である。ガンジーはヒンドゥー教支配階級の絶大な支持を受けたし、ガンジーが独立の父として強烈な存在になるようになった。 後年カースト制度に反対するようになった。 p87 先住民 不可触民は自分たちのことをダリットと呼ぶ。彼らはアーリア人がインドに侵入してくる以前から住んでいた先住民である。 ブラーミンの広めたヒンドゥー教以前は、ダリットは仏教かジャイナ教だった。 カーストはバラモンたちが作ったもので、不可触民たちから知識や知的能力を奪い取り、正しい判断力や価値観を根絶やしにした。バラモン階級は知識を独占した。 知識を独占されると、こういう格差社会が出来上がるのだ。だから、教育はすべての人間に与えられなければいけない。 p104 侵略 アーリヤ人は鉄製武器と騎馬を用いて一気にインドを侵略した。アーリア人が徐々に移動してきて土着したという研究もあるが、政治的圧力の気配がしてならない。 完全にヨーロッパ系のアーリア人は侵略者で、その支配と差別政策がいまだにインドでは残っているのである。 p109 悟の不要 ”不可触民の父”アンガードベルには悟りがない。本当に必要なのは、自由・平等・友愛だから。それなくして悟りなんてない。周りの人間の不幸を無視して一人だけ悟りを開くのは真実ではない。周りの人間の幸福を実現して悟りの境地を開くのが真実である。 p155 ヒンドゥー教 アンガードベルの演説「ヒンドゥー教の神は人間から自由を奪い、バラモンに隷従することしか教えない。」 p188 女 インドは男性優越社会の最大国である。女性は男性よりも地位が低く、不可触民の男性でもさらに差別する存在である。それ故におそろしいDVが絶えない。 p221 インドとイスラム インドはイスラム国家の石油資源が無ければ成り立たない。イスラム諸国もインドの安価で膨大な労働力が無ければ成り立たない。 パキスタンの問題で両国は仲が悪いように思えるが、それは間違いで、両国家の宗教原理主義者が扇動しているだけである。 p231 ヒンドゥー教の定義 ヒンドゥー教を定義できる者はいない。聖書のようなものがないからである。ただ、聖書がないから、バラモンが自分たちで解釈を独占して、良いように解釈を変えてきたからである。 ______ 内容はすごいが、話がまとまっていない感はすごいある。その点は減点だと思う。 インドを語るうえでやっぱり大事なのは、カーストだよね。
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大学時代に読んだ本をもう一度読みたくなった。 知らないことがたくさん。 ガンジーは聖人のように習ったけど、実態は全然違う。
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インドにカーストが生まれた理由と、カースト制度の現在を聞き語りで取材している。 聞き語り方式なので、いつ誰がどこで話したのか以外にも、個々人のフィルターがかかっているので、実際の所どこまで正しいのかわからない。 が、客観的なデータ自体が存在しない以上は、このような書き方になる...
インドにカーストが生まれた理由と、カースト制度の現在を聞き語りで取材している。 聞き語り方式なので、いつ誰がどこで話したのか以外にも、個々人のフィルターがかかっているので、実際の所どこまで正しいのかわからない。 が、客観的なデータ自体が存在しない以上は、このような書き方になるのはしょうがないだろう。 冒頭で不可触賤民をひき逃げしても問題がなかった1970年台の著者の体験が書かれているが、いまだにそうなのだろうか?
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いままでのインドのいろんなイメージを壊された。 インドの侵略者であるアーリア人が自分たちの地位を確固とするためだけに作られたヒンズー教、そしてカースト制度。 インドの人々がこんなに辛い生活を送っているなんてショックだった。 マハトマガンジーにしてみても、わたしはてっき...
いままでのインドのいろんなイメージを壊された。 インドの侵略者であるアーリア人が自分たちの地位を確固とするためだけに作られたヒンズー教、そしてカースト制度。 インドの人々がこんなに辛い生活を送っているなんてショックだった。 マハトマガンジーにしてみても、わたしはてっきりインドのヒーローだとばかり思っていたが、彼も結局はカースト支持者だったのだ。 10億近くの人口のインド。 カースト別人口はブラーミン(僧侶など)5%、クシャトリヤ(軍人等)7%、ヴァイシャ(商人等)3%、シュードラ(前上位3カーストに奉仕するカースト)約60%、残りの25%がカーストにも属せない「不可触民」らしい。 前にも書いたプーランですらシュードラだったらしいから、それ以下の不可触民はいままでどんな扱いを受けてきたのか・・・ 考えるだけでもぞっとする。 この本によると、今までヒンズー教を刷り込まれてきた人たちも、不条理に気づき始め、どんどん仏教に改教する人たちが増えてきているらしい。 もともと頭がいいといわれているインド人。 こういう差別をなくし、どんどん世界で活躍してほしい。
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[ 内容 ] 今日まで続く、厳しい身分制度であるカースト制はなぜ三千年にもわたり保たれてきたのか―。 かくも長く、圧倒的多数の民衆が“奴隷化”されてきたのはなぜか―。 仏教発祥の地で仏教が抹殺されたのはなぜか―。 今、“歴史的真実”の扉が開かれ、塗り替えられようとしている。 大国・インドで何が起こっているのか。 現場からの迫真の書。 [ 目次 ] 第1章 この国の本当の主人公は誰か 第2章 目覚める人びと 第3章 インド史上最大の謎を解明する 第4章 仏教の白い花 第5章 インドは世界の有望な市場か? 第6章 インド史上初、不可触民出身の“女帝”州首相 第7章 暗黒時代の再来 [ POP ] [ おすすめ度 ] ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度 ☆☆☆☆☆☆☆ 文章 ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性 ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性 ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度 共感度(空振り三振・一部・参った!) 読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ) [ 関連図書 ] [ 参考となる書評 ]
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インドのカースト制度がどのようなもので、どう変わりつつあるのか、というお話。 全体が著者の経験や、著者がインタビューした、カースト制度に対抗している人達の語りなので、大変読みやすいのも嬉しいです。
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著者が冒頭で語るインドでの体験――同乗する自動車のひき逃げ事件は、著者の衝撃的な「原体験」であり、それ以来、インド不可触民をはじめ最底辺民衆に関心を持つようになったという。 この本からこれまで知らなかった多くの事実を学んだ。インドのカースト制度は有名だが、では現代インドでカース...
著者が冒頭で語るインドでの体験――同乗する自動車のひき逃げ事件は、著者の衝撃的な「原体験」であり、それ以来、インド不可触民をはじめ最底辺民衆に関心を持つようになったという。 この本からこれまで知らなかった多くの事実を学んだ。インドのカースト制度は有名だが、では現代インドでカーストが現実にどのように働き、政治的、経済的にどのような意味をもっているのかなど、よく見えていなかった。この本では、不可触民の側からカースト制によるインドの支配と被支配の実態が明らかにされる。 ブラーミン、クシャトリア、ヴァイシャの上位三カーストで人口の15パーセント、指定カースト、その他後進階層85パーセントと言われるが、正確な数字は、1930年にイギリスが調査して以来、一度も公表されていないという。しかし実際にこの上位15パーセントが、今も政治権力、官僚制度、マスコミ、経済、議会等々、あらゆる分野で支配的地位にいるのは紛れもない事実だ。 日本の教科書的な記述でははっきりとは書かれないが、インドの不可触民を中心とした人々は近年、次のような歴史認識を持つに至ったという。つまり、ブラーミン、クシャトリヤ、ヴァイシャたちは、もともと侵略者であり、先住民を追いやり、カースト制を作り、下層民として押し込めた。下層の人々は、その事実を口にすることすら許されなかった。教科書的な記述でカースト制をアーリア人の侵入との関係の中でとらえるにしても、ここまではっきりと述べた記述には出会ったことはなかった。 山際氏は2002年にインドに取材してこの本を書いている。そのインタビューには、この国になお厳然と残るカーストの実態がかかれている。 ある不可触民出身の政府職員は言う、「私たちがどこかに転勤になると、我々のカーストがいち早く次の職場に伝えられます。新任者のカーストが何であるかによって対応の仕方が決められるからです。その人間によってではなく、所属のカーストによって扱いが決まるからなのです。」 別の不可触民出身の女性は、インドの最近の経済自由化について次のように語る、「貧困層は一層貧しく、金持ちは益々肥え太る政策以外の何ものでもありません。これは個人的成功、失敗のレベルの問題ではないのです。‥‥1990年から始まった、世界銀行、IMF主導の経済改革は、結論的にはダリットという弱者社会に大きな打撃を与えるにすぎません。社会主義的経済を資本主義的私企業形態に変えてゆくことは――銀行その他の政府系企業の私企業への移行――リザーブシステムで保証されていた職能分野の縮小を意味します。」 現代インドについて全く別の視点から語る本をと思って、『インドを知らんで明日の日本を語ったらあかんよ』竹村健一、榊原英資(PHP、2005年)のカーストについて触れた部分を読んでみた。 案の定というべきか、 「‥‥巷間でいわれているほど、カーストが問題になることはないようです。ビジネスのネックにはならないでしょう」(榊原) 「カースト制度がどうのこうのっていう話ではないわでですね。インドというと厳然としたカーストをイメージするのは、情報が古い。新しい情報が入らないと、子供のころから聞いている話で、インド観が固まってしまっているということですね。」(竹村) 「実際に、企業が採用についてカーストを云々することはまったくありません」 おそらく最先端のIT関連企業などでは、業種・職種が伝統的なジャーティにないこともあるのか、上のように言える面もあるのかも知れない。しかし、上のような言い方をしてしまうと、山際氏が報告したような深刻な現実は、まったく視野の外に置かれてしまうのだろう。自分が住む国でも、抑圧された人々の現実をあるがまま見るのはむずかしい。まして外国であればなおさらなだろう。この竹村、榊原の対談も、山際氏によるインタビューもそれぞれの立場から見た現実が語られているので、いちがいにどちらが正しいとは言えないだろう。しかし、少なくとも先の対談で語られているほどことは単純でないことは明らかだ。 ところで、カースト問題を低カースト民が自由に触れることすら許されなかった時代は、アンベードカルによって打ち破られたという。ガンディーに対立してヒンドゥーの差別と闘い,インドに仏教を復興した不可触民出身の政治家であるアンベードカル。同著者の『アンベードカルの生涯』(光文社)も併せて読むべきだろう。
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