転落の歴史に何を見るか の商品レビュー
人は何度も過ちを繰り返し、その都度失敗に学びながら進歩してきたわけだが、中々そう上手く進化していない事も多くある。本書は過去に日本が経験してきた数々の戦争や事変を歴史の中の「転落」と捉えて、そこから何を得て何を得なかった(繰り返した過ち)かについて、主に後者について述べていく。そ...
人は何度も過ちを繰り返し、その都度失敗に学びながら進歩してきたわけだが、中々そう上手く進化していない事も多くある。本書は過去に日本が経験してきた数々の戦争や事変を歴史の中の「転落」と捉えて、そこから何を得て何を得なかった(繰り返した過ち)かについて、主に後者について述べていく。そして後者を並べることにより、今後将来の日本が迎える困難に何を活かすべきかを論じていく。前者については筆者がその解を導き出す様な形で進んでいく。筆者が本書を書くきっかけとなったのが、名著「失敗の本質」であった事から、概ね転落を反省し、そこから学ぶことのできなかった過去の日本、という形で話は始まる。 なぜ日本が日露戦争に勝てて、その後のノモンハンや太平洋戦争に勝利できなかったのか。一つの答えとしては組織の問題が挙げられる。明治の時代には東郷平八郎や乃木希典、大山巌に児玉源太郎と、戦争だけに長けたスペシャリストではなく、内政に関しても日本という国を俯瞰的に捉え、物事の本質を見誤らないジェネラリスト的な人間が多く活躍した。彼らは目の当たりにする一つの戦局で戦うのではなくスパイ工作や終戦工作など外交面・諜報面そして日本の国力や生産力にまで精通し、戦争を幅広く時間と空間で捉えながら戦ってきた。一方、その後の日本軍は特定のスキルに長けたスペシャリスト教育が中心となったため、作戦家は騎乗の作戦だけ、歩兵は歩兵戦術のみ、水雷屋は敵艦を魚雷で沈めるだけの人材が増加していく。そしてそれらを纏め上げる優秀なジェネラリスト達が老いと共に去っていく。そこに出来た大きな崖を、日本という国家はそのまま転落していく。 もう一つ主義にこだわる点も大きく影響する。白兵銃剣主義に艦隊決戦主義、大艦巨砲主義など、一度成功を見た戦術をそのまま変えずにいつまでも貫き通す。当たり前だが、敗れた側はその戦い方を研究して攻略してくるから、本来それを見越した戦術の転換などが必要であり、我が国は過去の形に拘りすぎるために容易に破られていく。ジャンケンで初回に買ったグーを出し続ける様なものだ。 さらに失敗の本質や山本七平の「空気の研究」でも散々述べられてきた、周りへの同調、空気感に飲まれる人や組織の問題、失敗しても処分できない体質からは反省も当然の如く生まれない。本書はそうした過去の日本が繰り返してしまった敗北とその原因を追っていく点では、失敗の本質同様に読みやすく、加えてわかり易く論じてくれる。 後半については日本が団塊の世代が一斉リタイヤし正に転落必死の崖を前にして、一体これら失敗から何を学び取りどうしていく必要があるか、筆者の考えもヒントにしながら一緒に考えていく必要性を訴えていく。少子高齢社会待ったなしの現在において国民一人一人に突き付けられた難問である。これを何も学ばず放置すれば、崖からの転落が待ち受ける。過去の大戦敗北で日本がそうだった様に、再び経済戦争で大きな敗北を迎えるだろう。そうならないためにも本書を手に取り、考えるきっかけにしてみてはどうだろうか。日本社会にただ待ってるだけでは秋山真之は現れない。
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210816転落の歴史奉天会戦からノモンハン齊藤健◎ 新書だがコロナ禍にある日本社会を見る視点としては有益 「失敗の本質」が現代日本にも脈々と繋がっているという現実 それを確認することからしか「ポストコロナ」はあり得ない 1.日本軍は戦略転換が苦手 野中郁次郎→『何が物事の本質か...
210816転落の歴史奉天会戦からノモンハン齊藤健◎ 新書だがコロナ禍にある日本社会を見る視点としては有益 「失敗の本質」が現代日本にも脈々と繋がっているという現実 それを確認することからしか「ポストコロナ」はあり得ない 1.日本軍は戦略転換が苦手 野中郁次郎→『何が物事の本質か』 ①大鑑巨砲主義②白兵銃剣主義 源田実 水平の失業問題 →予算の制約が大きい 軍事費は日本の体力の限界を超える 現代日本も社会保障費で硬直 未来への戦略投資が出来ず閉塞化 2.軍人指導者の視野狭窄 組織内の純粋培養 大局観が育たない 世界観・歴史観を踏まえた戦略転換に及ばない 小才を育てた陸士・陸大教育=現代の偏差値教育 平時は成績主義⇒非常時は実力主義・抜擢人事 二次大戦の米国軍人事 3.ノーブレス・オブリージュ 明治期は武士道が担ったが、昭和にはそれがなくなった 変わるものもない 大義なき侵略戦争は将兵の意識劣化をもたらした 現代日本もエリートの理念を持ち得てはいない 金銭至上は卑しい 4.組織的欠点①希望的観測②ドグマに無批判③代替案の拒否 日常の自転 思考停止 ワンパターンの作戦 失敗の繰り返し 独創性の軽視・異分子の排除 5.人材の育成 社会の最大のテーマ 「国家社会の経営」という意識の希薄さ ex捕虜収容所の運営 日本は属人的・権力的 親分・子分 欧米は組織設計ありき 機能 6.虚偽 大本営発表 チャーチル 失敗を報告 国会・社会の受け入れ 信頼感と人材育成 包容力 エリートの育成 社会的仕組み 「政治家の登用・育成」 利権から隔離 国会議員は国政のみ 小選挙区制だけでは逆効果 7.環境次第 昭和の軍隊が特別だったのではない オイルショックの時に買い占めを行った商社マンも全く同じ 170815 転落の歴史に何を見るか 齋籐 健 奉天会戦−ノモンハン 著者は59年生まれ83年東大から通産官僚へ 日本の組織社会に危機感を持ち 昭和の日本との比較・反省の書として本書を上掲 「組織の共同体化」これにつきる 実力主義を回避し、年功制、トップも世襲制⇒組織はどんどん劣化していく 最期、組織の破綻まで転落を続けるしかない、ホラーストーリー 30数年の間に栄光からどん底へ 誰もが改革を求めながら暗転 1−1 大艦巨砲主義からの転換 なぜ日本は出来なかった? 合理性より水兵の雇用問題 米英は出来た 緒戦敗北のショック 合理的改革へ転換できた 社会の支持とリーダーシップ →現代の「英語教育」「IT教育」 既存の先生の雇用確保が優先され改革が出来ない 「野中郁次郎教授」(22) 何が本質かー判断基準とする 人間関係や過去の経緯に捉えられると意思決定が歪む 2−1 奉天からノモンハンへ 日露戦争までは政略優先 →軍部大臣現役武官制 統帥権の独立へ 原敬暗殺後、ジェネラリスト人材の枯渇 19211104 →19220201山縣有朋の死 「人材育成システムが機能しなくなる」 なぜか? システムではなく、経験の問題とすると、社会制度は進歩できないことになる 『良質の指導者』をいかに育むか という問題意識がないのではないか(67) ⇒組織の共同体化 合理性より仲間意識 ボス 村八分 息苦しさ 学習やイノベーションからほど遠い組織 「日常の自転」(80)思考停止 組織の学習は不活発 組織の劣化 セクショナリズムによる部分最適化 全体最適=組織目的意識の喪失 (1)指導者層の変質 (2)道徳的規律の喪失 (3)組織の自己改革力の喪失 (4)歪んだ戦史の悪影響 大艦巨砲主義 白兵銃剣主義のドグマ 3−1 イギリスの政治体制 有能な人材の確保 国家的政策に集中 ⇒「政の優位」を確保できる (日本の民主党政権 小澤政治の拙速) ⇒国の存亡をかけた国家間の争い(117) 有能なリーダーを輩出、選抜しなければ滅んだ 狩猟民族のトップ選出 「真のエリート」(司馬遼太郎)126 (1)公のために自己犠牲 (2)冷徹なリアリズム →ノブレスオブリージュ
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さすがは現役エリート官僚。設定したテーマから僅かばかりも外れる事なく論を進め、きちんと結論を導いている。頭の良い人ってこう言うものなんだと改めて感心した(何様目線?!)。 何故日露戦~先の大戦の間に日本軍の能力が転落したのか、その原因は有能なジェネラリストの明治の元勳が表舞台から...
さすがは現役エリート官僚。設定したテーマから僅かばかりも外れる事なく論を進め、きちんと結論を導いている。頭の良い人ってこう言うものなんだと改めて感心した(何様目線?!)。 何故日露戦~先の大戦の間に日本軍の能力が転落したのか、その原因は有能なジェネラリストの明治の元勳が表舞台から消え、狭い専門教育を受けたスペシャリストのエリートに世代が替わったから。これはこれで非常に説得力のある論考だが、著者の書き方からは明治元勳が標準で以降の世代の能力が著しく劣っているとの前提に立っているように感じる。でも矮小な無能指導者層が現在まで続いていることをみればむしろ明治のリーダーが突然変異的、例外的に優秀だっただけなのではないか? 最終章で明治維新と戦後はどちらもゼロベースからの出発だったと言っているが、それは違う。江戸時代に育まれた豊かな文化や精神の基盤がなければ明治維新は成功しなかったし、非常事態のなかで異才が登用された結果だった。その意味で維新元勳は継続的な人材の発掘育成システムの構築には失敗したわけだ。 そう思うと明治維新のような革命的な動乱が起こらない限り明治のリーダーに相当する人材は(仮にいたとしても)表舞台には出てこないと思われる。世襲ばかりの国会議員を見てりゃすぐわかるけどね。
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※このレビューにはネタバレを含みます
日露戦争(奉天会戦)からノモンハンまでの30年間で転落していって敗戦したのはなんで、教訓は何でしょうかね。と言うお話。 ・日本軍が戦略転換できなかったのはなぜか?という問いに元航空参謀の返事が 「いままで苦労していた水夫さんにわるいから」!! (でも、こうやって、なあなあなこと結構あるよな) ・いじめや不登校の問題も大事だけど、良質な指導者層(国を率いられるような優秀な人材)をどうやって育てるか、って教育の問題もあるし、そっちのほうが大事かもよ。 (たしかに。みんなで馬鹿になってもしょうがないな) ・モスクワ近郊の日本人捕虜は感化され「インターナショナル」や「スターリン賛歌」を進んで歌い、歌わない者(当然日本人捕虜)は村八分にされ生命の危険(あるいはリンチ)にあった。一方ドイツ人捕虜にそんな人はいなかった(歓喜の歌を歌っていた)!!(「沈黙」に通じる話だな。いかにも日本人らしく、怖い) ・「日常の自転」の結果、惰性になり思考停止する。 (たしかに、つねに何か変化させないとまずい) ・戦死、あるいは殉死すると二階級特進というのは、日本だけの制度で、諸外国ではそんなものはなく、論功あれば特進する。日本は死ぬことが論功で、優秀な成績でも特進しない。 ・官僚の汚職は明治が最も少なかった。 結論は優秀な人材をうまくそだてて活用していくことだよね。育てるシステムがないんだけど。出る杭は打たれるし。あと優秀な人が気持ちよく働けるシステム。
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日露戦争で頂点を迎えた明治維新後の日本の組織が、 なぜ転落していったか 組織論 なぜ組織がだめになるのか 非常に有益だった。
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国会質問がラップ調に編集されて人気の、自民党 斉藤健議員が2002年に著したもの。結論は敢えて避けてあったが、多少強引でも良いから筆者なりの結論が見たかった。
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日本国家の転落の歴史から今も痛々しいほど残っている教訓。 ・組織の合理性よりも人間関係優先 ・異分子を排除し独創性を軽視 ・日常の自転→思考停止→組織学習不活発 ・組織の中心が消え、縦割り割拠主義が横行 ・お題目支配 ・人事の緩み、悪平等的発想→適材適所、抜擢人事なし まさに日本...
日本国家の転落の歴史から今も痛々しいほど残っている教訓。 ・組織の合理性よりも人間関係優先 ・異分子を排除し独創性を軽視 ・日常の自転→思考停止→組織学習不活発 ・組織の中心が消え、縦割り割拠主義が横行 ・お題目支配 ・人事の緩み、悪平等的発想→適材適所、抜擢人事なし まさに日本国の大きな問題、課題である。
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09/08/12 いろいろと考えさせられるテーマである。行き着くところは組織論か。 11/02/02 再読。半ば過ぎまでは良い本である。
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いじめ、汚職、責任転嫁。信じられる対人関係が瓦解し、社会の醜い腐敗が表面化している今だからこそ勧めたい本の一つです。 今、社会で巻き起こっている組織のあり方は、何もつい最近始まったものではありません。安定や安心に身を任せ、目的志向や事業のプロセス等に綻びが生じても、組織の人間関...
いじめ、汚職、責任転嫁。信じられる対人関係が瓦解し、社会の醜い腐敗が表面化している今だからこそ勧めたい本の一つです。 今、社会で巻き起こっている組織のあり方は、何もつい最近始まったものではありません。安定や安心に身を任せ、目的志向や事業のプロセス等に綻びが生じても、組織の人間関係を非常に重要視した結果、堕ちる所まで転落した例は、過去にも多数存在しておりました。 過去を変えることは出来ません。でも、過去を教訓に、現在の、そしてより豊かな未来の世界を作り上げることが出来ます。孔子の『論語』にある『温故知新』の精神ですね。 かつて日本が経験した転落の歴史を踏まえ、腐敗が露呈した現在の社会をどう復活に導いていくか。組織論、リーダーシップ論の観点で書かれています。 文量としても多くなく、比較的読みやすい本です。明治維新を担ったリーダーと、その教育を受けたものの、専門的な流れに特化してしまい、コントロールが利かなくなってしまった昭和初期。対する諸外国のリーダーシップ。 それに対し、今を、そしてこれからをどうすればいいのか、というところについて、具体的な提案等はあまりありませんし、「過去から学ぶのは当然でしょ」と思うことも少なくありません。が、当然のことだからこそ意識して学ばなければならないのも事実。 「何かおかしい」「現状を変えなければならない」。そう感じた時、普段は埋没されて目に見ることが出来ない歴史の教訓に、もう一度刮目しなければなりません。
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賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶという格言があるそうだが、私個人では、学ぶのは歴史と経験の両方でないと、真に学ぶことにはならないのではないかと思っている。歴史は知識だが、それに知を通わせるのは経験ではないかと思うからだ 塩野七生2001 何が物事の本質か。これを議論し突き詰...
賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶという格言があるそうだが、私個人では、学ぶのは歴史と経験の両方でないと、真に学ぶことにはならないのではないかと思っている。歴史は知識だが、それに知を通わせるのは経験ではないかと思うからだ 塩野七生2001 何が物事の本質か。これを議論し突き詰める組織風土を維持し続けることだ 野中郁次郎 そしきが20,30年経つと人間関係や過去の経緯など本質的でないところをよりどころとして、重大な判断がなされる。 武士道 新渡戸稲造 海軍 山本権兵衛海軍大臣が日露戦争時に東郷平八郎を連合艦隊司令官に、秋山真之を首席参謀とした ノモンハンの作戦参謀 辻政信 奉天の会戦1905からノモンハン1939までの34年間の間で国が変わるほど変化した 明治維新から奉天の会戦までは、明治維新の立役者がリーダ 明治の元勲 そのあとは士官学校での人たちがリーダー 司馬遼太郎 昭和に入って20年間 魔法をかけられて、森の中に迷い込んでしまった。 次世代を育てる教育、とりわけジェネラリストを育てる教育にもっと多くの現世代の人々が関心をもたなくてはならない
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