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反近代の精神 熊沢蕃山 の商品レビュー

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2025/11/13

丸山眞男に代表される近代主義的な立場にたつ思想家たちは、これまで日本の思想的風土において西洋近代に誕生した主体性が欠如していたことを批判しました。こうした見かたは、ルース・ベネディクトの『菊と刀』でも、道徳の絶対的な基準にもとづいて自己を律する西洋の「罪の文化」と、他人の判断を基...

丸山眞男に代表される近代主義的な立場にたつ思想家たちは、これまで日本の思想的風土において西洋近代に誕生した主体性が欠如していたことを批判しました。こうした見かたは、ルース・ベネディクトの『菊と刀』でも、道徳の絶対的な基準にもとづいて自己を律する西洋の「罪の文化」と、他人の判断を基準にして行動する日本の「恥の文化」を対比するというかたちで語られています。 しかし著者は、熊沢蕃山の思想のうちに、陽明学から継承した主体性を重視する考えかたが見いだし、上のような日本文化批判に対する反論をおこないます。他方で著者は、江戸時代の幕藩体制のもとで武士はいわば「サラリーマン」に類する存在となっており、ヴェーバーの論じた「官僚化」が進行していったことから、明治時代以前においてすでに日本の近代は開始されていたと考えます。蕃山は、そのような社会状況のなかで主体性を強く打ち出しており、彼の思想は近代に特有の問題に対する取り組みとみなすことができます。 その一方で、蕃山には武士の帰農を説き、新田開発に慎重な姿勢をとるなど、こんにちのエコロジー思想に通じる考えも見いだすことができます。この意味で、蕃山の思想のうちに「反近代の精神」を読みとることも可能だと著者は主張し、その現代的な意義を説いています。 本書における考察の中心に蕃山の思想があることはまちがいないのですが、関連する話題に入り込んでいたずらに議論の舞台が拡大されていくのに、少々ついていくことのできない思いをさせられます。蕃山の影響が見られる佚斎樗山の『田舎荘子』の武道論などが論じられているあたりまでは、幅広い観点から蕃山の思想の現代的意義を考察するうえで興味深い話題について語られていると思って読み進めていたのですが、団藤重光の死刑廃止論やサミュエル・ハンティントンの文明の衝突論などは、はたして立ち入る必要のある話題だったのだろうかと首をかしげてしまいます。

Posted byブクログ