氷島の漁夫 の商品レビュー
1886年作。 ピエール・ロチ/ロティ/ロッチの名は、永井荷風の書いたものの中でも目にしたし、確か他の明治-大正期頃の日本の作家の文章の中でも見かけた。 ゾラ以降の「自然主義派」とは異なる系譜の作家として、当時注目を浴びていたようだ。ウィキペディアの記事を読むと、日本では結...
1886年作。 ピエール・ロチ/ロティ/ロッチの名は、永井荷風の書いたものの中でも目にしたし、確か他の明治-大正期頃の日本の作家の文章の中でも見かけた。 ゾラ以降の「自然主義派」とは異なる系譜の作家として、当時注目を浴びていたようだ。ウィキペディアの記事を読むと、日本では結構いろいろ翻訳されてきたようだが、現在新刊本として入手できる作品はごく少ない。本書も、中古で購入した。 どうも風景描写を得意とした作家らしく、読んでいると特に海の描写が克明である。が、かなり頻繁に海も風も擬人化表現につきまとわれる。擬人化によって、恐らく、<特定の意味あるもの>として風景は<自己>の同一化の磁場へと取り込まれ、わが主体の大きなロマンティシズム、際だった情感を伴った文学-体が実現されるのだろう。 本作ではようやく結び付いてアツアツな新婚さんになった男女が、海によって引き裂かれるという悲恋物語で、その構造や情感はシンプルなものである。まずもって「ロマン主義」の範疇に入ると言えそうだ。 フランスから帰国したてで文壇で仏現代文学の潮流を紹介する役目を求められたらしい荷風も、「仏蘭西現代の作家」という1909(明治42)年の小文でロチをそのような作家として書いている。 <ピエールロッチは海軍の士官であって、世界各国に漫遊した旅行の感想をば、三十巻余の小説に現した。・・・(中略)・・・ロッチは写実家であるけれども、モーパッサンが試みたような、曝露された真実の無惨なるに堪え得ない処から、作中の人物をも人間としてよりは寧ろ、美しい自然の一部分としてのみ描いて居る事がある。ロッチはゾラの如く観察して解剖する人ではなく、深く感じた其のままを描く人である。>(岩波書店『荷風全集』第6巻P.317) その後、この作家は本国ではどんな評価に落ち着いたのだろうか。文学史上はさほど重要な存在とされていないように思うけれども。
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『氷島の漁夫』は1886年にフランスで発表されたロティ六作目の作品である。 北の海の緻密な描写と漁業で生業をたてる小さな寒村で暮らす人々の生活をベースに描きつつ、若いふたりの恋愛が小説を静かに貫く。 作品の結末に過度なメランコリーを用意してくる癖はあるものの自然を緻密に描写し、人...
『氷島の漁夫』は1886年にフランスで発表されたロティ六作目の作品である。 北の海の緻密な描写と漁業で生業をたてる小さな寒村で暮らす人々の生活をベースに描きつつ、若いふたりの恋愛が小説を静かに貫く。 作品の結末に過度なメランコリーを用意してくる癖はあるものの自然を緻密に描写し、人間の悲嘆と絶望を自然界のヴァニタスと融和させてゆくさまは頽廃的な美であり、評価されるべき点であろうと思う。
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