東京大空襲 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
2001(底本1994)年刊。東京大空襲時に使用した焼夷弾とB29の開発史を主軸として、米軍側から見た東京大空襲に至る経緯を叙述したもの。「勝った勝ったバンザーイ」といった単純な構図ではなく、幾多の失敗を重ね、実験・検証を繰り返してきた経緯が述べられるが、その帰結が本書でも記載されているように十万人以上の死傷者が一夜にして生まれた事実である。戦史として読むか、技術開発史として読むかで印象が180度変わる書ではあろうが、戦争兵器開発に血眼になるという救いようのない人間の業を感じさせる一書である。
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「1945年(昭和20)3月10日は何の日?」と訊かれて、即答できる方はあまり多くないのではないでしょうか。 正解は東京大空襲の日。8月6日のいわゆる「ヒロシマ」や、同9日の「ナガサキ」に比べると、あまり知名度が高くないと思われるこの日ですが、太平洋戦争について調べる上で、決し...
「1945年(昭和20)3月10日は何の日?」と訊かれて、即答できる方はあまり多くないのではないでしょうか。 正解は東京大空襲の日。8月6日のいわゆる「ヒロシマ」や、同9日の「ナガサキ」に比べると、あまり知名度が高くないと思われるこの日ですが、太平洋戦争について調べる上で、決して外すことのできない話題です。 理由は二つ。まず一つは、本空襲が死傷者10万人以上という大被害を出した市街地への無差別爆撃だったということ。 もう一つは、アメリカ軍が戦術を本格的に都市への無差別爆撃に切り替えた最初の空襲であった、という点です。 この日以後、日本の主要都市はB-29をはじめとする米軍機によって焼け野原と化してゆくこととなりました。 前置きが長くなりましたが、本書はこの「東京大空襲」に至るアメリカ側の過程を、アメリカ人の手で、アメリカ人の目線から追ったものになります。 しかしながら、記述は極めて中立的で、筆者の感情を交えず、淡々と事実のみを書いているため、非常に価値のあるものとなっています。 あえて難点を挙げるとすれば、誤字がちらほら見受けられることでしょうか。校正しっかりせぇよ… 私はこの本を読み進めるうちに、次第に恐怖感を覚えざるを得ませんでした。 米軍側の人物は、極めて理性的に、いかにして日本の息の根を止めるかを追求した結果、焼夷弾を用いた無差別爆撃に行き着いたのです。 このことを端的に表す、カーチス・ルメイの言葉を以下に引用します。 「君が爆弾を投下し、そのことでなにかの思いに責め苛まれたとしよう。そのときはきっと、何トンもの瓦礫がベッドに眠る子供のうえに崩れてきたとか、身体中を火につつまれ『ママ、ママ』と泣き叫ぶ三歳の少女の悲しい視線を、一瞬思い浮かべてしまっていたにちがいない。正気を保ち、国家が君に希望する任務をまっとうしたいなら、そんなものは忘れることだ」(P.137~138) これを読んだとき、私はこれこそ「戦争の狂気」という言葉にふさわしい、と感じました。 ちなみに、ルメイは焼夷弾による無差別爆撃を推進した張本人でもあります。そして、戦後には「自衛隊の育成に貢献したとして、日本から勲一等旭日大綬章を受章されています。」 被災された方々によるお話や手記、日本側から見た検証にも、もちろん価値はありますが、それだけでは東京大空襲の全体像は見えてきません。加害者であるアメリカ側からの1945年3月10日を描いた本書は一読の価値ありです。
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