偶然の祝福 の商品レビュー
小川さんの描き出す、徹底しつくされた静謐さが好きなわたしには、少しガチャガチャした手触り(舌触りとも呼べそうな感触)の作品だった。 「私」の不運続きで薄幸そうな感じが物悲しい。せめて犬と息子は人並みに幸せであって欲しい。
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- ネタバレ
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読み始めたときはおそらくエッセイなのだろうと捉えていた。エピソードが重なるにつけ、私小説なのだろうと読み進め、半ばほどでようやく全きフィクションであることに気づいた。主人公は小説家でもちろんディテールはリアルな作者自身のことなのだろうけどと、虚実ともなって読んでいくが最後には作者の,小説家なるもののの理想像に過ぎなかったとも感ぜられてしまった。リアルなファンタジーは作者の得意とするところで、さらに自身をリアルファンタジーとしておく構造がアクロバティックで面白い。
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図書館で借りました。 私小説風。現代。短編。 主人公は小説家の女性。 オーケストラ指揮者の妻帯者と不倫の関係で、子供を身ごもっている。子供は男の子。やがて生まれて、ゴールデンリトリバーのアポロと親子二人で暮らしだす。 一つ一つは短編で、読み切り。 「失踪者たちの王国」...
図書館で借りました。 私小説風。現代。短編。 主人公は小説家の女性。 オーケストラ指揮者の妻帯者と不倫の関係で、子供を身ごもっている。子供は男の子。やがて生まれて、ゴールデンリトリバーのアポロと親子二人で暮らしだす。 一つ一つは短編で、読み切り。 「失踪者たちの王国」と、「キリコさんの失敗」の雰囲気が好き。 でも、大タイトル「偶然の祝福」と中身の選択がよくわからない。 そこはかとなく不安定。 透明感があるのだけれど、それってガラス細工とか氷のようなもろい感じがする。 幸せになれそうにない主人公。で、このタイトル。 すごく、不安定。
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小川洋子の短編集。 以前読んだ「薬指の標本」より今回の方がよかった。 「薬指の標本」は作り物っぽかったので。 小説なんだから当たり前なんだけど、わざと「お話を作っている」という感じがしたのです。 この「偶然の祝福」は自伝的な短編集、なのかな、と。 一人の同一人物と思われ...
小川洋子の短編集。 以前読んだ「薬指の標本」より今回の方がよかった。 「薬指の標本」は作り物っぽかったので。 小説なんだから当たり前なんだけど、わざと「お話を作っている」という感じがしたのです。 この「偶然の祝福」は自伝的な短編集、なのかな、と。 一人の同一人物と思われる女性が主人公で、少女時代の回想、そして現在に限りなく近い過去の話を織り交ぜて、まるで一編の小説のようです。 この主人公の女性が、どうやら小説家のようで、アポロという犬を飼っていて、わりと裕福な家庭に育った人で、指揮者の恋人がいて、未婚の母、という設定。 もちろんフィクションの部分もたくさんあるのでしょうが、「きっとこれは自分のことを書いているに違いない」と思わせる温度感があります。 その微熱のようなほのかな温もりと、どこか醒めている不思議な世界観がほどよくミックスされている。 そこが、この短編集のよさだと思います。 オトナの女性に読んで欲しい一冊。
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2010/08/14 怪我したりお金がなかったり病気になったり気を病んだり、なんだか落ち着かない読み心地だった。挿絵のわんこがかわいい。
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あまり抑揚のない静かな話。だがどこか異質な雰囲気を帯びたストーリーは時折自分まで異空間に連れて行かれそうな気がする。「博士の愛した数式」のイメージで読んだのでとても新鮮な気もした。ただ、後半になると徐々について行けなくなる部分も…。
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私を取り巻く世界は一向に進展していなかった。すべてがただ後退してゆくばかりだった。私の胸には悲しみの泉が出現していた。それは深く、不透明でしびれるほどに冷たかった。 愛犬が病気になっちゃう章、結末がわかるまでは犬好きな人はつらいです
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エッセイ風の連作集。左手が挙がったままになる水泳選手とか、他にも作者の短編作品が出てきます。(私が気づけないものもあると思う)飼い犬のアポロ、キリコさん、見知らぬ弟と登場人物も多彩。作者の作品を沢山読んでからの方が面白い筈。図書館で借りたけど、文庫本欲しいです。
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女性小説家が自分の身の回りで起こったことや出会ったものを 記した、雑感録のような連作集です。 主人公の小説家は、自分が記したことは何でもないことのように書きます。 まるで、日常の生活の中でいくらでも起こりうるとでも言うかのように。 しかし、読者の目から見ると、それらはひどく奇妙...
女性小説家が自分の身の回りで起こったことや出会ったものを 記した、雑感録のような連作集です。 主人公の小説家は、自分が記したことは何でもないことのように書きます。 まるで、日常の生活の中でいくらでも起こりうるとでも言うかのように。 しかし、読者の目から見ると、それらはひどく奇妙なものです。 失踪者、水のつまった袋、首筋に蝶の形の痣がある老人と指揮者、 自転車のカゴに毎日入れられているパン、涙腺水晶結石症、 主人公の著作を全身に身につけて生活する男…。 主人公自身も、ありふれたことのように書いているが、何処か変だと 感じているのかもしれません。 「世界の縁に追いやられる」感覚を味わえる作品でした。
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弟が生き返ったと錯覚したわけではない。やはり彼は死んでいる。プールに手をのばしても、彼に触れることはできないとよく分かっている。それでも私は絶望していない。物語に自分を委ねているだけだ。彼女の声は悲しみを語るときでも優しく、何者も決して拒絶しない。 (P.63)
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