儚い光 の商品レビュー
記憶に捕らわれるということ、自身の記憶とは限らない、親の記憶や一族の記憶を担うとはどういうことなのだろう。その記憶が強烈な辛い負の記憶であったら。 7歳のヤーコプはナチスのホロコーストで家族を失い1人さ迷っていたところを、ギリシャ人地質学者アトスによって救われる。 アトスの愛情...
記憶に捕らわれるということ、自身の記憶とは限らない、親の記憶や一族の記憶を担うとはどういうことなのだろう。その記憶が強烈な辛い負の記憶であったら。 7歳のヤーコプはナチスのホロコーストで家族を失い1人さ迷っていたところを、ギリシャ人地質学者アトスによって救われる。 アトスの愛情の深さに感嘆する。愛情深いだけでなく素晴らしい教育者だ。 二人の生活が語られる時、アトスが教えた言語、詩や物語、植物や鉱物の自然の驚異、音楽の話が多くを占めている。 そんな話がヤーコプの救いになっていったことがわかる。二人の生活は静かな美しさに充ちている。そこに時折、ヤーコプの辛い記憶が紛れ込む。記憶を封印することは姉を永遠に失うことだと繰り返し思い出すのだ。治りかけた傷に爪をたてるような行為は痛ましい。 第二部のベンの話へと続き、ヤーコプの人生が静かに輝きを持って示され、余韻がいつまでも続く。豊かな静謐な時間を過ごしました。
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ナチスの殺戮を逃れた七歳の少年ヤーコプは、ギリシャ人地質学者アトスに救われ、二人はアトスの故郷の島へ逃げた。家族を虐殺されて心に深い傷を負った少年を、アトスは深い慈愛で守り、貧しいながら豊かな学問を授ける。戦後、二人はトロントは旅立ち、穏やかな日々が続く。過去の悪夢から逃れられぬ...
ナチスの殺戮を逃れた七歳の少年ヤーコプは、ギリシャ人地質学者アトスに救われ、二人はアトスの故郷の島へ逃げた。家族を虐殺されて心に深い傷を負った少年を、アトスは深い慈愛で守り、貧しいながら豊かな学問を授ける。戦後、二人はトロントは旅立ち、穏やかな日々が続く。過去の悪夢から逃れられぬヤーコプは、アトスが授けてくれた学問に救いを見出すようになる。そして、アトスのほか唯一の理解者となる妻にも巡り合った。そしていま、ヤーコプがついに得た人生の喜びは、多の者によって新たな意味を持とうとしていた…。世界25ヵ国で翻訳され、オレンジ小説賞ほか10賞を受賞した、珠玉の大作。生きることの意味を探し彷徨する魂を、流麗な文体で紡ぐ、世界的ベストセラー。
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ナチ兵に両親と姉を惨殺され、一人で彷徨っているところをギリシャ人考古学者に救われ、一緒にギリシャに脱出した主人公。その後、カナダへ移住して生活するが、悲惨な出来事が頭を離れない。一見、よくあるユダヤ人の悲劇の物語のようだが、「その後の生活」から大虐殺を考える仕立てになっていて、日...
ナチ兵に両親と姉を惨殺され、一人で彷徨っているところをギリシャ人考古学者に救われ、一緒にギリシャに脱出した主人公。その後、カナダへ移住して生活するが、悲惨な出来事が頭を離れない。一見、よくあるユダヤ人の悲劇の物語のようだが、「その後の生活」から大虐殺を考える仕立てになっていて、日常の感情にまで染み付いてしまう恐ろしさをより印象付けられる。タイトルにもある「儚さ」は、命、友情、家族愛、ふるさと、思い出など、現代で考えるとあって当たり前と思えるものが、全て儚いものだと教えてくれる。一方で、これらを引き継ぐものの存在も語られていて、ほっとする部分もある。
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安易に感動したなどという言葉で、胸に渦巻くこの思いを片付けてしまってよいのだろうか。しかしともかく、読んでよかったと思わせてくれる本だった。詩的で豊穣な文体が読者である私達をも物語の中へと誘い込み、最後の頁へ向け物語は収束し、解放されてゆく。誰かが死んだことは、その存在が消えるこ...
安易に感動したなどという言葉で、胸に渦巻くこの思いを片付けてしまってよいのだろうか。しかしともかく、読んでよかったと思わせてくれる本だった。詩的で豊穣な文体が読者である私達をも物語の中へと誘い込み、最後の頁へ向け物語は収束し、解放されてゆく。誰かが死んだことは、その存在が消えることではない。私達がその人を憶えている限り、その人は確かに各人の記憶の中で生き続けるのだ。私の思いはこれに尽きる。そして読後に残るのはこの世界を縁取る、言葉への希望だ。これこそが物語の可能性なのだろう。私はそう信じたい。
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---時は盲目の導き手である--- 本書、アン・マイクルズの『儚い光』の書き出しである。 先に、作者のことを書いてしまうと、作者のアン・マイクルズは、かなりキャリアのある詩人である。 本書は、アン・マイクルズの初の長編小説となる。 この本はやはり詩人の書いた書物である。日本...
---時は盲目の導き手である--- 本書、アン・マイクルズの『儚い光』の書き出しである。 先に、作者のことを書いてしまうと、作者のアン・マイクルズは、かなりキャリアのある詩人である。 本書は、アン・マイクルズの初の長編小説となる。 この本はやはり詩人の書いた書物である。日本語に翻訳されてもこの小説に綴られている言葉は美しく詩的だ。 ナチの侵略により、両親は殺され、姉は行方不明になった7歳のユダヤ人少年ヤーコプは、奇跡的に助かり、ポーランドで遺跡の発掘をしていたギリシア人の地質学者アトスに助けられる。 アトスは自分の暮らすギリシアの小島にヤーコプを連れ帰り、小さな胸に大きな傷を持つヤーコプに惜しみない愛情をかけて育ててゆく。 この小説は一部と二部にわかれている。 一部は、ホロコーストの記憶を払拭できず、在りし日の姉や家族の姿や悪夢に悩まされながらも、アトスに包まれ、学びながら、幼いが優しい知的な青年に成長してゆく過程。 二部は、事故で亡くなったヤーコプの詩を愛する若者が語り手となる。 ヤーコプがアトスと過ごしたギリシアの家を尋ねて手記を発見し、彼の記憶は若者に引き継がれる。 この本には、悲しみやせつなさや優しさが充満しており、ページをめくるたびに、それらの感情が心に染渡ってくるような気がする。 ナチに蹂躙されたポーランドの冷たく暗い灰色の風景。 海に囲まれ空に近い丘で暮らしたギリシアの小島。 青年時代を過ごし、友を得、アトスを失い、一度目の結婚をしたカナダ。 そしてふたたびギリシアへ。 冒頭の ---時は盲目の導き手である--- には続きがある。 ---時は盲目の導き手である・・・・・。 死者のもとにとどまることは、彼らを打ち捨てておくことだ・・・・・。 このようにして人は解かれてしまうのだ・・・・・名前を呼ぶまえに口を閉ざしてしまう愛によって・・・・・。 彼女の髪がつくる洞窟のなかで・・・・・。--- 映像を見ているような小説である。儚く美しく悲しい。
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とにかく文章がきれいな本。作者はカナダの詩人さんです。 訳者の力もあってのことですが、心象描写を自然現象に例えて語るあたりの上手さに脱帽しています。 話としてはナチの迫害を逃れ、ギリシア人の科学者に救われて育てられる少年の話です。 淡々と語られる喪失感が胸を打ちます。
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