自由と経済開発 の商品レビュー
ー 私たちが生きるこの恐るべき世界はー少なくとも表面上はーあまねく全能の慈悲心の支配が及んでいる世界のようには見えない。(神の)情け深い世界秩序が、どのようにして過酷な悲惨、執拗な飢え、欠乏と絶望の暮らしに苦しむこれほど多くの人を含み得るのか。なぜ毎年何百万人もの子供が食料、医療...
ー 私たちが生きるこの恐るべき世界はー少なくとも表面上はーあまねく全能の慈悲心の支配が及んでいる世界のようには見えない。(神の)情け深い世界秩序が、どのようにして過酷な悲惨、執拗な飢え、欠乏と絶望の暮らしに苦しむこれほど多くの人を含み得るのか。なぜ毎年何百万人もの子供が食料、医療、社会的保護の欠如のために死ななければならないのか。これらを理解することは困難である。 もちろんこれは新しい問題ではない。神学者たちはこのテーマを論議してきた。神は人間が問題に自分で対処することを望んでいるのだ、という主張は知的にもかなり支持されてきた。私は宗教を持たない人間として、この論争の神学的価値を評価する立場にない。しかし、人間には生きる世界を自分たちで発展させ、変える責任があるのだという主張の持つ力を認めることはできる。人がこの基本的な関係を受け入れるのに信心の有無を問われる必要はない。一緒に―広い意味で―生きている人間として、身の回りに目にする恐ろしい出来事は、本質的にわれわれ皆の問題であるという思いから逃れることはできない。それらはだれかほかの人の責任でもあるかどうかはともかく、われわれの責任なのである。 ー 経済成長、経済開発の数字的な側面に惑わされず、人が人間的な自由、つまり選択肢があり自分の幸福の観点により選択できる可能性、を享受できる度合いをみていくべきだ、と主張する論考。 20年以上前の作品。教育と基本的な医療の重要性とか、政治制度の違いによる飢饉の発生頻度とか、今でも解決していない重要な論点が語られている。 世界は確実に良くなってきているけれど、教育や医療、基本的な人権の尊重、生き方を選択出来る自由など、まだまだ行き届いてない事実は無視できない。 続けて『正義のアイデア』を読もう。この世に蔓延る不正義、理性的ではないものとどう対峙すべきか、今こそじっくり考える時期だと思う。
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これまでのセンの著作本以上に、民主主義・公開討論の重要性に光が当たっている本。 ポイントは、上記(これらは、手段として重要なだけでなく、それ自体が本質的に重要)に加え、経済開発だけが重要なわけではなく、それも含めた自由の多様化が重要なのだということ、agency:人が主体的、能動的に行動する力を強化できることの重要性、理性的に人々が自己・社会を変えていくことができるということ、何が重要であるかに視点を定めその領域についての情報の収集・付与に力を注ぐことの大切さ、 というところですかねー。 WB向け講義をまとめ直した本である模様。
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個人的に、真新しさは感じられなかった。 ただ、頭ではもやもやとわかっていることも、いざ文章にするのは難しいもの。その頭のもやもやを書き上げてくれている。 さまざまな要素が含まれているので、多少ねじ伏せた感はあるものの、さすが学者といえる。
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センの仕事の全体的な解説を行った著作。述べていることが多岐に割っているし、センの他の著作に比べると読みやすいし、新書で出ている講演よりかはセンの経済についての見方、その中での自由という概念をどういう風にとらえ、それが有効に機能するのかを示している点ではとても内容の濃い本になってい...
センの仕事の全体的な解説を行った著作。述べていることが多岐に割っているし、センの他の著作に比べると読みやすいし、新書で出ている講演よりかはセンの経済についての見方、その中での自由という概念をどういう風にとらえ、それが有効に機能するのかを示している点ではとても内容の濃い本になっている。基本的にセンの概念設計事態は決してわかりやすいものではないので、この本によってセンの考えが簡単に把握できるとは思わない。おそらくこの本で重要なのは、自由という権利を与えられた民主主義が機能することを貧困問題をベースにさまざま視点から見ていることだろう。その中で経済系な自由主義をどう考えればよいのか、アジア的な開発主義をどう考えれば良いのか、食糧問題、経済危機に対してどのように考えればいいのか示している。盛り沢山だが、センの問題意識が一貫しているため飽きずに興味深く読めた。
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ノーベル経済学賞受賞者による開発論。「自由」が開発に及ぼす効果についての考察は、その後の開発援助の趨勢に大きな影響を及ぼした。
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開発の目的は、GDPをあげるなどの狭義のものではなく、個人の自由を増やすことに照準を合わせなければいけない。すなわち、個人の潜在能力を伸ばすことが重要なのだ、センは言っている。アメリカの金融破綻からうかがえるように、倫理なき経済は一部の人間を肥やすだけで、国の富にはならないのかも...
開発の目的は、GDPをあげるなどの狭義のものではなく、個人の自由を増やすことに照準を合わせなければいけない。すなわち、個人の潜在能力を伸ばすことが重要なのだ、センは言っている。アメリカの金融破綻からうかがえるように、倫理なき経済は一部の人間を肥やすだけで、国の富にはならないのかもしれない。
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経済開発を権利の側面から論じた一冊。 そもそも市場に参入することが一種の自由であることは、 市場という言葉に対して過敏に反応する人々にはなかなか受け入れられないかもしれない。
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ノーベル賞経済学者の受賞後すぐの本。これまでのセンの成果を総まとめしたような位置づけになっている。自由って何だ?開発の目的って?貧困を潜在能力から見ると?など、センを知りたい人にはとっつきやすい一冊。
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人間の潜在能力(agency,empowerment)に焦点を当て、まことの豊かさとは何かを論じています。名著です!
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