恋愛の起源 の商品レビュー
明治以降、loveの翻訳語として使われ出した「恋愛」という言葉は、江戸時代までの日本人が親しんでいた「色」や「情」といった言葉とは異質なものであり、西洋への憧れと一体となって広まっていったと著者は言います。本書は、そうした「恋愛」という言葉や考えを日本人の間に広めるもっとも重要な...
明治以降、loveの翻訳語として使われ出した「恋愛」という言葉は、江戸時代までの日本人が親しんでいた「色」や「情」といった言葉とは異質なものであり、西洋への憧れと一体となって広まっていったと著者は言います。本書は、そうした「恋愛」という言葉や考えを日本人の間に広めるもっとも重要な媒体である明治期の文学作品を読み解き、そこに見られる近代日本の「恋愛」観の諸相を明らかにしています。取り上げられている作品は34作に上り、森鴎外『舞姫』や樋口一葉『にごりえ』『たけくらべ』、夏目漱石『草枕』『門』といった有名なものから、鴎外の妻である森志げの『あだ花』や、漱石と交流のあった大塚楠緒子の『離鴛鴦』『空薫』といった、あまり知られていない作品もあります。 著者は「恋愛」と「色」とのコントラストを強調し、「恋愛」には夫婦愛至上主義とプラトニック・ラヴの賛美という特徴があったと主張します。その上で、「恋愛」という観念は近代的な一夫一婦制の基盤となり、遊女や芸者を批判することで男女平等な社会を実現するための原動力となった一方、結婚に結びつかない恋愛を否定し、また女性に対する新たな抑圧をもたらしたことも指摘しています。 とはいえ、本書で扱われている数々の文学作品は、そうした「恋愛」という観念の中が人びとのコミュニケーションの形を一定の鋳型に押し込めてしまうのではなく、「恋愛」という一つの観念のうちにさまざまな男女の心理の綾を織り込んでいくような視線が存在していたことを明らかにしているように思います。
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