石の幻影 の商品レビュー
表題作の他に短編が5つ。 3つはすでに読んだことがある話だった。 表題作は最初の方はカフカを彷彿とさせるようなよくわからない不安があって好きだったけど、後半は一気にSFになってしまって個人的にはブッツァーティの作品の中ではあまり好きな話ではなかったかもしれない。 今回初めて読...
表題作の他に短編が5つ。 3つはすでに読んだことがある話だった。 表題作は最初の方はカフカを彷彿とさせるようなよくわからない不安があって好きだったけど、後半は一気にSFになってしまって個人的にはブッツァーティの作品の中ではあまり好きな話ではなかったかもしれない。 今回初めて読んだ『誤報が招いた死』と、すでに読んだことはあったけど『海獣コロンブレ』が何度読んでも良かった。
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ふうがわりなSF恋愛(?)小説。 ある研究者が軍事機密に属する施設に招かれるのだが、人格をもった建物を研究してほしいという。 しかも、その人格、開発者の亡き妻をモデルに組み立てられたのだ。 高度な計算能力や知性をもつ、ばかでかい堅牢な石の外壁の、人間の女性。 その建物が、生前友人だった友達と出会い・・・。 愛というのは手前勝手なものなのか、孤独な建物に変えられてしまった女性が悲しかった。 ほか、光文社の『神を見た犬』に含まれる短篇(コロンブレ、1980年の教訓、謙虚な司祭)と誤報が招いた死(7階を彷彿とさせる)、拝啓新聞社主幹殿を含む。 新聞社主幹殿は、この原稿をだしたとき、編集者はドキッとしただろうなと想像したら笑ってしまった。今までブッツァーティが書いてきたのではない、ゴーストライターが書いていたのだと告白しているのだから。 ユーモリストブッツァーティの側面も堪能できる、良作の短編集だった。
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表題の作品はSFチックでありながら人間の心を動かす作品。短編もかなり心を動かす。海獣コロンブレとかの読後の寂寥感が半端じゃない。ブッツァーティはマジで天才だと思う
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「石の幻影」の他、『コロンブレ』より選ばれたという短篇5篇収録。 短篇集と銘打たれてはいるが、表題作は本書のほぼ五分の四を占める長さである。 “陽気だが小心なところも”ある、電子工学教授エルマンノ・イスマーニが、国防省より呼び出され、秘密軍事基地に住みこむことを打診されるところ...
「石の幻影」の他、『コロンブレ』より選ばれたという短篇5篇収録。 短篇集と銘打たれてはいるが、表題作は本書のほぼ五分の四を占める長さである。 “陽気だが小心なところも”ある、電子工学教授エルマンノ・イスマーニが、国防省より呼び出され、秘密軍事基地に住みこむことを打診されるところから物語は始まる。 その基地がどこにあるかも、どのような機能をもった施設であるのかも、そこで自分が何をすることになるのかもわからないまま、兵士たちの中継ぎによって基地へと向かうことになるイスマーニの道中は、その謎めいた雰囲気といい不穏な印象といい、ぐいぐい引き込まれる。 そのままイスマーニを主人公として話が進むと思いきや、基地到着後は、彼は背景へと退き、基地創設者エンドリアーデの、報われない愛の物語となっていくのだった。 深い渓谷を吹き渡る風の音が、いつまでも耳に残るような気のする作品である。 「海獣コロンブレ」「1980年の教訓」「謙虚な司祭」は『神を見た犬』にて既読。 改めて読んでみると、「海獣コロンブレ」は、しみじみ残酷なお話なのであった。「1980年の教訓」でのドゴールの扱いは何度読んでも笑わせられるし、「謙虚な司祭」の二人の神父の愚直さにはホロリとする。 初めて読む「誤報が招いた死」「拝啓 新聞社主幹殿」は、いずれもブラックな味わい。
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読み出した途端、既視感が襲ってくる。それを振り払いたいともがくけれど、どうやらそこから抜け出すことは難しいと悟る。イタロ・カルヴィーノの「柔らかい月」がまとわりつくのである。 これをSFというカテゴリーに押し込めようとする気持ちが湧くことは仕方の無いことかも知れない。カルヴィ...
読み出した途端、既視感が襲ってくる。それを振り払いたいともがくけれど、どうやらそこから抜け出すことは難しいと悟る。イタロ・カルヴィーノの「柔らかい月」がまとわりつくのである。 これをSFというカテゴリーに押し込めようとする気持ちが湧くことは仕方の無いことかも知れない。カルヴィーノの月がハヤカワの一冊であるように。しかしここにあるのはSFではなく、科学信仰ということに投影された現代社会への強烈な批判的精神である。その切り口の角度の低角であることに共鳴する自分が存在することを意識する。 その一方で、その鋭利な刃物の行く先が余りに単純化された結論であることに違和感も同時に覚える。どの逸話にも同様に用意されている解り易い結論。単純化された悪。そのどれ一つとして受けいることはほとんど不可能である。 もしもその結論さえなければ何かがずしりと残りそうであるのに。舞台設定、話の展開、それはとても魅力的であるのに。不思議な読後感が残り、ブッツァーティをカルヴィーノに重ね合わせた自分に不信感が芽生える。
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表題作中篇「石の幻影」と短篇を含む。『神を見た犬』に収録されている短篇も多いため、初読は「石の幻影」と「拝啓新聞社主幹様」のみ。 石の幻影は、前半はカフカの「城」を彷彿とさせる謎めいた雰囲気が好きだが、後半がらりと雰囲気が変わってSF色が強い。個人的にはブッツァーティらしい意地悪...
表題作中篇「石の幻影」と短篇を含む。『神を見た犬』に収録されている短篇も多いため、初読は「石の幻影」と「拝啓新聞社主幹様」のみ。 石の幻影は、前半はカフカの「城」を彷彿とさせる謎めいた雰囲気が好きだが、後半がらりと雰囲気が変わってSF色が強い。個人的にはブッツァーティらしい意地悪さが弱く感じられた。『神を見た犬』のほうがオススメ。
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絶品。本当にその一言で良い。「誤報が招いた死」が特に良い。普遍の中でほんの少しの不穏を感じればいい。
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