寡黙な死骸 みだらな弔い の商品レビュー
やはり小川先生の連作短編集はいい。 明るい陽の下にいても包み込めない深い暗闇を抱えている人は、どこにだっている。そんな孤独と冷たい体温を持つ狂人と常人の間を行ったり来たりする人々のひとときを、虚構まみれの現実感と共に舞台に乗せた物語。 「洋菓子屋の午後」冷蔵庫で窒息死した息子...
やはり小川先生の連作短編集はいい。 明るい陽の下にいても包み込めない深い暗闇を抱えている人は、どこにだっている。そんな孤独と冷たい体温を持つ狂人と常人の間を行ったり来たりする人々のひとときを、虚構まみれの現実感と共に舞台に乗せた物語。 「洋菓子屋の午後」冷蔵庫で窒息死した息子への誕生日ケーキを買いに出かけた母親…と、もうこれだけでもう小川洋子過ぎる狂気と幻想で眩暈がする。 「果汁」あのとき零れ落ちなかった感情が、滴る。その果実が山積みのキウイフルーツっていうのがまた…異様で…小川洋子すな…。 「眠りの精」ほんのわずかな時だけを共にした継母が、死んだ。その記憶は、息苦しいほどに穏やかで歪で、優しい手触りをしている。 「白衣」体のパーツが血にまみれずに登場するの、小川洋子だなって思う…。痴情のもつれと、それを傍観する赤の他人である私。 「心臓の仮縫い」収録作で一番小川洋子してる。心臓だけが体の外に飛び出ている女性のための鞄を特注して作った男の、思いの果ては…。ラストの途方もない怖さと、情熱的なはずの行為なのにあまりに冷ややかな空気感も含めて、小川洋子過ぎる。 「拷問博物館へようこそ」〇〇博物館ての、やっぱ小川先生好きなんだな…。 「ギブスを売る人」まさか博物館紳士がこんなに出てくるとは…。しかしこれは一つ の、幸せな最期なのかもしれない。 「ベンガル虎の臨終」どこかでまた、美しい獣がこの世からいなくなったかもしれない。その瞬間を共に過ごせたあなたは、果たしてどうする。 「トマトと満月」独りよがりでも、どう思われようとも、構わない。そんな狂気をごく当たり前に手にすることができたなら。 「毒草」収録作で一番、悲しいおはなし。身勝手でも何でも、会いに来てほしかった。
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「博士の愛した数式」の作風を想像して読んだら、思いのほかホラーで驚いた。それぞれの短編が少しずつリンクしていて、宝探しするような気分で読み進めることができた。
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図書館で借りた本。 不思議に話の繋がった短編が11編。 それぞれの繋がりを書き出して読み返したくなる。 ただ、ハムスターとベンガル虎の亡くなる様が心につくささった。
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図書館で予約した本を手渡されたときには この表紙にギョッとしてしまったが 読めばこの絵が最高にマッチしているのだった。小川さんのこういうミステリアスな作品が好きだ。ぞぞーっとするのだけど いつの間にかその狂気さえ 美しく感じられるようになるのが 小川マジックの恐ろしいところだ。
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死を取り上げた短編集。 いずれも現実なのか虚構なのか不思議な感覚が漂っていて惹きつけられる。 特に「心臓の仮縫い」が印象的だった。
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それぞれの話に「死」がありました。そして繋がりがあって面白かったです。あまりにも静かなので、死に気づかないときがありました(笑) 好きだな、これ。
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小川洋子勝手に集中プロジェクトの一環。97年の作品。この人の作品は、2003年の博士の愛した数式以降をぽつぽつとしか読んだことがなかったが、本作の文体はどこか妙に借り物っぽく、話も作り物くさく、技巧を尽くしているのにぎこちない。一方で身体に密着した感覚やドロドロとした不気味さがあ...
小川洋子勝手に集中プロジェクトの一環。97年の作品。この人の作品は、2003年の博士の愛した数式以降をぽつぽつとしか読んだことがなかったが、本作の文体はどこか妙に借り物っぽく、話も作り物くさく、技巧を尽くしているのにぎこちない。一方で身体に密着した感覚やドロドロとした不気味さがあってこちらは本当なんだろう。日本の女性作家はどこか怖い人が多いイメージだけど、この人は違うタイプかと思っていた。どこかでドロドロを浄化したのだろうか? 追記 文体の借り物くささは村上春樹ちっくなのですが、この方春樹ファンなのだそうで、納得。
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ひとつひとつの物語が互いに緩い関連を持った短編の連作でありながら、全体としてはエッシャーの絵画を思わせるような物語の迷宮。 何の変哲も無い街中のケーキ屋から始まる物語は次第に変容を見せ始め、半ばまで読んだらすっかり迷宮世界に迷い込んでいる。 最後まで読んだところで、すでにこの世界...
ひとつひとつの物語が互いに緩い関連を持った短編の連作でありながら、全体としてはエッシャーの絵画を思わせるような物語の迷宮。 何の変哲も無い街中のケーキ屋から始まる物語は次第に変容を見せ始め、半ばまで読んだらすっかり迷宮世界に迷い込んでいる。 最後まで読んだところで、すでにこの世界から抜け出せなくなっている自分に気付く。 グロテスクな描写が少しも禍々しさを感じさせないこの作家だが、物語自体は確実に読者の精神を侵食し虜にしてしまうような毒、あるいは麻薬を含んでいる。 トラウマを植えつけてしまいそうな樋上公実子によるカバーと挿絵も物語によく馴染んで迷宮のような世界をいっそう際立たせている。
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時計塔のある町を中心に描かれる様々な死。なかなかグロテスクながらも美しさも併せ持つ短編連作です。 短編それぞれの関連も入り組んでいて気づいたときにはおぉとなるし、とにかくモチーフが面白い。なぜにベンガルトラ?なぜにキウイ?それでも何故かすとんと納得できる不思議。 でもね、それより...
時計塔のある町を中心に描かれる様々な死。なかなかグロテスクながらも美しさも併せ持つ短編連作です。 短編それぞれの関連も入り組んでいて気づいたときにはおぉとなるし、とにかくモチーフが面白い。なぜにベンガルトラ?なぜにキウイ?それでも何故かすとんと納得できる不思議。 でもね、それより何よりタイトルが本当に良いと思うんです。
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「洋菓子屋の午後」から始まる11の短編集。 名前が出てくるのは、「老婆 J」のJさんだけ。 いろんな人が絡みつきながら、「死」を題材に話は進む。 少し狂気を感じさせながら。 お話も引き込まれるけれど、時々現れる絵も素晴らしい。 静謐さと温度の低さを感じ続る。 夏の場面でも。 ...
「洋菓子屋の午後」から始まる11の短編集。 名前が出てくるのは、「老婆 J」のJさんだけ。 いろんな人が絡みつきながら、「死」を題材に話は進む。 少し狂気を感じさせながら。 お話も引き込まれるけれど、時々現れる絵も素晴らしい。 静謐さと温度の低さを感じ続る。 夏の場面でも。 ずっと緊張しながら読んだ。 一気に読みたい作品。
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