邪眼鳥 の商品レビュー

筒井康隆(著者)

2016/02/21

　断筆宣言からの復帰第１作というので飛びついたものの18年間寝かしておいて読んだ。当然、寝かしておいても熟成はしないし、文庫版も今のところ絶版のようだ。

　70歳代の父が40歳代で異常な美貌の後妻を残して死ぬ。遺産分与の跡に兄弟妹の３人のきょうだいが集まる。美貌の義母、弁護士、そしてなぜか跛の芸人が同席している。父は何を生業としていたのかはわからないが相当の財産を持っているらしくかつて子どもたちに「一山当てた」と言っていた。ただ若い頃は歌手だったことがわかっており父の歌った歌「夏の初戀」のレコードがそこで披露される。
　その発端から義母の美貌に執着する兄、隠された財産に執着する弟、父を思慕し続ける妹、それぞれの執着ゆえに彼らは時空を歪ませて破滅へと進んでいくという中編。
　読点のほとんどない文章、段落の途中からの唐突な場面転換など例によって記述上の実験が使われているが、内容的にはマジックリアリズムの系譜をということになろうか。「夏の初戀」が狂言回しのように夢幻的な雰囲気を醸す一方、芸人のナンセンスな芸を長々と描写したりして夢幻は悪夢へと転じていく。
　「邪眼鳥」とは作品中でしばしば言及される誰それの作品なのだが、実在するものではなく、いかなる象徴なのかもわからない。

　残り４分の１ばかりは短編「RPG試案─夫婦遍歴」、復帰作として「邪眼鳥」とほぼ同時に発表されたもの。ある夫婦の遍歴が描かれるが、それがロールプレイングゲームだと言いたいのか。「夫」と「妻」と描写されるだけで名前が出てこない。話はしばしば夢の中にはいってしまい、夢も現実も等価なものとして描かれているという手法のマジックリアリズムというところか。

　いずれも映画やドラマにしたらよさそうな感じの映像的な作品である。「断筆」中は主に演劇活動をしていたというので、その影響かも知れない。

2009/10/07

タンゴの甘美な響きが入谷家の運命をゆっくりと狂わせる…。二重三重の謎を秘めた亡き父の財産は何処に?遺族たちが踏み込んでしまった恐るべき時空の迷宮とは?息詰まるような興奮と官能にあふれた超因果ロマンの傑作「邪眼鳥」に、同時発表された復活作「RPG試案―夫婦遍歴」を併録した待望の作品集。

2009/10/04

タンゴの甘美な響きが入谷家の運命をゆっくりと狂わせる…。　二重三重の謎を秘めた
亡き父の財産は何処に?　遺族たちが踏み込んでしまった恐るべき時空の迷宮とは?
息詰まるような興奮と官能にあふれた超因果ロマンの傑作「邪眼鳥」に、同時発表された
復活作「RPG試案―夫婦遍歴」を併録した待望の作品集