1,800円以上の注文で送料無料

夢見つつ深く植えよ の商品レビュー

4.1

10件のお客様レビュー

  1. 5つ

    3

  2. 4つ

    3

  3. 3つ

    2

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2023/02/28

ベルギー生まれアメリカ育ちの詩人メイ・サートンは46歳のとき、亡き両親が故郷から運んできた家具と一緒にニューハンプシャーのネルソンという村にある古い家へ移り住む。それはじっくりと孤独を味わい、家や庭と対話し、新しい土地に少しずつ分け入っていく日々のはじまりだった。ひとり暮らしの理...

ベルギー生まれアメリカ育ちの詩人メイ・サートンは46歳のとき、亡き両親が故郷から運んできた家具と一緒にニューハンプシャーのネルソンという村にある古い家へ移り住む。それはじっくりと孤独を味わい、家や庭と対話し、新しい土地に少しずつ分け入っていく日々のはじまりだった。ひとり暮らしの理想と現実を省察するエッセイ。 田舎の古くてデコラティブな家をリフォームして、自分の好きに絵や庭で摘んだ花を飾って住む……赤毛のアンが10代の頃の夢を叶えたみたいな生活。サートンはヨーロッパにある家族のルーツと、アメリカで育ってきた時間が融合する場所として新たな住処をコーディネートしていくのだ。 ステキな生活というだけではなく、自分のなかの「鬼」と闘う詩人の孤独な執筆活動を描いたエッセイでもあり、そんな彼女がコミュニティになじんでいくまでのドキュメンタリーでもある。サートンは隣近所の人びとをとても魅力的に描く。古い家に気配を残しているたくさんの”幽霊”たちのことも。動物や植物もサートンの手を焼かすが、彼女に天啓を与える大事な存在だ。「庭づくりは人に、あらゆるものについての平衡感覚をあたえてくれる、ただし庭自体は例外だけれど」。ひとりの偉大な老人の死として語られる楓の伐採も忘れ難い。 訳者の武田さんが「完結し美化された世界」と書いているとおり、本書はサートンが田舎暮らしの美しい部分をすくいあげて綴った、憧れの結晶みたいなものだと思う。最後の章ではじめて彼女はネルソンへの失望を語る。それは土地により深く入りこんでいくために必要なプロセスだったのだろう。だが、新参者だからこそ楽しげに語られる美化された日々には、その時間にしかないきらめきがあるのもたしかなのだ。

Posted byブクログ

2022/03/25

古書店で老境に入った際の続編日記を手に取る。 田舎の隠居小屋で1人キャスリーン・フェリアを聞く老女流詩人のえもいわれぬ雰囲気に惹かれ、まず1作目を。 訳者も上手で、自然の中での暮し、淡々と過ぎつつも奥深い日常が染みいる。 <その他の書籍紹介> https://jtanigu...

古書店で老境に入った際の続編日記を手に取る。 田舎の隠居小屋で1人キャスリーン・フェリアを聞く老女流詩人のえもいわれぬ雰囲気に惹かれ、まず1作目を。 訳者も上手で、自然の中での暮し、淡々と過ぎつつも奥深い日常が染みいる。 <その他の書籍紹介> https://jtaniguchi.com/tag/%e6%9b%b8%e7%b1%8d%e7%b4%b9%e4%bb%8b/

Posted byブクログ

2019/08/25
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

母が良いわよ、と言っていたのを思い出して、母から借りて読んだ。 すっごく良い。40代独身女性詩人、田舎で家を買う、と言う話なんだけど、古い家、庭造り、植物と動物たち、友人や隣人、「幽霊」たち、そういう暮らしの全てへの真摯な向き合いが綴られている。なにより孤独の中で自らの感情と思索へ真っ向対決していく苦しみ、強さ。 作家の苦しむ「鬼」の話は面白かった。こんな人でもこれに苦しむのか、という思いと、繊細な感性が残酷になぶられても鬼からすら逃げない作者の苦闘への尊敬の念。 詩作家だけあって繊細な描写一つ一つにうっとりさせられて、読んでいて文学少女みたいな気分になる。「長いあいだの悲しみが、私の野原で何度も見た朝もやのように、立ちのぼり、そして消えていった。」「羊毛のように厚く、やわらかい沈黙がみなぎるばかり。」 そうかと思うと示唆に富む力強い言葉がたくさん投げかけられて、ときめきと憧れが止まらない。「ただ静かにわが道をゆき、密使を送り出すほかない。」「外界は、感情の広大な反響にすぎない。」「夢見る想いを深く植えるために」 こんな風に世界を感じて、こんな風に書いてみたい。ほんとに年甲斐もなくただただあこがれてしまう。 作者は55歳で「時間が圧縮される」ことについて語っているけど、私はすでにそんなようなことを日々感じている。と思う。もしかして、今後もっともっと圧縮されていくのだろうか(恐ろしい…)。はたしてこれから「神秘的なやり方でそれは開いていく」ことをちゃんと感じられるかしら。夢見る思いを、深く植えなければ…。

Posted byブクログ

2018/08/09

読みたいと思っているうちに20年が過ぎてしまっていた。急に読みたくなって中古で購入。(購入できて良かった~) 書名は、私的には『夢見る想いを深く植えよ』のほうがしっくりくるかな。 友人クイッグの死を書いた箇所がよい。 「……それは世間的な成功をほとんど味わったことがなく、しかも...

読みたいと思っているうちに20年が過ぎてしまっていた。急に読みたくなって中古で購入。(購入できて良かった~) 書名は、私的には『夢見る想いを深く植えよ』のほうがしっくりくるかな。 友人クイッグの死を書いた箇所がよい。 「……それは世間的な成功をほとんど味わったことがなく、しかも創造しつづけ、あたえつづけることをやめなかったある人の、人間的な勝利だった。……」(p168) この一文を読んで、一気にメイ・サートンが好きになってしまった。 ほかにも好きな箇所がいくつかある。 「私は人の死に方は、その生き方あるいは愛し方と同じほどはっきりと、その人間の本質を見せるものだと、信じるようになった。私の母は、私がつきそっていた長い緩慢な凋落の月日を通して、一度も苦痛を軽くしてほしいと不平をいったり、懇願したりしなかった。彼女は閉じてゆく花のように自らを内部へと包みこみ『離してゆかせる』ために、彼女が愛したすべてのものから自分をやさしく切り離してゆき、ついには私たちには光、人間的なものを感じさせない光のように思えるまでになった。……」(p165) 優しさに満ちあふれたまなざし。 読み返すと、文章の美しさにも気づく。訳者の力によるところもあるのかもしれない。

Posted byブクログ

2010/03/16

一生持っていたい本のひとつです。 今は分からないかもしれないけれど、でも、この本をずっと手元に置いておけば、きっと年をとっていくということは恐ろしくない気がする。 まず、タイトルで…殺されます。 ノックアウトです、このタイトルにまず。 大自然とともに生きたくなり、庭いじりをし...

一生持っていたい本のひとつです。 今は分からないかもしれないけれど、でも、この本をずっと手元に置いておけば、きっと年をとっていくということは恐ろしくない気がする。 まず、タイトルで…殺されます。 ノックアウトです、このタイトルにまず。 大自然とともに生きたくなり、庭いじりをしたくなり、花を大事にしたくなります。 たとえばこんな感受性が好き。 「冬は動物も人も、骨の髄までそぎ落とされる季節。しかし多くの動物は、冬を軽くいなすかのように冬眠する。一方われわれ人間は、高揚やうっ屈の感情の流れに、裸でさらされる」 「彼は林で藪を切り開き、私は机に向かい、言葉のしげみを刈り込む」 でもやはり最後のチャプターの文章、そしてタイトル由来であるサートンの詩がよいです。 「私が植えた梅が花を咲かせるまでに五年かかった。そして、集いあう白い花をぬって、高麗うぐいすがその炎のような色を見せに戻ってきてくれるまでに、さらに五年かかった。そして私自身は、ここに植えられてからまもなく10年を迎えようとしている…」 * 長いさすらいの実りを 収穫する祝福されたひとよ 大いなる遍歴ののちにようやく ふるさとへ船を向けた老ユリシーズにも似て 智恵に熟し身丈をのばして 夢見る想いを深く植えるために * 想いって「植える」ものなんですね… もう、その発想に、胸がいっぱいです。 私も植えられた場所でせいいっぱい枝葉を伸ばしたい。

Posted byブクログ

2009/12/31

この本を読み始めてすぐ、バージニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』の世界と重なった。バートン自身がサートンと同じような体験をしたことは、『せいめいのれきし』を読んで知っていた。農業社会だったアメリカで、しだいに都市化が進み、見事に手入れされていた農場が荒れ果てていく。何世代か...

この本を読み始めてすぐ、バージニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』の世界と重なった。バートン自身がサートンと同じような体験をしたことは、『せいめいのれきし』を読んで知っていた。農業社会だったアメリカで、しだいに都市化が進み、見事に手入れされていた農場が荒れ果てていく。何世代か前の人たちが懸命に森を拓き、手塩にかけてきた農場が無惨な姿に変わっていく。バートンが描き出す長い時間の流れは、サートンの本と共通するものだと思った。 両親がベルギーで使っていた家具に居場所を与える、広大な荒れた庭のある家を買い求めた最大の理由はこれだった。そして、ネルソンというニューハンプシャーの片田舎に移り住み、芸術的手腕で生活を切り開いている隣人たちに出会う。たとえば、庭師のパーリー・コール。ネルソン周辺の荒れた農場をそのままに捨て置けない彼は、サートンのもとを訪れ、庭の手入れを申し出る。庭を完成させていく姿勢の妥協のなさ、70をすでに越えたとは思えない働きぶりには、サートンならずともほれぼれする。 この引っ越しは、創作活動の障害となるとなるあらゆる人間関係の枝葉を取り払い、孤独な状態に自分を追い込むことも目的にしていた。人生の半ばで挑んだ厳しい戦いの場、この古い家にはそういう意味もあったのだ。

Posted byブクログ

2009/10/07

-二〇歳では人は不死身だが、五〇代も半ばを過ぎると、死の予覚のために、時間がまったく異なった意味をもちはじめる- 賢く、強い女性が自然と向き合う中で哲学する感が、アン・モロー・リンドバーグの「海からの贈り物」を思い出す。40歳になったら読んでほしい一冊。

Posted byブクログ

2009/10/07

まず、なまじ文系の脳味噌なんかを持っていたらこのタイトルの耽美さにうっとりすると思う。すばらしくてすばらしくて何もかもにうらぶらしさを思って嘘っぽい自分にチーズなんかをぶちまけた、そうやった年代物の篭った臭気、瘴気が鼻をつく。そして溺れる。溺れた。

Posted byブクログ

2009/10/04

一軒の家に出会い、住処として我がものとするまでの軌跡。自然と自らとに対峙し、周囲に息を吹き込んでゆくサートン女史の素朴で丁寧な暮らし…まさに夢を植え込んでゆくような。

Posted byブクログ

2009/10/04

サートンのように小さな一軒屋に住み畑を耕し花を育てる生活、遠い夢でも心意気だけは「Plant Dreaming Deep」!

Posted byブクログ